第三十九話 プチ・フェアリー救出!!【神坂蒼雲視点】


 全力で現場に向かうと百メーター先のパチンコ店跡で小型GEライトタイプと戦っている小妖精プチ・フェアリーの隊員八名が確認できた。


 なるほど、俺たちのいた場所にGEが少なかったのはここに集まっていたからだな。


あきら、このまま突っ込むか?」


「いや、蒼雲そううんはそのままそっちのメンツと一緒に救援に向かって貰いたいが、俺たちはこのままこのミニバンで拠点晶ベースを破壊してくる」


「そうした方が帰りが楽だな。それじゃあ俺たちはこのまま救援に向かうぞ」


 という事は、あの子たちの救援は俺たちの仕事だな。


 しかし、向こうには荒城あらきあきらしかいなかったはずだが、あの二人だけで何とかなるのか?


おうさんやし何とかするやろ」


「そうっスね。あの特殊トイガンを使うあきらさんだと余裕な気がするっス」


「俺達でもあの威力だしな。元々倍近い威力があったんだ、今はどんな威力なっているんだか」


大型GEヘビータイプを特殊トイガンで倒せるとか?」


「ありえるな。グレード五くらいの特殊弾で倒しそうな気がするぞ」


 流石にグレード二辺りだと無理だろうが、グレード五だったら余裕で削り殺しそうな気がする。


 そんな事よりもあの子たちだな。あれだけ囲まれているのにまだ押し切られていないって事は、グレードの高い特殊弾を使っているって事か?


 中学生AGEなのに余裕のある部隊なんだな。


「俺が分身でGEを引き付けるっス」


「頼めるか? あそこから何割か引き剥がせればかなり楽になる」


「わてはそいつらの始末でんな」


「伊藤はここで索敵、竹中と楠木と宮桜姫みやざきの三人は車の周りで護衛だ。いつもと違ってここにはGEが攻めて来るから気を引き締めろよ」


「了解!! 聖華せいかも安心して索敵に専念してね」


「わたしも頑張る」


 正直楠木だけだと不安だが、竹中もいれば間違いはないだろう。


 車に乗り込む時点でこの編成にしたあきらには本当に頭が下がる。


 あいつは先の先まで徹底的に考えているんだろうしな。


「私は初任務だけど頑張るわ」


「今日は私たちと一緒だし、ここは見通しもいいから大丈夫だよ」


「注意するのは飛行型くらい。私が仕留めるから大丈夫」


 竹中も戦闘時は以前の様な口調に戻ってやがる。


 いったいどっちが素でどっちが演技なんだか……。女は恐えぇな。


「俺たちは救援だ。霧養むかい頼むぞ!!」


「任せて欲しいっス!!」


 全力で五十メートルほど走った霧養むかいがそこで数体の分身を生み出した。


 分身が生み出された瞬間、小妖精プチ・フェアリーの部隊を取り囲んでいる小型GEライトタイプの半数近くがその分身に向かい始める。って、あいつの分身はどれだけうまそうに見えてるんだ?


「GEまっしぐらやな」


「まったくだ。囮としてはこれ以上にない位に優秀だぜ」


「俺自身も戦力としても役に立つっスよ」


 霧養むかいが誘き寄せた小型GEライトタイプを窪内が一気に片付け、そして逃げ出したGEは俺と霧養むかいで一匹残らず倒す。


 こっちに向かってきた半数を残らず処理して、パチンコ店跡で防衛戦を繰り広げている小妖精プチ・フェアリーの救援に向かう。


 かなり圧力が減ったから冷静に近付いてくる小型GEライトタイプだけを確実に始末しているみたいだな。賢明ないい判断だ。


「……あの動き、熟練のAGEっぽいんやけど、こんなミスするもんやろか?」


「装備は良いし、高純度の特殊弾を使ってるみたいだからな。それにしてはあの子の動きなんてちょっとどうなんだ?」


 少し奥にいる小さい子は以前の楠木並の腕しかない。


 トリガーハッピーじゃないが、トリガーを絞って闇雲に特殊弾を撃ちまくってるだけでそこまで正確な射撃はできていないし、重点的に攻め込んでくる小型GEライトタイプを狙っている訳でもないぞ。


 逆に部隊長と思われるかなり小柄な少女は的確な指示を出している。


 救援要請を出して今まで無事だったのはあの子のお陰だろう。


「あ、GEが自壊し始めた」


おうさんが拠点晶ベースを破壊したみたいやな」


「流石っスね」


 まったくだ。向こうにどれくらいのGEがいたのかは知らないが、ガラ空きって事は無いだろう。


 それに拠点晶ベースの周囲には確実に中型GEミドルタイプがいる。


 この短時間でそれも含めて殲滅したって事だろうしな。


「これでこの辺りも安全区域だね。あそこにいる小妖精プチ・フェアリーの方々に挨拶位していかない?」


「そうだな。あれ? あそこにいるの……」


 小妖精プチ・フェアリーの隊員のうちの一人。ひときわ小柄な少女が宮桜姫達の方に向かって手を振っていた。


 確かあの子は周りの隊員に指示を出してた子だけど、あの子が部隊長なのか?


