第二十一話 対GE民間防衛組織からの援軍要請


 昼休憩が終わった五時間目の授業中、突然校内にサイレンが響いて校内放送用の音楽が流れた。


 火災報知器とは明らかに違うこの音は……!!


「火傷を負った時の対処として……、ん? 緊急校内放送? 火災訓練とか聞いてないんだけど……」


「緊急事態発生、緊急事態発生!! KKS二七三、KKS二七六の二方面より居住区域に押し寄せる多数の小型GEライトタイプが確認されました。対GE民間防衛組織から当校にも援軍要請あり。AGE登録者は武装して至急小型GEライトタイプの撃破に向かわれたし」


 一瞬クラスが静まりかえり、そして蜂の巣を突いたように騒然となった。


 大発生? いや、この居住区域の状況を考えればそれはありえない。 


 おそらく小型GEライトタイプの移動が二方面から偶発しただけだろう。


 GE対策部の入部テストに落ちた他のAGE隊員やゲート研究部や武器技術研究部などの支援系の部員達も目的の場所に移動を開始し、まるで昼休憩の食券戦争を彷彿とさせるような怒号が廊下に響いている。


 俺達も全力でGE対策部の部室へと急いだ。


◇◇◇


「状況確認。GEの種類は?」


「KKS二七三方面……、該当するGEは魔物類亜動魔目魔物合成動物種、すべてMIX-Aで~す。結構レアな飛行タイプが約二百、その他の正確な数は出ていません」


「MIX-Aか。よし、KKS二七三方面にある食堂跡地に車を止めて、その先の道路に作られた拠点で迎え撃つぞ。地形的にあそこなら囲まれる心配も無いし、他の部隊とも共闘しやすい」


「そうでんな。対GE民間防衛組織にそう連絡しときます」


「予備バッテリー、予備マガジンは各員三つずつ用意する事。予備ウエポンはこっちで用意する。あきらM16A2イチロクでいいか?」


「ああそれでいい。今回の特殊弾は全てグレード四でいく。特別製のアレも積み込んどいてくれ」


「マジっスか? 了解っス」


 俺達は急いで対GE用の装備に着替え、移動用の車に武器を積み込んでいたんだがその時に完全装備の佳津美かつみが近付いてきた。


 メインウエポンは帝都角井製のSIG552カスタム、サブウエポンとしてVz61スコーピオンを腰にぶら下げて右足の太腿にはガバメントまで取り付けてある。ソロ活動の場合は万が一の時の為にあそこまで武装してなけりゃならないんだろうな。


「輝、今回は俺も入れてくれ。この状況だと流石に一人じゃ大した活躍が出来ないしな」


「歓迎するよ、今回は向かってくる敵の迎撃だから細かい作戦は無い。ただし撤退の命令だけは絶対に守ってくれ」


「わかってるって!! 俺もまだ石になんてなりたくないしな」


「緊急用の部隊編成で、荒城さんを共闘部隊として登録しておきました~。これで今回の撃破ポイントに部隊ボーナスが追加されま~す」


「わりいな。ちゃんとその分の活躍はする」


 佳津美かつみがAGE活動中に手を抜く事は考えられないのでその点は信頼しているさ。


 これがほかの連中だったら部隊登録はせずに個々で頑張って貰う所だ。


 弾も持たずにこっちにたかってくる連中も多いしな。


 今回の移動には普段使っている車じゃ無くて全員乗って装備まで積み込めるマイクロバスを選んだ。


 このマイクロバスなどはセミランカーと言えど学生が入手するには高すぎる車だが、中古で状態の良いマイクロバスを完全廃棄地区かんぜんはいきちくで見つけた後で遺棄物回収はいひんかいしゅうの時に回収して業者に渡せば比較的安い価格で電気自動車へと改良してくれる。


 石油の入手ルートが限られる今となっては殆どの車が電気自動車なんだけど、いつかまた元の世界を取り戻せると信じている者は旧車をそのままの状態で保管していると聞く。


 外装に関しても永遠見台高校とわみだいこうこうの自動車部が新品同様に直したモノだけどさ。


「他の連中は対GE民間防衛組織が指定している集合場所に向かって、そこから大型バスでの移動らしい」


「足が無いとそうなるだろう。ただ、その場合は戦場が選べないな」


 どの迎撃拠点に向かうかは乗ったバス次第だけど、出来るだけ楽にポイントが稼げる場所に運んで貰える様に全員が祈っているだろう。GE撃破に貢献はしたいだろうが、それでも必要以上に命の危険を冒したくはないからだ。


