第三十六話 送られてきた試作武器
最優秀名誉学生章を授与されたその日の放課後。GE対策部の部室では流石に色々変わった状況に戸惑って、今まで通りに活動という訳にはいかなかった。
ホテル軟禁後初の部活ではあるし、今のこの状況がカオスすぎるって事もあるが。
「流石にこの状況はまずいと思うんだ。一度話し合いが必要だと思わないか?」
「そうでんな」
「その状況に慣れる事は無いだろう」
「え~、なんで?」
「お前のその態度が問題だ。そろそろ限度を超えるぞ」
部活開始からずっとだが、竹中は俺の隣の席に座って俺の左腕に抱き着いたままだ。
俺に好意を向けてくれているのをうれしくは思うが、俺にも立場があるからな。
「そうやな。それくらいにしとかんと、そろそろ
「一線を越えた後の
流石に窪内や神坂は何度か俺が怒った現場を見ているから感情が籠っているな。
俺がまだ子供の頃にはその一線を越えて利用してやろうっていう馬鹿な部隊長とかも割といた。
部隊で碌な兵力や装備も用意できないくせに俺が使う特殊小太刀だけを頼りにして出来もしない
俺は神坂たちと血路を開いてどうにか逃げ出したが、現地で俺達と敵対した奴らは当然の様にその場に置き去りにした。あんな馬鹿げた連中に付き合ってられるかよ。
「そうだね。ここまでやっても駄目っぽいし、あきらがその気になってくれるまで気長に待つ事にする」
「隣の席にいるのは変わらないんだな。今更席を移動するのも面倒なんだろうが……」
「この位はいいだろう。ん? トラックか何かが来たみたいだな」
「何か頼んでたか? 皆結構なポイントを稼いだから頼みたい放題だろうけど」
「ここに届く荷物は無いと思いますが~」
そりゃそうだよな、個人的な物はここではなくて学生寮の方に届く。
あまり他人に見られたくないものも多いだろうし、大きいものだとここから寮に持って帰るのも大変だ。
「すいません、お届け物です。首都にある対GE民間防衛組織本部様と防衛軍特殊兵装開発部様からで、出来るだけ早く届ける様にと言う事でしたので……」
「特殊兵装開発部? また坂城の爺さんが作った試作の新型装備かな?」
「あの時の武器は全部送ったからな。手持ちがなかったからありがたいのは間違いない」
特殊小太刀は壊れていたし、愛用していた特殊トイガンの方も一緒に送ったからな。
今のところ急いで破壊する
「何処に運びましょうか?」
「両方奥の倉庫にお願いします。クレーンとか必要そうですか?」
「大きな物もありますので、出来たら使わせて頂けると……」
坂城の爺さんから送られてくる物はかなり重量がある事も珍しくなく、搬入にクレーンを必要とする場合も多い。
トラックの運転手は慣れた手つきでクレーンを操作して倉庫の一角に並べ終わった後、書類に受領印を押して帰って行った。
「防衛軍の差出人はやっぱり坂城の爺さんだな。そっちは申請補給物資と試作武装か?」
対GE民間防衛組織本部から届いた物は以前申請していた小麦粉やバター、それにクラッシュアーモンドにスライスアーモンド、各種ナッツ詰め合わせなどクッキーなどお菓子つくりに必要な物が大量に詰められていた。
箱の数がやけに多かったのは小麦粉の袋が全部で二十キロ分あり、バターなどは特殊な保冷型の箱で送られていた為だ。流石にこの時期に常温で送ってきたりはしないよな
「以前申請しても届いていなかったものですね~。すごいです~♪ これだけあれば暫くお菓子つくりの材料に困らなくてすみます。ナッツ類なんてなかなかこれだけの量は手に入りませんし……」
「伊藤もランカーになったし、これからは申請が簡単に通るだろう。……発注は慎重にな」
「そうでんな。お菓子は歓迎なんやけど」
特にドリンク類がな。
ランカー用の特殊回復薬も手に入る事だし、今後はあのドリンクを作る機会を減らして欲しいと願っている。
「こっちは試作型兵器だな。ガンケースが十、パーツが入ったBOXが十、後はバッテリーやマガジンなんかだ……」
「坂城の爺さんの分があるからそっちは予備パーツになりそうだな。気を使って送ってきてくれたんだろうし、ありがたく受け取っておこう」
「防衛軍特殊兵装開発部からは試作型次世代特殊小太刀と試作型次世代トイガン、他には強化ブーツと特殊スーツ? バイクまであるな」
「緊急時の移動用か? と言っても、バイク関係は俺の分だけっぽいが」
「お前は昔からバイクを使って色々やってたからな。こっちのヘルメットはAGE活動中に使える特別仕様だぞ」
特殊スーツと書かれているが今までの経験から言えばGEの攻撃によるダメージを軽減させる新素材を使用したアンダーウエアやタクティカルベストなどの装備かな?
