第四十話 一部の人間には残念なお知らせ


 七月七日の木曜日。いろんな場所で七夕の竹が飾られ、そこに吊るされた短冊にはいろんな願い事が描かれていた。


 GEが居なくなりますようにとか、お父さんが元に戻りますようになどという願い事も多いが、その願いは人類が実力で叶えるしかないだろう。


 いつも通り早めに教室に向かうと、そこで宮桜姫みやざき達が小型のノートパソコンの画面を覗き込んでいた。


「おはよう」


「あ、おはようございます。昨日は妹を助けていただいてありがとうございます」


「アレは俺だけの力じゃない。楠木達にもお礼は行ったのか?」


「おはようあきら。ちゃんとお礼は言われたよ。鈴音すずねちゃんからもね」


「そうですね~、あ、おはようございます~」


 伊藤や楠木も一緒にノートパソコンの画面を見ているが、何か面白い事でも書かれてるのか?


 一瞬だけ見えたが、アレは対GE民間防衛組織のホームページだったよな?


「この居住地域のAGEに例の残影ゴーストの注意喚起がされてるね。GE共存派や環状石ゲート崇拝教の可能性もありだって」


「昨日あんな事件が起きたばかりだからな。そういえば妹さんは大丈夫だった?」


「今日は対GE民間防衛組織に呼び出されて、一連の流れとかを聞かれているみたいです。何処で知り合ったのかとか、どんな車を使っていたのかを……」


「車両に関しては協力者がいなければ入手できないだろうし。そっちから探り出すつもりかもしれないな」


 おそらく警察と協力して捜査を始めるに違いない。


 早めに探し出さないとまた犠牲者が出るかもしれないし、もしかしたら既に他にも犠牲者が何人もいる可能性すらある。


 しばらくして窪内くぼうち達も登校してきたが、なぜか神坂かみざかは完全に死んだ目をしていた。……大丈夫なのか、あれ?


「おはようっス」


「おはよう。あいつはどうかしたのか?」


「おはようございます、皆の衆~。蒼雲そううんはんはいつものアレでんな」


「いつもの? ああ、ライブチケットの予約に失敗したのか。そういえばいろいろあるって言われてたけど」


三女神ヴィーナスのライブが来週末にあるんだ。この居住区域のランカーはうちのメンツだけだし、セミランカーも数人だろ? チケットはとれると思ったんだが」


 ライブイベントの時はこの国の防衛軍が威信をかけて奪還した鉄道網を利用して、他の居住区域から人が来たりするからな。


 居住区域間の移動は結構制限されているし、運賃は以前の五倍以上するのにあれを使えるなんて凄いぜ。


「ライブイベントの為に居住区域間の移動許可が出るのか?」


「多くはランカーやセミランカーだしな。後は対GE民間防衛組織に金を出している企業関係者だ。大企業が多いし、強引に許可位取り付けるさ」


「そういう訳で、神坂さんは朝からこんな感じっス」


「ご愁傷様。そういえば織姫おりひめヒカリも来週末にライブがありますとか言ってたな」


 昨日の夜にメールでな。


 関係者専用のチケットを贈りましょうかなんて言ってたが、俺は別にライブイベントにそこまで興味が無いから断ったんだよな。


織姫おりひめヒカリか~。確か双子の妹さんがいるんだよね?」


「よく知ってるな。その情報もあまり知られていないんだぞ」


「デビュー直前の頃に少しだけ話題になってたよね? 彼女はこの居住区域出身だから噂で聞いたんだ~」


 織姫おりひめヒカリは双子なのか……。


 ふいにあの時、左手のリングの機能を切っていたことが妙に引っかかった。まさかな……。


「よし、全員揃っているな。今日は重要なお知らせがあるぞ」


 担任の山形やまがたが出席を取った後でそんな事をい出した。


「需要なお知らせ? また何かあるのか?」


「時機的にじゃないか?」


「まさかな」


 神坂かみざかはまさかなんて言っているが、この時期に重要な知らせって言ったらあれに決まってるだろう。


凰樹おうき達はホテルに泊まっていたから知らないかもしれないが、期末テストの曜日が決まった。範囲は水曜日に発表しているんだが……」


「その日はちょうど環状石ゲート攻略作戦で公休を貰っていますね。範囲の方は教えて貰えるんですか?」


「お前たち用に全教科分の試験範囲が書かれたプリントを用意した。試験期間は来週の月曜日から水曜だからしっかり勉強をしておけよ」


「マジかよ……」


 いや、真面目に授業を聞いてりゃテスト勉強なんてする必要はないだろ?


