第三十五話 最優秀名誉学生章
今朝のカオスな状況は八時二十分に担任の
竹中も素直に席に着き、真面目に胸のボタンを留め始めている。周りの視線なんて欠片も気にしちゃいない。
「羽目を外すのもいいけどほどほどにな。あと、時と場所をわきまえろ」
「は~い」
今の竹中の返事は聞き流している時の感じだ。
少し離れた席にいる宮桜姫も竹中を睨んでたりするな。
「連絡事項に入る。もう知っている者もいるだろうが、今日の授業はすべて中止だ」
「中止? 昨日まで休みだったのに?」
「そう、中止だ。この後で体育館に移動して校長のありがた~い話があるぞ」
授業が無くなる事には喜んだが、校長の話に言及された時点でほぼ全員が不満を炸裂させた。
貧血で失神する生徒まで出た悪夢再びか?
あの時は石に変えられてて運よく聞いてない奴もいただろうがな。
「流石は凰樹、落ち着いてるな。多分お前らには学校から名誉勲章だったか何かが贈られるらしい。
「勿論です、他の仲間も礼を言いたがってました」
「後で十分なお礼をしたいと思います」
アレはお礼の範疇に入るのか?
「別に誰かに感謝されたくてやった訳じゃないですし、助かった人が多いのは結果ですよ」
「流石だな。お前のような生徒を受け持った先生も鼻が高いぞ」
「そういえば山形先生、私TV見ましたよ~」
「わたしもわたしも~。録画までしちゃった♪」
「よし、お前らそれは即刻処分しろ!! あれは校長の命令で無理矢理出演させられただけだからな!!」
うわさ話で聞いたんだが山形先生がTV出演時に着ていたスーツは自前らしく、化粧もばっちり決めていながら無理やりと言う事は無いだろう。メイクに関してもメイクアップアーティストにあれこれ注文していたらしい。
あの後で男性教諭に声を掛けられたという噂もある。
「話はここまでだ。さあ、さっさと体育館に移動しろ」
「いったい何の話だろうな?」
「さあな。だが、ありがたいお話は手短にしてほしいもんだ」
「同感でんな。また失神する生徒が出まっせ」
なんとなくだが、俺たちの事を遠巻きに見ている生徒も多い気もするな。
今までも割と派手に活躍していたし、同じ様な視線を向ける生徒はいたけどさ。
「あの……」
「そこの生徒、それ以上近付くなよ」
学校内に俺たちの近くで護衛する黒服が紛れてやがった。
送り込んできたのは対GE民間防衛組織か? 防衛軍関係者って可能性もあるけど。
「そこまで警戒しなくてもいいと思いますけど……」
「GE共存派や
「厄介な連中に目ぇつけられたもんや」
「あいつらまだ活動してたのか?」
GE共存派は【GEに明確な知能があり共存が可能だ】などという寝言を掲げて活動している反社会組織で、
どちらも世界中全ての国で活動を禁じられて国際指名手配されているうえに、捕まってGE共存派か
一時期は大手を振って活動していたが、国際指名手配された辺りで地下に潜っている。
「学園生活に支障が無いように、校内に配置されている護衛は十数名だけだ」
「登校時に見た黒服って……」
「それも護衛だな。現在はこの学校の周りを警備している。あの記者は知り合いの様なので、奴らの仲間ではないと判断したんだが」
「島崎さんは昔からの付き合いですし、間違いではないですね」
本当にご苦労な事だ。
また面倒な事になりそうな雰囲気だな。
◇◇◇
前回の反省からか、それとも今回は入り口付近に報道陣を呼んでいるからなのかは分からないが、今回は全員が座れるようにパイプ椅子を用意されていた。
「これより全校集会を始める。まずは校長から話を……」
他の連中はいつも通りに学年ごとの席に案内されたんだが、俺たち六人だけは何故か教師連中が座る特別席に案内されている。
神坂の奴はサムズアップしながら向こうにいったが、本当だったらお前と楠木もここに座らせられる側だからな!!