一回ガチでヒーロー物の特殊スーツを彷彿させる物が送られてきたが、外部デザインだけで中身は普通の装備と同じだったので一回も使用する事も無く坂城さん宛てに送り返した。
バイクやヘルメットはAGE活動でも使えるようにすべてのパーツを新素材で作ってあるうえに、ヘルメットのシールド部分にはいつものゴーグルと同じ様にレーダーなんかが表示されるようになっているな。通信機能も使えるみたいだし……。
「新素材の装備は本当にありがたい。使用後は送り返さないといけない物も割とあるけど」
「向こうもデータが必要だし仕方がないだろう。他は無いみたいだな」
「書類の束も届いているぞ。試作型次世代トイガンについては改良したらその情報が欲しいそうだ」
「またわてに依頼でっか?」
「頼りにされてるな。卒業後の就職先は決まりって感じだ」
窪内に関してはマジで防衛大学付属高校への入学を進めてきたって話だしな。
それを蹴って
「これが防衛軍特殊兵装開発部製の新型試作型次世代特殊小太刀に試作型次世代トイガンでっか? 見た目はいつもの改造トイガンと変わりありまへんが、また特殊バレルとか内部のブラックボックスがパワーアップしとるんやろか?」
「流石にブラックボックスは弄れないからな。コレを外したり壊したりすると、どんな高純度弾を使ってもGEにダメージを与えられないって事だし」
簡単に交換が可能な特殊バレルと違い、グリップとトリガーに繋がる謎のパーツ類はバラしたり素材を変えると特殊弾が効果を発揮しなくなる。
この辺りのパーツはブラックボックスと呼ばれ、流石の窪内ですら手出しができない。
「この試作型次世代トイガン、チャージ機能対応型とか書いてあるんだけど……」
「チャージ機能? ホントだ~、チャージ機能なんて怖くて使えないよ?」
今回の目玉機能は特殊小太刀やナイフなどの近接用武装に内蔵されていたチャージ機能を改造トイガンのブラックボックスに組み込んだという事だ。それに伴い特殊バレル等に大幅な改良が施されており、肝心のチャージ機能はグリップにボタンとして増設されていた。
特殊小太刀の様なトリガーによるバースト効果は無いみたいで、あくまでも内部に
ただ、今回は実銃の排莢部分の所にメモリが付いていて、どれだけ
「俺のM4A1カービンだけじゃなく、竹中のPSG-1や、MP7A1、P90、それにサブウエポンの電動デザートイーグルや
「今回はランカーに昇格出来へんかった
「部隊全体の装備って事か。これ自体は以前から開発していたんだろう」
俺達が
急いで仕上げた可能性は捨てきれないけどな。
「とりあえず試作型次世代トイガンのチャージ機能やその他の性能は実戦で試すしかないな。何処か近場でいい場所は無いか?」
「KKSは安全区域になっちゃったし、少し離れた場所しかもう残って無いよ」
「この居住区域の周辺が殆ど安全区域になったから仕方が無いな。KNH方面かKKI方面の
「それは週末までにどのくらい武器の調整が可能かにもよる。
「この試作型次世代トイガンは
試してみて問題点が無いんだったらそのまま使ってもいいしな。
ただ、今までの経験から言って細かいパーツ類はかなり窪内に調整して貰わないといけないだろう。
「そういえば
「ああ。あそこは面白い特集も多いからな。それがどうかしたのか?」
「あそこの記者で島崎って人がいるんだが、
「商品券か何か……、これって明日公民館であるフラワーズのライブチケット!! マジか!! しかも関係者限定最前席のプラチナチケットじゃないか!!」
貰ったチケットは神坂が推している
ボーカルの
「行くだろ?」
「当然だ!! こんな物を貰ってもよかったのか?」
「先行投資だろう。そのライブイベントは今回復帰した人を対象にしているらしいが、俺達は呼ばれていないんでな」
「そういうライブなんだ~。それじゃあ私たちはいけないですね~」
「行ったらライブがめちゃめちゃになりそうでんな。発表で
開催時間は明日の夕方だし、神坂に関しては明日の放課後は参加せずにライブイベントに直行だろうな。
「
「部活は良いから楽しんで来いよ」
「流石だ。持つべきものは理解ある部隊長だぜ」
楠木達もアイドルのライブには興味があるみたいだが、神坂みたいに推しのライブがある度にスマホと睨めっこしているほどハマってはいないからな。
ネットで曲を聴いたりTVで歌番組を見たりしている事はあるがその位だ。
それに、ライブイベントに行きたいんだったら今後は最優先でチケットを購入できるし、最低でも前の方の席は確保できる。
何せほぼ全員がランカーなんだしな。
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