第二十三話 初めのて実戦!! 拠点防衛【宮桜姫香凛視点】


 KKS二七六の防衛拠点のひとつ。


 そこには送迎用のバスで送り込まれた数十人の学生AGEが防衛任務に就いている。私もその一人だ。


 今までGEとは戦った事がないけど、初任務が防衛任務ってのも凄いと思う。


 基本的に迎撃用の拠点は大量に小型GEライトタイプが押し寄せる事が予測される激戦地で、防衛用の拠点は各迎撃用の拠点から流れてきた小型GEライトタイプを倒して守備隊の退路などを守る為の比較的楽な拠点の事。


 当然防衛用の拠点には学生AGEの中でも私の様な比較的戦闘経験の浅い者が集められ、その学生AGEを守備隊に所属するAGEが様々な指示を飛ばして無理の無い任務に就かせていた。


宮桜姫みやざきさん凄いね。今日が初めてだとは思えないよ」


「この銃のお陰かな。使ってる弾はそこまで凄くないんだけど」


 私が使っているのは日本エアガンJAG製のメーカーカスタム六十四式小銃で、グリップとストックの木目が綺麗だった。


 割と珍しいんだけど、色々試してみたらこれが一番手に馴染んだからこれでいいかなって……。


 私が使っている弾はグレード二って特殊弾らしけど、これより高い特殊弾は売ってくれなかったんだよね。


「ここは防衛用拠点だし、この位の数のGEを相手にするんだったらすごく心強いよ!!」


「ホントホント、私たちラッキーだったよね~」


「参加報酬で豪華なごはん♪ あ、グレートプラザのコスメ売り場でお買い物もいいかも」


「そこまで行くんだったら再開発地区のショッピングモールの方がよくない? あっちは少し高いけどいい店も多いし」


 広島第二居住区域が誇る再開発地区のショッピングモール。


 元々は新規に奪還された土地に存在した荒れ果てた雑木林と民家などが点在した過疎地だったんだけど、この居住区域の市長が率先して区画整理と称して映画館やボーリング場などの遊戯施設が揃ったショッピングモールに生まれ変わらせた。


 建設が開始された直後には一部の地域がまだ廃棄地区のままだったけど、凰樹おうきくんがそのあたりを支配下に置く拠点晶ベースを破壊したから、晴れて再開発地区全体が安全区域へ指定されたんだよね。


 うちのお父さんもあの辺りに結構な広さの土地を持っていたからすっごく喜んでたな~。


「無駄話もいいけど集中しろよ」


「わかってるわ。こうしてちゃんと迎撃してるじゃない」


「少しサボっただけでも弾代がかなり浮くからな。真面目にやろうぜ」


「あの、喧嘩はやめませんか?」


 こういったいろんな部隊が集まる作戦ではこういった諍いが多いと聞きます。


 共に戦う仲間なんですし、つまらない言い争いなんてしてる暇はないと覆うんですけど。


「流石にこっちは流れて来るGEの数は少ないか」


「だから暇つぶしにしゃべってるんでしょ。ちゃんとゴーグルの紅点には気を付けてるんだから」


「向こうの情報が入ってこないからどうなってるのか分からないってのは不安だよな。ゴーグルだと向こうまでは索敵できないし」


 迎撃拠点の指揮をしているのは守備隊の久地縄くちなわともえさんだったかな?


