第十七話 GE対策部で交流会?


「最近、部内での交流が少ないと思わない?」


 放課後、GE対策部の部室で楠木くすのき夕菜ゆうなが突然そんな事を言い出してきた。


 交流って、別にGE対策部はそこまで交流を重視する部活動じゃないし、みんなで頑張って大会に出るとかそういった活動をしてる訳でも無いぞ。


 そりゃ、毎週週末にはだいたい何処かでAGE活動を行っているが、今のところ大きな問題はないと思っているんだが。


「毎日放課後にこうして顔を会わせてる上に、毎週日曜日は作戦行動で時間を共にしているだろう?」


「そうっスね。先週の遺棄物回収はいひんかいしゅうなんかはピクニックみたいだったっスから」


「ピクニックと言うには最後に一波乱あっただろうが。中型GEミドルタイプの群れ、しかもレアタイプの蜘蛛型リビングアーマーに追いかけられるなんてそうそう無い体験だぞ」


 追いかけられたのは俺達だけどな。


 映画なんかではよく見るシチュエーションだが、実際にやらされるとあれ程の事とは思わなかった。


 流石に俺でもあの群れに囲まれたらどうにもならないからな。今までで一番焦ったかもしれない。


「そうじゃなくて、たまには皆でお昼とか食べたりしない? 料理の出来ない学食組の皆には私もおかずとかおにぎりを用意するし」


「いいですね~。それじゃあ、私も……」


聖華せいかはデザートのクッキーかマードレーヌあたりのお菓子をお願いね」


「そうでんな、聖華せいかちゃんがクッキーを作ってきてくれるなら、わてがおかずを何品か引き受けましょ」


「そういう事だったら俺も何品か用意するが、役割分担をした方がいいんじゃないか?」


 菓子類の製作にはプロ並みの腕を見せる伊藤だが、料理やジュース類を作らせると健康的なオカズ激苦青汁入り肉団子独特な色のジュース生薬入り激苦飲料など同じ人間が作ったとは思えないほどのゲテモノ料理を持ち込むことがある。


 伊藤の料理を食べたりドリンクを飲むと生命力ライフゲージが少し回復するからそういう狙いで作っている可能性はあるんだが、せめて日に三度の食事くらいは美味しい物を食いたいものだ。


