第二十五話 大きすぎた昨日の傷跡
六月二十八日火曜日。午前八時四十分。
この日の授業は全て中止とされ、
全校集会の理由と話の内容は当然昨日起こった
追悼と言っても
集められた生徒達は口々に昨日の凄惨な戦闘内容を話し、昨日迎撃に向かう前に軽口を言って帰って来なかった友人を思い出してみな涙を流し続けている。
「なにが【見てろ、明日の昼飯は今回の戦果で豪遊だ!!】だよ!! 無茶すんなっていつも言ってただろ!!」
「石に……、石に変えられちまったら何にもならないだろうが!!」
「嘘……、嘘だよね。こんな、こんなことってっ……」
教師も私語を注意しようとしたが、とてもではないが悲しみに打ちのめされた生徒達にかける叱責の言葉など持ち合わせていなかった。
「……この様に、勇敢なAGE隊員の働きがあればこそ、私達は
永遠見台高校の校長である
まともな精神状態の生徒は少なく、真面目にその話を聞いていた生徒なんて本当に皆無だろう。
◇◇◇
長い全校集会の後、午前中の時間全てを使ったロングホームルームが行われた。
また、多くの友達を失った事により心的外傷後ストレス障害を発症した生徒もいたから専門のカウンセラーが永遠見台高校を訪れて、今現在保険医と共に生徒達のケアに当たっているって話だな。
担任の
昨日の件かAGE活動についてのグループミーティングなどをさせるべきだという意見もあったみたいだけどそれどころではない状態の生徒も多く、結局は登校させた生徒達を教室に待機させるだけさせておいて何もさせないという状況に陥っている。
「うちのクラスの犠牲者は、
「B組とC組が酷いらしいぞ。B組は
「二年や三年には八人犠牲になったクラスがあるらしくて、クラス編成をやり直すかどうか話し合ってるらしい」
「どうして
「
一気に七十人も生徒が減ったからな。
AGE活動をしていれば部隊が全滅なんて話は珍しくもないが、これだけ知り合いが一度に居なくなるのは俺も初めてだ。
「昨日の守備隊の
「まあ当然の結果だろう。あいつらが欲を出さずに迎撃拠点で
「あの
「あんな大物
最初からいると分かってれば手出ししなかった可能性が高いが、向こうでも反応を消していたのかもしれないしな。
あの状態のGEを発見できるのは
「さっき守備隊の車が来とったし、その事で説明しに来たんとちゃいます?」
「桐井さんには責任なんてなのにな。KKS二七三方面では犠牲者はゼロだぞ」
「装備と準備の差が出たよな。あれだけの量のグレード五をどうやって入手したんだ? それに竹中の使っていたグレード十もだが」
「以前申請していた量をランカーに上がった瞬間に送ってきた感じかな? 多分防衛軍用の在庫を回してくれたんじゃないかな?」
タイミング的には助かったが、あれだけの活躍をしても結果的にあまりプラスにならなかった。
ただ、あの二ヶ所の
次に同じような事が起きても、距離的に俺たちが呼び出される事は無い位にはな……。
◇◇◇
二時間目が終わったチャイムが響き、何人かの生徒がトイレに向かってその前にある水道で顔を洗ったりしている。
気分が悪くなったと言い残して早退する生徒も結構いたが、それを咎める教師や生徒は誰もいない。
というか、今日こうして登校して来ただけでも立派なもんだ、初めから休んでいる生徒も多かったし……。
「ちょっと君、その制服は付属の生徒のだよね? 此処は
「そんな事わかっています、一年A組はこちらですよね?」
廊下でそんな話し声が聞えてドアを勢いよく開き、永遠見台付属中学の制服に身を包んだ小柄な少女が姿を現した。
何処と無く誰かに似ている気がしたが、今この場にその名を口にする者はいない。
「以前雑誌でみました。貴方が
「ああ、俺が凰樹輝だ。君は?」
「私はこの学校に通っている
「だろうな」
「似てるっスよね」
神坂と