 うちの部隊で男連中だとテストの成績がいいのは窪内くぼうちくらいか?


「部活動は全面禁止なんだが、GE関連の部だけは活動が認められている。この辺りは国からの要望なので仕方がない」


「以前の様な異常発生時に、テスト期間中で活動できませんじゃ話にならないですしね。居住区域の安全が最優先です」


「そういう事だな。一応申請すればテストの免除もできるが……」


「先生!! 俺は申請したいんですが!!」


「神坂か……。学校が申請を受け付けてくれるのはランカーかセミランカーだけだぞ」


「こんなところにまでランク格差が……。窪内くぼうちっ!! すまん」


「今晩から試験勉強でっか?」


 同じ寮に住んでる強みというか、確か中間テストの時も窪内にいろいろ教えて貰っていたよな?


 というか、神坂の奴もそこまで頭は悪くないはずなんだが……。


「まじめに勉強するのは良いが、寮ではあまり遅くまで活動をするなよ。特に最近夜遅くにバイクで戻ってくる生徒がいるそうだしな」


「なんの話ですかね……」


 俺の活動がバレてるみたいだ。


 ある計画の為に毎日夜遅くまで拠点晶ベースの破壊をしてるからな。かなり計画は進んでいるが、そろそろ神坂たちにもなにをしているのかバレるだろう。


「赤点を取った生徒には追試もある。夏休みを楽しみたい奴はまじめに試験勉強をしておけよ」


「は~い」


 と言っても、この永遠見台高校とわみだいこうこうの赤点基準はかなり緩い。


 以前故意に難しい問題を出す先生がいたからだが、平均点の半分マイナス十点以下の者が追試と決まっているので該当する生徒は本当鬼少数だ。


 平均点が八十点の場合は赤点が三十点という事で、よほどの事が無い限り赤点を取る事は無い。


「それとこっちは警告だ。例の紙を発見した生徒は速やかに生徒会か教師に届ける様に」


「そんな奴いるのか?」


「毎回使ってバレる奴もいるが、証拠不十分で追試どまりだからな。運よく見つからなかった奴も多い筈だ」


「出所はいまだに不明だからな。いったいどんな手で拡散してるんだか」


「報酬を受け取らない上に情報拡散経路も不明。しかもテスト問題が作り直せない時期にばら撒くから、そのままテストを行うか中止するかの二択って良く考えているよね」


 ある時は混雑した食堂のテーブルに小さく畳んで放置され、ある時は教室の窓枠に挟んであり、またある時は掃除ロッカーのバケツの中に投げ込んであったりする。


 例の紙こと予測問題テスト用紙はテストの数日前から校内の様々な場所で見つかるが、それを利用するか捨てるかは拾った奴のモラル次第だ。


 ただし、様々な場所で見つかる予測問題テスト用紙には全問正解しても五十点分ほどしか問題が載っておらず、赤点回避はできるが満点を狙う場合はやはり自分で頑張るしかない。


「テストの採点だけでも面倒なのに、これ以上に仕事を増やすなよ」


「アレのお陰で生徒会と風紀委員は毎回大変らしいからな。特に生徒会副会長の喜多川きたがわは目の敵にしてるって話だ」


「怪しいとあたりを付けられている奴はいるが、あいつはそう簡単に尻尾を掴ませてくれる奴じゃないしな」


 情報技術部部長瀬野せの右三郎うさぶろう


 こんな真似をするのはあいつくらいだ。


 おそらく生徒会副会長の喜多川きたがわもそれくらいわかっているんだろうが、それをあざ笑うかのようにいつの間にか予測問題テスト用紙はばら蒔かれているからな。


 テストの件は問題ないが、俺の方はいろいろ問題を抱えている。


 試作型次世代トイガンの脆弱性というか脆いパーツは全部窪内が交換済みで問題は無いんだが、やっぱり毎日活動をしていると生命力ライフゲージが最大まで回復できない。


 装備より先に俺の方が限界に達しそうなんだよな。

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