 あまり人の事を悪く言いたくはないんだけど、なんていうか冷たそうな眼をした人だった。


 こっちは二年の坂本君が一応隊長的な役回りをしているけど、他の隊員はあまり指示に従ってないし割と好き勝手にやってるから少し楽なんだけどね。


「えっと迎撃拠点から通信だ。向こうに押し寄せるGEの圧力が凄いから、守備隊の人で何とかして近くにある拠点晶ベースを破壊したいって言ってきてるんだけど」


「え? そんな事が可能なんですか?」


「特殊ランチャーがあればできなくはないけど、あれ高いし申請がそもそも通らないのよね」


「そうそう。千ポイントくらいで交換してくれればいいのに」


 聞いた話ですと特殊ランチャーは五十万ポイントくらいと引き換えになるそうです。


 小型GEライトタイプの討伐報酬と手に入る魔滅晶カオスクリスタルを納品しても合計で百ポイントくらいらしいので、手に入れるのはすごく大変なんだとか言っていました。


 でも凰樹おうきくんだったら簡単に交換して貰えそうだよね。


「それで、その間に向こうを抜けて来たGEがこっちに押し寄せて来るって話だ。どのくらいの規模になるか分からないけど、最低でも千近い数になるって」


「せ……千って。冗談じゃないわよ!!」


「そうです。今は精々一度に十数匹ですけど、そんな数を何とかできるだけの人がいません」


「でもやらないと、最終的にはその数が押し寄せて来る。しかもその場合は拠点晶ベースが破壊されないから、GEを倒しきるまで延々と戦い続けなければいけない」


 ここに配置されたAGEの皆さんは私も含めて全部で四十人位かな? 見える範囲でだけど。


 今の規模だったら何とかなりそうですが、他の防衛拠点の援軍でもない限りこれ以上のGEには対応できそうもない。


 気のせいかもしれないけど、ゴーグルに映る紅点の数がどんどん増えてる気がする……。


「こっちの了承を待たずに向こうは作戦に踏み切ったみたいだ。それだけ逼迫した状況なんだろう」


「この数を相手にするの? これだけの人数で?」


「やるしかないでしょ。私たちはAGEなんだから!!」


 みんな立派なAGE隊員です。


 半年の期間とはいえ楽をして安全にAGE活動をしようとした私とは大違いね。


 無事に戻れたら荒城あらきさんに謝らなきゃいけないな。


「来るぞ!! ゴーグルのレーダー部分が真っ赤だ」


「壊れてるんだったらいいけど、本当にこの数のGEが迫ってるのよね」


「この後ろにも防衛拠点はあるけど、あそこは永遠見台付属中学とわみだいふぞくちゅうがくのAGEが守ってる。戦力的にはあてにならないぞ」


 射程距離に入った瞬間、全員が一斉に迫ってくるGEに向かって特殊弾を撃ち始めました。


 私たちの使っている低純度の特殊弾でも二発くらい当てれば十分に小型GEライトタイプを倒す事が出来るみたいで、何とか最初に迫ってきたGEの群れは撃退できそうです。


 このまま居なくなるまで撃ち続けられれば私たちの勝ちだそうですが……。


「あの鼠みたいなGE、少し大きくありませんか?」


「どれ? 大変だ!! 中型GEミドルタイプが二匹混ざってるぞ!!」


中型GEミドルタイプ? 俺達の使ってるグレード二の特殊弾じゃ止めトドメが刺せない。攻撃力が足りないからな!!」


「誰かグレード五以上の特殊弾持って無いの? 最低でも十発くらいあるといいんだけど」


「一発千円もする弾なんて買える訳ないだろ。それに俺たちが申請しても却下されるに決まってる」


 合計一万円程度だったら私のお小遣いでも買えるのに……。


 やっぱりどうにかしてでもグレードの高い特殊弾を手に入れて来るべきだったわ。


拠点晶ベースの破壊に成功すれば小型GEライトタイプは自壊して消滅するし、中型GEミドルタイプもかなり弱体化する。それまで何とか抑えるしかない」


「とりあえず周りの小型GEライトタイプを優先して倒して、中型GEミドルタイプはがんばって足止め。十分くらい我慢して弱体化しなければ何かほかの手を考えるしかないな」


