第三十七話 偶然の救出劇
七月四日の夕方。
俺は坂城の爺さんが送ってくれた新型特殊バイクとその装備の感触を試す為に郊外を走っていた。ついでに試作型次世代トイガンも持ってきたからこいつの試射もしているんだが、こいつの性能もとんでもないな。
おそらく俺が使う事を最大限に考慮して調整してくれてると思うんだが、グレード二の特殊弾を使っているのにチャージ機能で最初に
俺がチャージすると
特殊トイガンは俺が使うと今までも二倍近い威力だったが、もしかするとこれ俺が使えばグレード一の特殊弾でも
「いったい誰が特殊トイガンにチャージ機能を付けようなんて考えたんだ? 慣れないと使いにくいのは間違いないが、この威力は心強すぎるぞ」
しかもこの試作型次世代トイガンの驚きの性能はそれだけじゃない。
今までは俺が特殊小太刀を使わない限り特殊ランチャーが必要だった
離れた場所からでも破壊できるのもデカいし、周りにいる
ちょいと試射程度の感覚で使っていたんだが、セミランカー用の経口回復剤を併用すれば一日に幾つも
「ただ、グレード五の弾をあまり使い過ぎると負担がデカすぎて各所に問題が出るのか、挙動が怪しくなる気はするんだよな。やっぱり一度
試射と言いつつ、すでに今日破壊した
ヘルメットのシールド部分だけじゃなくバイクの方にもレーダー機能と小型液晶が増設してあって、そこには近くで活動する何かが映し出されていた。
表示は超小型タブレットとかの表示と同じで紅点がGE、緑の点がAGE登録している誰かで灰色が石化した人間などだが、ここに青色の点が映し出されている。
青って事はAGE登録していない一般人の筈なんだけど、GE共存派や
ただ、あいつらは左手首のリングを壊している事も多いから、その場合はオレンジ色の点で表示される事も多い。
「青点の数はふたつ……。こんな場所に一般人?」
移動速度から考えて車を使っているんだろうが、足の速いGEに追いかけられているな。
これだけ追いかけまわされている事を考えれば、飛行タイプの可能性もあるか。
「助けるか?
追加でチャージを行った後でセミランカー用の経口回復剤を使って
坂城の爺さんは俺がこういった行動をする事も分かっているのか、この特殊バイクには特殊トイガンと特殊小太刀を収納するスペースが用意されていたりもするしな。
◇◇◇
状況的に考えればかなり危ない所だった。
この先の
しつこく追ってきていた紅点の正体は蛇型の
「危ない所でしたね。こんな所でいったい何をしていたんですか?」
「助けていただいてありがとうございます。もうダメかと……」
「もう大丈夫ですよ。此処からこのルートを通れば安全に居住区域に戻れます。この辺りの
本当に偶然なんだが、ここからだったら俺が実験的に破壊していた
しかも破壊したのは今日の事なので、俺が動いて無ければこの二人はここで石像に変わっていたことだろう。
どこの誰かは知らないが無茶をする。
「ここはまだ危険なんですよね? ちゃんとしたお礼を言いたいので安全な場所まで護衛していただけませんか?」
「わかりました。AGEの務めですから」
「ありがとうございます」
今日俺が開放した区域まで百メートルちょっとだが、その短い距離でもGEに襲われる危険性は残っているからな。
こんな所でのんきにお礼を言っててGEに襲われてはたまらないんだろう。
……周りにGEの紅点は無し。
無事に解放区域の道路まで辿り着き、元バス停の停留所で車は止まった。
別にこんな場所だから道路のど真ん中に止めていても誰にも文句は言われないし、こんな場所をこんな時間に通る車なんて他には絶対いない。
俺も武装を解除してバイクから降りたが、ヘルメットは被ったままだ。
「あの、改めてお礼を。私は
「私は
「
「はい。実は
話を聞けば、どうやら途中まで案内役の男が別の車で先導していたらしい。
そして廃棄区域に迷い込んだと言い残して急に速度を上げて、二人を乗せた車を振り切って姿を晦ましたそうだ。
本当だったらそいつもどこかでGEに襲われている筈なのに、そんな真似ができるのか? というか、そいつの目的はなんだ?
「GEの攻撃は受けていなかったんですか?」
「はい、運がいい事に何とか」
特殊な操作で表示を切る事が出来るし、ライブなんかの時には外す事もあるらしいからそういう事もあるんだろうけど……。
マネージャーの
ひとりだけダメージを受ける事もないだろうし、こんなことで嘘も言わないか。
「以前から私たちの様なアイドルを狙った犯罪を行う勢力がありまして……。連中はGE共存派の手下だという話もあります」
「情けない事ですが、連中の策に嵌められました。信用できる会社から派遣されてきた人だったんですが……」
「なりすましや入れ替わりは連中の得意技ですからね。最悪の事態にならなくてよかったです」
GE共存派の連中にはアイドルなんかを専門的に襲い、世間に絶望感を広める事を目的とする奴もいると聞く。
そいつらの殆どは既に当局に捕まり、徹底的な
「あの、お名前をお聞きしてもよろしですか?」
「凰樹輝です」
「え? もしかしてランカーズの?」
「なりすましじゃないですよ。ほら」
ヘルメットを脱いで素顔を晒してみる。
芸能関係者だったら情報には敏感だし、俺の顔を知っているだろう。
「わぁ、本当に凰樹さんだ」
「こんな場所で活動をしているAGEなんて貴方くらいですよね……。本当にありがとうございます」
「いえ、無事でよかったです。それじゃあ……」
「待ってください!! あの、メアドの交換とかして貰えませんか? 正式に今日のお礼もしたいので、その連絡手段が無くて」
「対GE民間防衛組織経由……、今は不可能か。えっと、個人用のスマホになりますよ」
一般人から俺たち宛てで送られてくる対GE民間防衛組織経由のメールなどはすべて止められており、仲間内でやり取りする時は個人のスマホでやるしかない状況になっている。
そのスマホの方も登録していないと届かない仕組みなので、俺達からメアドを教えた上でこっちで承認して事前に登録しないとメールが届く事は無い。
「ありがとうございます。友達に自慢しちゃいますね」
「
「今は話題性があるしどちらがって事でしたらあなたの方が有名人よ。このことを話してもいいかしら?」
「別にかまいませんけど、失態にならないんですか?」
「そこは上手く立ち回るわ。この業界も何か話題が無いと厳しいのよ」
GE共存派に嵌められて絶体絶命の危機に今話題のランカーズに助けられる。
今回の一件で怖い目にあっただけじゃなくて、少しだけ収獲があった方がいいんだろうけどさ。
「あの、近いうちにメールします」
「わかりました。そろそろ帰らないと、明日の授業に響くとまずいので……」
「そういえばまだ学生でしたね。ではまた何かの機会に」
今回の件を理由にして何か話を持ってくるつもりなのか?
ライブイベントにご紹介って事だったら神坂の奴が喜ぶんだろうが……。
明日のフラワーズの外にもいくつかライブイベントがあるって話だし、
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