第二十四話 暴走した守備隊の後始末


 KKS二七三方面に迫るGEや大型GEヘビータイプを完全に撃破して拠点晶ベースの破壊にも成功している俺たちは、桐井の部隊による無数に散らばっていた魔滅晶カオスクリスタルの回収が終わり次第に撤収するという話になっていた。


 そこに飛び込んできた凶報というか、KKS二七六の迎撃拠点が崩壊して防衛拠点に小型GEライトタイプが雪崩れ込んだって連絡が来て既に三十分は経過している。


 起死回生の一手だった拠点晶ベースの破壊もどうやら失敗したって事だ。


「出来もせん事に手ぇ出した上に、迎撃拠点と防衛拠点を崩壊させるってどないや?」


「言葉も無いわ。原因はこっちの身内みたいだし」


「暴走したのは本人の責任です。守備隊の責任問題にはならないでしょう」


 向こうの守備隊の隊長は久地縄くちなわともえという女で、部下からは姉さんと慕われているそうだ。


 久地縄くちなわは現時点でセミランカーにもう少しで届きそうなポイントを稼いでいるらしく、今回の迎撃任務でセミランカー入りを狙っていたらしい。


 狙っていたらしいといいうのは最後に入った通信で分かった事だが、久地縄くちなわが率いる十六人ほどの隊員の殆どは拠点晶ベースを守っていたヒキガエル型の大型GE《ヘビータイプ》に敗れて石像へと変わり果てたからだ。


 持っていた特殊ランチャーの弾はヒキガエル型の大型GE《ヘビータイプ》に叩き落されたという話だしな。


「結構離れてたし遠回りになったからこんな時間になったけど、一応侵攻自体は止まってるのよね」


「KKS二七三方面の拠点晶ベースを破壊したのが大きいんでしょう。あれで巻き添えをくらって自壊した小型GEライトタイプも多いと思いますよ」


「あれで戦力が半減したのは間違い無いっスよ。問題は迎撃拠点と防衛拠点に居座ってる残存戦力っス」


「特にヒキガエル型の大型GEヘビータイプはしばらくあそこから動かないでしょうしね」


 一度拠点晶ベースが破壊されそうになっているからな。


 この辺りにAGEがいなくなって時間が経つまで居座り続けるだろう。


 それと、こんな場所にあれだけのGEが居座り続けられても困るしな。この機会に討伐しておいた方がいい。


「今回のルートは防衛拠点の裏を通って直接拠点晶ベースを狙う。迎撃任務が無けりゃこっちのルートも使えるからな」


「手前の防衛拠点には寄るけどな。壊滅してなけりゃいいけど」


「一応まだ抵抗してるらしいし、KKS二七三方面を担当していた別のAGE達も援軍に向かったそうだから」


「戦力的には十分か? 中型GEミドルタイプがいるって情報も入手しているからグレード五の弾を持って行ったそうだぞ」


「やっぱり情報が大事だよな……」


 伊藤の索敵と情報分析能力がいかに大事かって事だ。


 この辺りに戦力を割きたくなくて壊滅した部隊はかなり多い。俺も雑誌のインタビューなんかで話す時には索敵任務の大切さを説明しているんだけど、実際に戦場で超小型タブレット辺りを使ってればいい方で専属の索敵要員を活用している部隊なんて守備隊でもないからな。