 こういった迎撃作戦や防衛作戦に参加すれば対GE民間防衛組織から追加報酬として数千ポイントが参加したAGE全員に支払われ、更に作戦に大きく貢献したAGEには追加で報酬が支払われる。


 しかし、多くのAGEが作戦に参加する性質上どうしても作戦行動中の統率がとれず、ほかの部隊を偽情報で騙して囮として使う悪辣な者まで存在する位だ。俺も過去に何度かそういった連中を見てるしな。


「道路が混む前に全力で向かうぞ!!」


「緊急報告が街にも流れてる。不要不急の外出は無い筈だ!!」


 KKS二七三、KKS二七六の二方面に続く道の周囲には住宅街は少ない。


 あっち方面は元々GEの侵攻が激しかった土地だし、あの近辺の開発も滞っているんだよな。


◇◇◇


 二十分後、俺達永遠見台高校とわみだいこうこうGE対策部はKKS二七三方面にある食堂跡地に辿り着き、マイクロバスを現地に用意されていた大型バス用の駐車場に移動させた。この早さでこんな駐車場を整備しているなんて対GE民間防衛組織もここの重要度が分かってくれているようで何より。


 俺達より先に既に守備隊が所持する輸送用のバスが止まっていた。


 バスの前面に掲げられている部隊旗にはちょっとコミカルな魔女の上半身と周りを守る三匹の子犬が書かれており、戦歴の長い俺や神坂などはそれが誰の部隊のマークなのかよく知っている。


 先に到着した守備隊は食堂跡地の三十メートル先に作られた迎撃用の拠点で小型GEライトタイプを待ち構えていた。


 この拠点を選んだAGE部隊は守備隊にも所属するセミランカーの桐井きりい眞子まことその部下の十五人の隊員だけだったが、桐井は俺達の姿を確認し少し笑みを浮かんで近付いてくる。


「やっほ~少年♪ や~っぱり君達も此処に来たか~。私の勘も鈍って無かったかな?」


 桐井は学校を卒業後に対GE民間防衛組織から持ちかけられた首都への転属の誘いを断ってこの地区に残った。


 この地区の守備隊では有名なセミランカーで、学生のAGE達からは気さくで話しやすいお姉さんとして慕われている。


 学生AGE達に生き残る事の大切さと撤退のタイミングを見極める術を徹底して教え込んでひとりでも多くのAGEが作戦から生還できるよう尽力している反面、自らは危険を顧みずにより厳しい戦場で常に戦い続けている猛者だ。


「ここでGEを食い止めれば、ここから後ろの拠点での被害は格段に減る。がんばりどころだよな」


「そうでんな。あまり稼ぎにならんのはかわいそうやけど、犠牲が出るよりマシでっしゃろ」


「KKS二七三方面で無数の小型GEライトタイプ、しかもMIX-Aを迎え撃つなら此処しかないでしょう。すこしばかり拠点晶ベースに近いですがいざとなれば拠点晶アレを破壊すれば勝ちですから」