いやお前ら、この雰囲気でその会話ができるってすごいぞ。
ほら、宮桜姫の妹も睨んでるし……。
「どうしてお姉ちゃんを助けてくれなかったんですか!! 凰樹さんはランカーでとても凄い力を持っているって聞いてたのに、どうしてそんな力があるのにお姉ちゃんを助けてくれなかったんですか……。どうして、どうしてっ……」
「無茶いいなや、
「凰樹さん達がいたエリアでは、誰一人犠牲者が出なかったって聞いています。百人以上犠牲者を出したのはみんなもう一ヶ所にいた人だって事も調べてます。どうしてお姉ちゃんを一緒に連れて行ってくれなかったんですか?」
「俺は
流石に俺も実力も分からない人間を誘って迎撃任務に向かう真似なんてしないぞ。
もし仮に俺が宮桜姫がAGEに登録していた事を知っていれば、昨日の招集に参加せずに学校に残る事を提案しただろう。
登録したばかりのAGEまで参加する義務はないからな。
「無茶言って貰っちゃ困るんだけど。輝さんはあの戦いでゲージを合計四十も消費してるんだ。AGE隊員でもない君にはそれがどれだけキツイ事なのか分からないだろうけど」
「そうや、別に全部隊の指揮官でもない
「ラ……
「それって凄いの?」
「すごいとか無茶とかそんなレベルじゃないわ。合計って事はあの高価で希少なセミランカー用の回復剤まで使ったって事でしょ? ありえないのよ……」
うちのクラスはAGE活動をしてる奴が多いから話を聞いている生徒も多い。だから今の
普通
だから対GE民間防衛組織のマニュアルではその直前には撤退する事が推奨されている。
その状況で撤退が出来るかどうかは別として……。
「でも、凰樹さんはお姉ちゃんの恋人なんでしょ? だからいつも一緒に居たいからってAGE登録を……」
「宮桜姫さんが、輝の恋人?」
「ほんまでっか?」
「俺が一番初耳だ。そんな話をいったい誰から聞いたんだ?」
ん? どうもそこから話が食い違っている気がする。
大体宮桜姫がAGE活動をしていたのを知ったのも昨日が初めてだ。
いつ登録をしていたのかは知らないが、どんなに早くても一週間以上前じゃないだろ?
……昨日の朝の
うちの部は最低でも半年以上AGE活動をしていないと入部資格が無いからな、それで
「違うんですか? お姉ちゃんの部屋、凰樹さんが載った雑誌の切り抜きとか写真があんなに……」
「それ、ストーカーちゃいまっか?」
「あははっ、ちょ~っとだけ気持ちはわかるけど、同じ女性として考えてもちょっとアウトっぽい気がするかな?」
「え~、ギリセーフじゃない? っていうか、凰樹くんって雑誌に載ってたの?」
クラスメイトが好き勝手に言ってくれているが、俺はセミランカーになったあたりから何度も雑誌には載っている。
新進気鋭のセミランカーとか色々な二つ名で雑誌の宣伝に使われてたからな。
その見返りで色々貰ったりもしたし、有名になったおかげで優先して学生寮に入れて貰えたりしたから感謝もしているが。
「やだ、私やらかしちゃった!! お姉ちゃんごめんね……、凰樹さん、ごめんなさい!!」
そう言い残して鈴音は教室を飛び出し、教室の中は妙な雰囲気のまま誰一人声を出せずにいた……。
あれだけやらかされればこうなるだろうよ。
「派手な自爆でんな」
「巻き込まれたのは
「本人の知らないうちにいろいろ暴露されたっスね。あれだけ大きな声だと隣のクラスにも聞こえてるっス」
不幸中の幸いというか、本人は石に変わって自宅療養中だけどな。
十年経つまではまだ蘇生の可能性があるから、学校は休校手続きで休んでいる事になっているし。
ただ、昨日の異常発生で変わった事も多々ある。
今日は昼から休校の予定らしいし、部室で色々調べてみるかな。
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