「何か手があるの?」


「あまり使いたくない奥の手はある。使っても勝てるとは限らないし、何よりリスクが高すぎるんだ」


 まだ一か八かにかけるほど追い詰められていないって事ですね。


 できればこうして何とかしてるうちに援軍が来てくれればいいんですが。


「やっぱりほとんどダメージは無しか。討伐にはグレード五の特殊弾が必須とか言われているからな」


「普通は見つけたらすぐに撤退するしかないもんね。弱体化してくれたら何とかできるんだけど」


「この辺りで拠点晶ベースの破壊なんて出来るのは凰樹おうき君の所だけでしょ。ランカーになったそうだけど凄いよね~」


「でもあの守備隊の人は破壊するって言ってたぞ」


「特殊ランチャーを使えば何とかなるけど、実際にできるかどうかはギャンブルだよ」


 あれだけ拠点晶ベースを破壊している凰樹おうきくんが凄いらしく、普通は破壊なんてできないそうですね。


 拠点晶ベースの周辺には強いGEが待ち構えていることが多く、拠点晶ベースを守るように特殊ランチャーでの攻撃を妨害したりするそうです。


 だから実際に破壊できる手段を持っていても、それを実行できるかどうかは別だという事ね。


「まずいぞ。小型GEライトタイプを捌ききれなくなってきた」


「数が多すぎるのよ。このままだと向こうの部隊は押し込まれるわ」


「固まってると囲まれるし、分散してると手数が足りない……」


中型GEミドルタイプの足止めにかなり戦力を割かれてるのが問題よ」


 私たちがどれだけ攻撃しても中型GEミドルタイプを倒す事はできないんだけど、足止めするだけでもかなり撃ち続けないとすぐに再生して襲って来るそうです。


 その為に次々と押し寄せる小型GEライトタイプを倒しきれなくなっているのはわかる。


 実際に右側に防御陣地を築いていた部隊には何度も小型GEライトタイプが入り込んでいるし、そのたびに大騒ぎになっているみたい。


中型GEミドルタイプを倒さない限りそのうち壊滅するわよ」


「最初の段階でもう一つ後ろの防御拠点へ撤退するべきだったかも」


「今更よね。この状況であそこまで逃げ切れると思ってるの?」


「さっき言った奥の手なんだけど……。特殊小太刀を二本持ってきているんだ」


 凰樹おうきくんも使ってるっていう特殊小太刀!!


 そんなすごい武器があるのにどうして今まで隠していたの?


「何故使わないんですか?」


「使えないんだ。此処のチャージボタンを押すと生命力ライフゲージを内部に貯め込めるんだけど、当然そんな事をしたらこの有様さ」


「え? あなた一度も攻撃を受けていないわよね?」


「ああ、特殊小太刀にチャージしただけでこれだ。迂闊に使えば一気に二十くらい生命力ライフゲージを持っていかれる。この状態で中型GEミドルタイプと白兵戦なんて無理だよ」


 急激に生命力ライフゲージを失ったら最悪気絶する事もあります。


 二十も一気に消費したのにまだ普通に話せている坂本君は凄いと思う。


「使いこなすのは無理かしら?」


「もう一本あるから誰か使うか? 柄を握ってチャージボタンを押すだけだぞ」


「その後白兵戦でしょ? 無理無理、私たち剣術なんて習ってないし」


「突き刺してトリガーを引けば勝ちだよ」


 その位だったら私でも出来るかな?


 あの大きな鼠も今はみんなが弾を撃ち込んでいるから動きはかなり鈍いし、えぃっと突き刺してそこのトリガーを引くだけでいいんでしょ?


「私に一つ使わせて貰えますか?」


「え? 宮桜姫さんが? 大丈夫なの?」


「あの大きな鼠にこれで斬り付ければいいんですよね?」


「そうれはそうだけど……。分かったここから近いあいつをお願いできるかな? みんなは援護射撃を頼む」


「もう一匹はどうするの?」


「そっちは俺が何とかする。少し距離があるけど何とかなるだろう」


 私が狙う鼠は距離十五メートルほどの場所で足止めされていますが、坂本君が狙う鼠までは三十メートル以上あります。


 あの鼠を狙っているのは右側の部隊ですし、こちらからの動きはわからないのでは?


「よし、他の皆は周りの小型GEライトタイプを頼む、行くぞ!!」


「は、はい!!」


 私が大きな鼠の目の前に迫った時、空からアブをベースにした数十匹の飛行タイプ小型GEライトタイプが全身に顔から延びた管や胴体から生えるヤモリの頭で襲いかかってきました。


 上から攻撃してくるなんて予想もしていなかった私はその動きに対応できるわけもなく、手に装備したリングの生命力ライフゲージが半分の五十まで削られて表示されている文字も黄色からオレンジへと変化していきます。


 これはまずいよね。このままだとチャージする生命力ライフゲージが……。


「身体が……重い……、力が入ら……、あ……ごめんなさい、武器を……」


 手の力が抜けて特殊小太刀を持つ事すらできなくなり、特殊小太刀を地面に落としてしまいました。


 何とか拾って、あの鼠に一太刀だけでも……。


 あれ? 目が……。


「み……宮桜姫さん達が襲われてる。誰か!! あのGEを倒して……」


「もう無理だって。あの状態からは助けられねえよ!!」


「お前!! 見捨て……、ああっ!!」


 周りの声も聞こえなくなって……。


 ああ、もう体が……。


「こんなことになるんだったら、勇気を出して凰樹おうきくんに好きって伝えておくんだったな」


 身体が氷水に漬けられたように冷えていく。手足も痺れて……。


 ごめんね鈴音すずね


 私は、石に……。


 ここで私の意識は途切れた。

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