 この場が激戦区になると予想される最大の理由。


 かなめであるKKS二七三方面の拠点晶ベースが目と鼻の先に存在するからなんだが、その拠点晶ベースの周りにはなぜかほとんどGEの存在が確認できない。


 問題は環状石ゲート方面から流れて来る無数の小型GEライトタイプなんだが、おそらく中型GEミドルタイプも幾らか紛れているだろうな。


「うんうん。わたしも拠点晶ベース破壊名人の凰樹キミがいるなら、その手もあるかなって思っちゃった……。その時はお願いね」


「そんな事態にならない事を祈るばかりですよ。拠点晶ベース に関しては今日この場で破壊できるに越した事は無いんですけど」


「こっちでそうすると向こうの状況が悪化するから。本当にお願いするのは緊急時だけよ」


 二ヶ所同時にGEが侵攻してきた時にどちらか一方の拠点晶ベースが破壊されれば、もう一方のルートにすべてのGEが集中して押し寄せるGEの圧力に耐えられなくなる。


 グレード四クラスの特殊弾を山ほど用意して物量で押し返せば何とかなるが、学生も多いAGEにそんな余裕のある部隊なんて存在しないだろう。うち以外はな……。


「この辺りに案内してくる対GE民間防衛組織のバスは無いんですね」


「流石に拠点晶ベースとの距離が近すぎる。こんな場所で戦えるAGEは限られているさ」


「向こうのルートは大丈夫なのか?」


「あっちの拠点晶ベースは少し離れた場所にあるからな。わざわざ出向いて手出ししなけりゃここよりも安全だろう」


 KKS二七三方面の防衛拠点は他にもあるが、ここを迂回されたりしない限りそこまで多くは攻めてこない筈。


 ここでGEを撃ち漏らさない限り後方に設置されている防衛拠点は比較に完全だろう。その代わり小型GEライトタイプの撃破報酬は少ないだろうが、安全に稼げるんだったらその方がいい。


「問題はKKS二七六の防衛拠点よね。あっちにも守備隊所属のAGEがいるけど無茶しないでくれるといいんだけどね」


「何か問題があるんですか?」


「ん~、ちょっとね」


「よくある問題さ。隊長が実績を上げるとそれに対抗しようとする奴がいてな」


毛利川もりかわ~。うちの事情を他人に話すなよ~」


 向こうの隊員の一人がなんとなく漏らしたのでわかったが、よくある対抗心から来る嫉妬か何かか。


 実力に見合った実績で満足してればいいのに、無理をして到底実現不可能な作戦に手を出して自滅する奴もかなり多い。


 同じ様な人間が俺の身近にいたというか、直接会った事は無いんだが永遠見台高校とわみだいこうこうGE対策部の先代部長である堀舘ほりだて護哉もりやもその一人だ。


 あらたに入学予定の生徒に俺や佳津美かつみといったセミランカーが含まれていた為に先輩として威厳を保つ為、少しでも実績を作っておこうとして出来もしない拠点晶ベースの破壊作戦を計画して、そして愚かにも実行に移した。


 この作戦に巻き込まれた旧GE対策部の部員たちにとっては不幸な事件だろう。八十人いた旧GE対策部の部員中六十人までが未帰還、更に十人が石化は撒逃れたもののいまだに意識が戻らない昏睡状態という最悪の結果は永遠見台高校における最大の汚点として残されている。


 GEに襲われ生命力ライフゲージを全て失った者は石の像へと姿を変えるが、生命力ライフゲージの残りが十以下の状態になると通常の回復剤では生命力ライフゲージが回復しない昏睡状態となる。


 この状態で救出される事は本当に稀だが、旧GE対策部の最後の作戦ではまだ無事だった多くの隊員が瀕死の隊員を後方へ送り届けようとして、十人の昏睡状態の隊員を助け出す為に二十人近く新たな犠牲を出したと言われている。


 まだ無事な隊員を助けようという精神は立派だが、そうならない様に気を付けるのが隊長の役目だろうに。


 おかげで俺が永遠見台高校とわみだいこうこうGE対策部に入った時には部員が誰一人存在せず、俺が一から部を立て直さなければいけない事態になっていた訳だ。


 俺が入学していた時に堀舘ほりだて護哉もりやを含める旧部員が残っていれば、それはそれで面倒な事になっていただろうがな。


「防衛拠点の構築終了。後はここに押し寄せるGEを討伐するだけね」


「だけと言われても、いったいどんな数になるやら」


「千はくだらないだろうな。オハジキ大の魔滅晶カオスクリスタルだけで百万ポイントくらいにはなるんじゃないか?」


「集めるのが面相そうでんな……」


 こういっては普通にAGE活動をしている部隊に怒られるんだろうが、まさに時間の無駄だ。


 俺達の部隊は拠点晶ベース産の希少魔滅晶レアカオスクリスタルなんかで稼いでいるから、いつもオハジキ代の魔滅晶カオスクリスタルは全部回収してる訳じゃないんだよな。


 小遣い代わりに拾って来るのは止めないが、作戦行動に支障が出ないレベルでって事にしているし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る