校長の
体育館には取材陣も多数押しかけており、その中には島崎さんの姿もある。ここに通して貰えてるって事は、あの護衛の方々に身体検査とかされたんだろう。
「先日、我が校の生徒が多数犠牲となるとても悲しい事件が起きました。我が校では七十名、隣の附属でさえ十名に及ぶ生徒がGEに破れて灰色の硬い肌を持つ石の像へと姿を変えました。私は……、私がこの
「八人だ……」
「凰樹……」
なんとなく思ってる事を口にした俺の呟きに山形先生が気が付いたようだな。
分かっていますって。流石に俺もこの場でそれを主張して校長の話を妨害したりしませんよ。
「これまでにわが国では防衛軍の精鋭部隊、世界でも僅かな軍にしか破壊する事が出来なかった
今はまだ武器が揃っていないだけだ。GEの出現から三十年程だけど、その間に多くの国が滅んだ。意味のない仮定だけど、その時に今と同じ武器があればその数は半数以下だっただろうと思っている。
しかし、入口にずらっと並んで渋い顔をしている報道各社は、校長である九条の話を聞きに来た訳じゃないだろう。
おそらくこの後にある授与式が目的か、あわよくば先日の映像か何かでも手に入ればって所かな?
「話はここまでにしますが、ランカーズの凰樹君たちには我が校で優秀な生徒に送られる【最優秀名誉学生章】を……」
「待ってください!!」
生徒会の副会長である
この状況でアレが出来るとはいい度胸だぞ。
ほら、体育館にいる生徒たちだけじゃなくて入り口に並んでる報道陣もびっくりだ。
「何ですか喜多川さん」
「その【最優秀名誉学生章】は本校で優秀な成績、もしくは部活動などで輝かしい実績を残した生徒に贈られるものです。確かに凰樹君の偉業は前例の無い功績かも知れませんが、学生生活で上げた実績とは言い難いのではないですか? 生徒会としてそこは見過ごせない事なのですが」
確かに喜多川の主張にも理はある。
先日のGE対策部員で行われた
ただ、この場でそれを口に出すのはかなり危険だと思うぞ。
「ランカーズ……、GE対策部は我が校の部で、今回の
「しかし、今まで誰も手にする事が出来なかった【最優秀名誉学生章】は、学校行事などで成果を収めた者に与えられるべきです。こんな学外で行った事で与えられられるべきでは……」
「貴女はもし仮に野球部が甲子園で優勝をしたり、文芸部の部員が文学的な賞を受賞した時も同じ様に反対するのですか?」
他の部活動であっても学校の外の行事の方が功績は残しやすい。
逆に言えば校内活動だけで功績を残せる部ってどこだよ? 生徒会や風紀委員?
そういえばあいつは現生徒会会長
「その時は反対しません。私が言いたいのはあまりにも凰樹君の偉業が凄い為に、今後の選考基準がそれに合わせられると【最優秀名誉学生章】を受賞する生徒がもう二度と出なくなるのではないかという事です」
「………確かに、それは杞憂ではあると思いますが生徒達がそう思う事は生徒会としては憂慮すべき事でしょう。この受賞後に選考基準を設けたいと思いますが凰樹君達の偉業は十分に称賛されるべき事であると思いますので、このまま【最優秀名誉学生章】を授与します」
一度学校側が送ると決めたんだから今更阻止なんてできないだろうに。
入口に並んだ報道陣もその瞬間を期待してるんだろうしな。
「それでは、GE対策部の凰樹君たちは前に……」
俺が壇上に上がると物凄い数のストロボが焚かれ、シャッター音が途切れなくなった。
というか、やっぱりあの報道陣はこれが目的か。
「GE対策部部長凰樹輝。貴殿は学生AGEによる
「謹んでお受けします」
再び嵐の様なシャッター音が鳴る。
俺がちょうどこの勲章を受け取ったこの場面の写真を撮れなかったら上からどやされるんだろうな。
続いて窪内たちも勲章を受け取り、無事に授与式は終わった。
喜多川は割と苦虫を噛み潰したような顔をしているけどな。
「それではこれで全校集会を終わります。報道各社の皆さまは先に退場をお願いします」
本気であの報道陣はこの為だけに取材に来たのか?
こんな勲章を受け取る場面だけ取材しても大した撮れ高にならないだろうに……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます