第三十八話 ちょっとしたお試し戦闘


 七月六日の水曜日。


 俺は昨日の夕方も単独での拠点晶ベースを繰り返した訳なんだが、武器に関してはまだ予備がいくつもあったんで一昨日使った武器を窪内くぼうちに渡して俺は別の同じ特殊トイガンを使わせて貰った。


 やはり新型の性能は今までの特殊トイガンとは桁違いで、俺が使えばほとんど生命力ライフゲージを使用する事なく拠点晶ベースの破壊を行える。


 この単独での拠点晶ベース破壊はちゃんとした目的があってやっている事なんだが、神坂あたりに知られるとまたいろいろと小言をいわれるだろう。


 今日はこの試作型次世代トイガンを試す為にランカーズのメンツで比較的近場にある戦闘区域に来ている訳なんだが……。


「そんな新型が届いているとは知りませんでしたわ」


佳津美かつみの分もあるぞ。流石に家の方には送れないだろうし、ここに送れば確実に手元に届くと知っているんだろうしな」


「GE対策部に入部したのは昨日の事ですのに?」


「入部していなくても調整した試作型次世代トイガンこれを渡すこと位できるからな」


 昨日の放課後、佳津美かつみが訪ねてきて正式にGE対策部に入部した。


 今までずっとソロで頑張っていたが、環状石ゲート内部での俺との共闘がよっぽどハマったのか今後は俺と組んで戦闘をしたいそうだ。


 俺としても佳津美かつみが傍にいてくれるといろいろと助かるしな。


 それと佳津美かつみ今までの変装は解いて、本来の姿に戻っている。スタイルもいいし、普通に美人なんだよな……。


「流石に私の分は無いよね?」


「あったら怖いぜ!!」


 佳津美かつみの入部が決まった後、宮桜姫みやざきもGE対策部に入部したいという理由で訪ねて来た。


 俺は活動期間なんかの問題もあったので即座に断ったんだが、神坂や佳津美かつみが入部テストだけでも受けさせて現実を教えた方がいいといったので入部テストを受けさせてみたんだ。


 ところが宮桜姫は楠木よりも遥かに高得点を叩き出して入部テストに合格し、実力を示した上で正式にGE対策部への入部を勝ち取った。


 テストを担当した窪内が驚いたくらいなんでよっぽどの事だろう。


「その特殊トイガンの性能も悪くは無いんやけどな」


 宮桜姫が用意してきた特殊トイガンは日本エアガンJAG製のメーカーカスタム六十四式小銃で、グリップとストックの木目が綺麗だった。


 流石に試作型次世代トイガンの様にチャージボタンはついていないが、その機能を使いさえしなければ性能はかなりいい。


 日本エアガンJAG製のメーカーカスタムは非常に高価でこの六十四式小銃であれば百万円は下らないだろうし性能が悪い訳ないんだよな……。


「ただ知っての通り今回手に入った試作型次世代トイガン最大の特徴はチャージボタンだ。接近戦闘用の特殊小太刀とかと同じリスクがあるし、使いこなすには結構な時間が必要だと思う」


「この間の戦闘の時、二年の坂本君が特殊小太刀にチャージしたらいきなり生命力ライフゲージが二十減ったって……」


「ゲ!! そこまで減るのか?」


「慣れていないとそうなるらしい。慣れれば自分の好きな生命力ライフゲージを調整してチャージできるぞ。それと、俺がチャージしたら生命力ライフゲージが最大でも五しか減らない」