 割と有名な桐井の部隊ですらそうだった訳で……。


「目的の防衛拠点に到着したぞ、ここ担当しているのは永遠見台付属中学とわみだいふぞくちゅうがくのAGE部隊らしい」


「中坊の部隊か。俺達にもそんな時期があったが」


「まだ壊滅してないから助けるっスよ!!」


 小型GEライトタイプに囲まれてはいるが、まだ防御陣内には侵入されていないみたいだな。


 急いできたから何とか間に合った。


「応援が来てくれた!! って、何あの威力!!」


「うわ……、いったいどのグレードの弾を使ってるの?」


「あれだけいた小型GEライトタイプがあっという間に居なくなった」


 高グレードの弾を使う利点はまさにここだ。


 無数の小型GEライトタイプが押し寄せて来た時に本当の真価を発揮する。倒すのに数発かかるか確実に一発で仕留められるかってのはかなり大きいからな。


 それにグレード五になれば中型GEミドルタイプでも十分に討伐可能だ。


「これでこの辺りは大丈夫だな。他の防御拠点には別のAGEが別ルートから応援に駆け付けているはずだし……」


「残った問題はこの先にいるヒキガエル型の大型GEヘビータイプ拠点晶ベースか」


「連戦になるけど生命力ライフゲージに問題はないか?」


「ああ、ここに来るまでに回復剤を使ったから九十五はある」


 セミランカー用の生命力ライフゲージ回復剤じゃなければこんな短時間じゃ回復しないけどな。とはいえ、時間が短かったから完全回復とまでは行かなかった。


 今週末にはランカー用のもう一段上の回復剤が届くからこっちは今日使い切っても問題ないし。


「セミランカー用の回復剤か。惜しげもなく良く使うよな」


「回復させてなけりゃ、ヒキガエル型の大型GEヘビータイプと連戦なんて無理だろ?」


「……すいません、生命力ライフゲージがいくらあっても大型GEヘビータイプと戦うなんて無理で~す」


「え? あの人凰樹おうきさんじゃない?」


「ランカーの? うそっ!! サイン貰えるかな?」


 残念ながらサインは受け付けてねえよ!!


 うちの高校の生徒は俺の事を特別扱いしたりしないが、永遠見台付属中学とわみだいふぞくちゅうがくだと違うんだな。


 目の前の学校なのにさ。


おうさんはサインなんてせえへんで。それよりさっさと拠点晶ベースの破壊を済ませましょ」


「そうっスね。あまり遅くなると日が暮れるっスよ」


「まだ六月だ。日没までにはまだまだ時間があるさ」


 といっても夕方にゲリラ豪雨とか来ても困る。天候にかなり左右されるのは特殊トイガンの欠点だよな。


 風の強い日にはAGE活動はしにくいし、雨の日とか雪の日もかなり威力と射程が落ちるから。


 流石に特殊小太刀で攻撃する分に関しては変わらない。生命力ライフゲージを五ほどチャージすれば小型GEライトタイプだと百匹以上斬り殺しても余裕だし。


拠点晶ベースを破壊すればこの辺りも安全になるしな」


「あのヒキガエルを二度も拝むとは思わなかったぜ」


「本当、夢に出てきそうっスね」


「本体は上のカマキリだけどな」


 と言ってもあのカマキリを倒すには先にヒキガエルの部分を斬り刻む必要がある。


 大型GEヘビータイプを何度も斬り付けるとなると、生命力ライフゲージの消耗が激しい。さっきと同じ手で倒せればいいだけどな。


◇◇◇


 無事にヒキガエル型大型GEヘビータイプを倒して拠点晶ベースを破壊したことで、この辺り一帯にいた小型GEライトタイプは消滅した。


 弱体化した中型GEミドルタイプもグレード五の特殊弾を持った他のAGE部隊が始末したという話で、これで今回の援軍要請は片付いたかと思われた。しかし、俺はこの先の防衛拠点で壊滅したAGE部隊を発見する。


「この先の迎撃拠点も壊滅でんな。一人残らず石に変えられとりまっせ。しかし、守備隊や二年や三年のAGE登録者もおったのに何が起きはったんや?」


「詳しい原因は通信ログなんかのデータを参照してから出るだろうな。他の防御拠点はそこまで被害が出ていないそうだけど……」


「B組の高島さんに……、D組の柴岡君も……」


「俺達の勇み足だ。すまん」


「詳しい話は守備隊で聞くわ。無事で済むとは思わないでね」


 この辺りに派遣された守備隊唯一の生き残りである猿渡さるわたりに対し、桐井は淡々とした口調でそれだけを言い放った。


 勇み足か……、功に焦ってAGE部隊をおとりにして拠点晶ベースの破壊に向かったけど、そこにヒキガエル型大型GEヘビータイプがいて返り討ちにあったって所か?


 おそらくそれが表ざたになれば普通にAGE資格は取り消されるし犯罪者として投獄されることになるだろう。


 その判断を下した隊長の久地縄くちなわが既に石に変わっているとしてもな……。


「宮桜姫さん……」


「AGE登録をしていたのか?」


「流石に新人登録なんてチェックしてないからな。なんでまた……」


 AGE活動をする人間は大体何か理由があっての事だ。


 金銭問題や地位や名誉を求める者もいるし、身内や大切な人の敵討ちで参加している人も多い。


 でも、宮桜姫にはそんな理由が無い筈だ。


 聞いた話では今までGEを見た事すらないとい聞いていたしな。家が金持ちだしAGE活動を始める動機が全然分からない。


 周りにいたAGE隊員と守備隊員を呼び寄せて学生AGE達を運んできたバスに石像と化した彼らを乗せて一人残らず移送した。


 こうして石像と化した身体を回収して貰えるだけで幸運なんだが、このことが知れたら大変だろうな。


 この作戦中にGEとの戦いに敗れて石像と化したAGE達は百二十一名。


 そのうち半数以上を占める七十人が永遠見台高校とわみだいこうこうの生徒であり、過去にGE対策部先代部長の堀舘ほりだて護哉もりやが出した犠牲者の数を上回るという大惨事となった。

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