「おーねぇーーーちゃ~ん!!」


「す……鈴音すずね!!」


「あの子お前の妹なのか? AGEだったんだな」


 あの日あきらに向かってあんなことを言っていたのに。


「私も初耳です」


「助けに来てくれてありがとうございます。グレード四も割と持ってきてたんだけどGEの数が多すぎて……」


「フルカスタム専門メーカー、究極システム社アルティメットのM4A1アルティメットショートカスタムマックス。初めて見ましたわ」


「実際目にするのはわても初めてでっせ」


 フルカスタム専門メーカー究極システム社アルティメット。帝都に本店を置くGE用の超高級特殊改造トイガンメーカー。


 販売価格が最低でも百万以上するが防衛軍特殊兵装開発部とも繋がっており、俺達の様に坂城の爺さんと知り合いでも無ければ手に入らない様な装備を入手できる数少ないメーカーのひとつだ。


 中のブラックボックスの性能も、おそらく他のAGE隊員の者とは比べ物にならないだろう。流石にチャージ機能はついていないだろうけどな。


 あの子が身に纏っている他の装備もAGEに登録したばかりの学生たちが持っているような中古流れの二級品じゃ無くて、防衛軍装備AGE仕様の最高級品だ。おそらく防御力と攻撃力がずばぬけているあの子が先頭に立って、的確な指示を出しながらGEを撃退していたから部隊に犠牲者が出ずに済んだのだろう。


「鈴音ちゃんがいなかったら私達全滅してたよ」


「此処で石になって、ずっとそのままだったと考えただけで……」


「で、どうしてこんな無茶をしたの? 私に正直に話なさい」


「お……お姉ちゃん」


 宮桜姫が完全に姉モードになってるな。


 実際、俺たちが来なければ全滅していた可能性はあるし、姉としては説明が欲しい所だろう。


「他の部隊の人と一緒だったんです。あの人達いざとなったら俺達が特殊ランチャーで拠点晶ベースを壊すからって言ったんです。安全な場所からこんなに離れたここでGEを撃退するって……」


「共闘を申し込んできた浅犬あさいぬさん達の部隊は、ここに着いて暫くしたらいつの間にかいなくなっちってたし……」


「浅犬? もしかしてその共闘した部隊って、浅犬あさいぬ藤太とうた残影ゴーストか?」


「はい、そうですけど……」


残影ゴースト、活動間もない経験の浅い部隊を狙って共闘を申し込み、戦闘区域の奥に友軍を置き去りにしていつの間にか姿を消す味方殺しの常習犯だ。


 対GE民間防衛組織で指名手配されている上に新人が多い部隊には注意喚起されている。とっくの昔にAGE資格を剥奪されているが、時折通常のメールで共闘申請などを送り付けては共闘相手を戦場に置き去りにしている。


 魔滅晶カオスクリスタルの強奪などをしているという話は聞かない為に、浅犬あさいぬ藤太とうた率いる残影ゴーストの目的は不明なんだよな。


 一部ではGE共存派や環状石ゲート崇拝教の先兵だと噂されているが、浅犬あさいぬの一派が捕まってないのでその真偽の程は分からないままだったりする。


「アイツこの辺りで活動してやがったのか。そいつは有名な友軍置き去りの常習犯だ。対GE民間防衛組織からも指名手配されてるぞ」


「そうだったんですか……」


「全員無事だったのは不幸中の幸いだったな。此処まではどうやって来たんだ?」


「浅犬さんの運転するマイクロバスです。他にも部隊の人が三人いたんですけど……」


「そうなると此処から戻るのに徒歩か……、完全廃棄地区じゃないからそこらにある車を借りる訳にもいかないし」


 廃棄地区に放置されている車は昔のガソリン車が多いから動かない事も多いけどな。


 今は魔滅晶カオスクリスタルを使った発電システムや超性能のバッテリーがあるから電気自動車だけになっているが……。


「全員で十六人。今回はマイクロバスとバンタイプの二台だから、荷物をトランクに突っ込めば乗れるんじゃないっスか?」


「小柄な子も多いしな」


 装備は多いが今手に持っている装備以外は浅犬あさいぬ達が持って行ったんだろう。十六人分の装備ともなれば普通車であれば運転手だけ残しても積みきれない。


 バンタイプ二台だった場合は本当にギリギリで、今回はマイクロバスがあった為に若干の余裕がある。


「鈴音達は装備も纏めてマイクロバスの方で良いかな? 後でどうしてAGEなんてしてるのかって事も聞きたいしね」


「聞きたい? どうせなら凰樹さんがいた方が良いんだけど」


「やっぱりその話は家でゆっくりと聞くね………」


 しばらくするとあきらが戻ってきた。


 宮桜姫の妹を見て驚いていたが、そりゃそうだよな。


 あの子が永遠見台高校とわみだいこうこうに乗り込んできたのが、僅か半月くらい前の事だし……。

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