 そのあたりが最大の可能性もあるけどな。


 無尽蔵にチャージできても、戦闘不能な状態になると意味が無いし。


「……誰か試してみるか?」


「わたしが試してみようか?」


「確かにスナイパーの竹中は使用する可能性が高いと思うが……」


「今回はグレード二の弾を使う。中型GEミドルタイプがいれば威力が分かりやすいんだが、この際小型GEライトタイプでも構わない」


 今日繰り出したKNH地域は広い割に拠点晶ベースの数が多く、その為ひとつの拠点晶ベースの支配エリア内にいるGEの数が比較的少ない。


 試作型次世代トイガンの試射という目的があるしあまり多くのGEが居ても困る。逆に少なすぎても目的を達成できないからそれに都合のいい居場所を選んだはずだが。


「ここから十メートルくらい先の川沿いに紅点が四つ。小型GEライトタイプですね~」


「だそうだ。竹中、蒼雲そううん霧養むかいの三人が向かってくれ」


「了解。どんな威力か楽しみだぜ」


「それじゃあ行って来るね~」


 伊藤の指示に従って紅点に移動して次々に倒していく神坂達三人。


 途中で二体だけ中型GEミドルタイプが出現したが、グレード二の弾でも問題なく倒せることが確認できた。


「こいつは凄いな!! 最初のチャージが問題だが、それさえしてしまえば後は殆ど今までと変わりなく使える」


「でもチャージに割と個人差があるのは大きいっス。俺だと八くらいで済むっスけど、神坂さんだと十五も必要って」


「わたしも十五くらいかな? これでどのくらい攻撃できるのかは知らないけど、ここのメモリはこれだけ戦闘しても一割くらいしか減ってないよ」


 横についているチャージされた生命力ライフゲージのメモリ。


 おそらく左腕のリングの技術の流用なんだろうが、これがあるだけでチャージ機能が格段に使いやすくなる。


 今までの特殊小太刀に付けてくれていれば楽だったんだが、新型の特殊小太刀にもついていない事を考慮すると割と大き目の部品か何かが必要なんだろうな。


「やっぱりチャージ機能には個人差があるな。最初にチャージした後で経口回復剤を使えば生命力ライフゲージが最大まで回復するはずだが」


「それしかないのかな? 性能的には問題ないよ。ただ、精密な射撃をするには結構な調整が必要かも。それに連射もできないし」


「前のPSG-1はたつが最高の状態にカスタムしていたからな。あれと同じ状態にするのは苦労しそうだ」


「そうやな。全員分となると、前の銃から部品を抜いても数日かかりそうやで」


 今回はいろいろ変わっているからブラックボックスを抜き出して前の特殊トイガンに移植なんて荒業は使えない。


 という事で逆に今まで使っていた特殊トイガンから必要なパーツを全部抜き取って、試作型次世代トイガンに組み込んでしまおうという話だな。


「たった数日で出来るのが凄いんだよな」


「そうっスね。分解した後のあの細かいパーツを見ただけで頭痛がするっス」


「慣れんと無理やな。バラして組み立てられんようになる奴も多いでっせ」


「よく聞く話だ。それでメーカーに送ってかなり高額な手数料を取られたりとかな。新品に買い替えるって手もあるのに」


 新しく買う方が早い場合も多いが特殊トイガンは結構高い。


 AGEの中には何世代も前の特殊トイガンをニコイチとかキメラで使ってる奴らも多いし、割と貧乏な奴も多いからな。


 バラした理由の多くも修理代惜しさに自分で何とかしようと思ってって奴が多いし、新型なんてそんなに気軽に買い換えられないか。


「次は楠木達……。緊急通知? 救護要請が届いているな」


「場所はKNH五五六地区のパチンコ店跡か。所属部隊は……、永遠見台付属中学とわみだいふぞくちゅうがくのGE対策部、小妖精プチ・フェアリー?」


「お隣さんの中坊でっか。こんな場所までどうやってきたんやろ?」


 いくらAGE隊員でも流石に中学生で車の免許を持っている奴はいない。


 ランカーであればかなり特殊な条件を満たせば許可される事もあるけど、この辺りには俺たち以外のランカーなんていないしな。


 居住区域からここまで徒歩か自転車で来るには距離があるし、誰かに連れて来て貰ったのか?


「それは後で聞けばいいさ。急いで助けに行くぞ」


「了解。全員急いで乗ってくれ」


「わかりましたわ」


 人数が増えたので十五人乗りのマイクロバスと装備なんかを運ぶ為のミニバンで来ていたんだが、ちょうどよかったかもしれないな。


 状況次第じゃ乗せて帰ってやらないといけないだろうし、最悪可能性もある訳だが……。

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