「俺は飲み物を用意しよう。ペットボトルのお茶とジュースでいいか? 酒類は……」


「却下に決まってだろう!! ノンアルのビール類も禁止だ」


「仕方がない、今回は諦めてそっちの方向で行くか」


 他の奴らが楽しめるようにわざとだと分かっているが、神坂かみざかはこういう時に率先して羽目を外そうとしてくるからな。


 流石に瀬野せのレベルでやらかしてはこないが、こいつが生徒会や風紀委員に目を付けられている事は知っている。


「料理を用意するのは俺、楠木、たつの三人で、飲み物を用意するのが蒼雲そううんだな」


「伊藤がクッキーなんかの菓子を用意してくれるそうだが、霧養むかいも何かコンビニで用意してくれ」


「わかったっス。スナック菓子っスね」


 ここまでは順調に話が進んだが、問題は竹中をどうするかだ。


 あいつはここ数日はまともに食事もしていないようで、元々痩せていたのにさらに身体が細くなってるからな。


 例の時間切れリミットオーバーまであとひと月ちょっとだろうし、こうして部活に顔を出しているだけでも相当な精神力だと思うが……。


「ゆかりんはどうしまっか?」


「わたしは良いわ」


「ん~、今回は何も持ってこなくていいから参加しない? ほら、たまには食べないと体に悪いよ」


「そうですよ~。私の作るお菓子は割と評判がいいんですよ~」


 楠木たちも竹中の変化には気が付いているようだ。


 というよりも、今回の交流の話は竹中を気遣っての事か。


 おそらく言い出したのは伊藤で楠木はそれに乗った形なんだろうが……。 


「せっかくの交流会だし、竹中も参加したらどうだ?」


「それは隊長命令なの?」


「命令じゃないがお願いって所か。部隊創設からまだ三ヶ月ほどだが、こんな機会も無かったしな」


 そういえばファミレスでの食事も竹中はパスタだけとか異様に少なかった。


 うちの部に入ったのも、ここだったら何とかできるんじゃないかと期待しての事なのかもしれない。


 流石にレベル二とはいえ環状石ゲートの破壊は俺たちの手に余るが。


「わかったわ、参加する」


「ありがとう!! 腕を振るって色々作ってくるね」


「楠木とたつにはあとで話がある。誰が何を作ってくるか決めないと、全員が唐揚げを用意してくるなんて事態にもなりかねないからな」


「人気のおかず被りか……。唐揚げは大歓迎だが、そればっかりってのもきついぞ」


「だろう? せっかく料理が出来る者が三人もいるんだ。今回の材料費は部隊運営費から出すから必要な物をピックアップしてくれ」


 七人分の料理の材料となると割と費用も掛かるしな。


 目的はどうあれ部隊の交流だし、部隊の運営費から予算を出す事になにも問題はない。


「……それならさ、この後で買い物に行かない?」


「それはいいでんな。近所のス―パーにもいろいろありまっせ」


「俺が車を出せば運搬も楽だしな」


「出して貰えるとありがたいかな~」


 そうした方がいろいろ楽だし問題はないぞ。歩いて買いものってのもきついしな。


 ここから一番近いスーパーだとあそこか。生鮮食品の品揃えがいいんだが魚介類は若干高いんだよな。


 貝柱やスルメなんかの干物類は前回の遺棄物回収はいひんかいしゅうで十分な量を確保したし、あの時出さなかったが最高級の干し椎茸や昆布類なんかも大量に確保できた。


 神坂には信じられないだろうが、あいつが回収したCDやDVDより高い最高級の干し椎茸や昆布なんかも存在するのさ。俺にとってはまさにお宝だ。


「それじゃあ、今日の部活はそろそろ終わりにして明日の準備に取り掛かるか」


「了解だ。此処の戸締りは俺たちに任せてくれ。隣のコンビニで買って来るだけなんでな」


「一緒にスーパーに行けば多少は安いぞ」


「そこまで変わらないさ」


 こいつは普段金が無いとか言いつつ買い物はコンビニで済ませてるんだよな。


 予算的に余裕のある霧養むかいも同じ考えだ。


「それじゃあ戸締りを頼んだ。俺たちはあそこだ」


「今は全国展開してる割と大手のスーパーだよね。その分値段も高いけど」


「ジュース類や総菜はコンビニより確実に一割は安いぞ。あそこまで行くのは大変だけど」


 スーパーでしか売ってないものも多いし、料理に使う食材なんかは基本的にコンビニにはほとんどおいていないからな。


 費用対効果というか、料理をしない神坂たちが時間をかけてスーパーまで行く必要を感じないのはわかる。


 こいつはそんな時間があれば、先日手に入れたDVDでも見ていた方がマシと思っているんだろう。


◇◇◇


 このあたり最大のスーパー【グレートプラザ】。


 一階が食料品売り場で、二階が日用雑貨や服などを販売している。


 俺達が目指しているのは生鮮食品を売っている一角なんで、今日の所は二階には用がないけどな。


「まとめて会計するからこのカゴに入れてくれ。後で必要な物だけ持って帰ればいい」


「同じものが被ってもいいかな?」


「かまわへんでしょ。鶏肉はひとパックで十分な気はするんやけど」


 話し合いの結果、人気メニューで外せない唐揚げは楠木が担当する事に決まった。


 ミートボールとボイルウインナーは窪内くぼうち、俺はアスパラのベーコン巻きやひとくちコロッケなどだ。


 そのほかのメニューは好きに作ってもいいが、メインの唐揚げなんかの量が多いので被った場合でも困らない量になる筈。


「このくらい買えばいいだろう。ちょっと量が多い気もするけど」


「そうだね~。……ところでさ、ゆかり、何かあったの?」


「この位の量でおかしいとは思ったが、買い物に誘った訳はそれか。本人が言い出さない限り俺も何も言えんな」


「大体わかるんだけどね。ほら、クラスの子とかがGE関係で不登校になる前があんな感じじゃない? 中学の時でもそういう子を結構見かけたから」


 こんな状況で暮らしていると、身内や親しい物の誰かがGEに石に変えられて十年経過なんてことはよくある。


 親だったり兄弟だったり、状況は違うが十年経過する直前はおかしくなることが多い。


 愚者の突撃チャージ・オブ・フールを実行する奴は少ないが、塞ぎ込んだり精神を病む人間もかなり多い。その為にメンタルケア担当の医者が常駐している学校もあり、永遠見台高校とわみだいこうこうにもいるって話は聞いている。


 藁にも縋る思いで防衛軍に嘆願書などを送る奴もいるが、あそこには毎日同じ様な物が大量に届くので大体読まれもせずにそのまま廃棄されて終わりだ。


「力になれればいいが、俺達にできる事は少ない」


「そうでんな。出来へん事の方が多いのは間違いないでっせ」


「これで少しは元気が出てくれればいいんだけど……」


 無理を承知でアルコール類を持ち出そうとしたのは、神坂なりの気の使いようだったのかもしれないな。


 とはいえ、平日の昼休憩に部室で酒盛りなんてしてたらなんて言われるか知れたもんじゃない。


 俺が力になってやれればいいんだが、今の俺にはその力が無いからな。


 竹中が求めているのはAGE部隊だけでの環状石ゲートの破壊。それが出来るんだったらとっくにこの辺りは解放されている。

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