第十四話 遭遇!! 幻想目魔物魔法生物種蜘蛛型リビングアーマー


 俺達の住む居住区域は県知事の黒佐季くろさき基成もとなりと対GE民間防衛組織事務所の所長である影於幾かげおき之滋ゆきしげさんが支配している。


 この二人は相当なやり手で、この居住区域では俺をはじめとする一部の部隊が頑張っているので比較的に納品される魔滅晶カオスクリスタル希少魔滅晶レアカオスクリスタルをなどを横流しして他の居住区域などと交流し、他よりも優先して食料品などを確保できるように手を打っていた。


 基本的にスーパーに行けばそこそこ食材は揃っているし、この居住区域に限ってはコンビニの品ぞろえも割と優れている。


 しかし、上が何の手も打たない上に酪農も農耕可能な土地も無く食糧生産拠点も持たない居住区域などは本当に酷い有様だという。


 腹が減っては戦が出来ないではないが、AGE登録している者が対GE民間防衛組織のサイトで申請すればある程度の食糧は確保できる。米なども保管状況のいい古米や古古米まで視野に入れれば百キロ単位でも申請可能だ。


 対GE民間防衛組織のサイトで物資の発注をするにはGEを討伐して撃破ポイントを貯めるか、副産物である魔滅晶カオスクリスタルを対GE民間防衛組織に納品して発注申請に必要となる【ポイント】と交換して貰う必要がある。


 拠点晶ベースを破壊すればそれだけでその部隊には最低百万ポイントが支給され、破壊した功労者にも同額である百万ポイントが支払われる。


 更に拠点晶ベースが中継する支配地域が大きければ追加報酬まで支払われる事があり、危険度の大きな地区にある拠点晶ベースを破壊出来れば、それだけでその部隊は最高五百万ポイントほど入手する事が出来た。


 そういったカラクリで俺は部隊長になってから部隊運営で困った事は無い。資金不足でアルバイトに手を出さなくてもいいように、隊員にもポイントを分配しているんだがそのポイントをライブチケットやゲーム機なんかに変える奴らもいるんだよな。


 AGE活動で入手できるこのポイントは普通に電子マネーとしても使用できるので、ネット通販の寿買じゅかいはもちろんコンビニやファミレスなどでもよく使われている。


「この辺りを支配下に置く拠点晶ベースを破壊できれば凄いんだけどな」


「無理でっしゃろ」


「そりゃそうだが、このレベルの環状石ゲートの支配下にある拠点晶ベースだと幾重にも重なるように配置されてたりするしな」


 陣取りっていう表現が正しい様に環状石ゲートの支配地域は隙間ができいない様に周りに拠点晶ベースを増やして広がっていく。


 レベルが低いとひとつの拠点晶ベースでギリギリの範囲を支配下に置いているんだが、レベルが上がると間の拠点晶ベースが破壊されてもカバーできるように周りに別の拠点晶ベースが生えていたりする。


 ここの環状石ゲートはレベル七なので、この辺りを開放するとなると十近い拠点晶ベースを完全に破壊する必要がありそうだ。


 ん? 緊急通信?


「緊急連絡、緊急連絡!! 百メートル先のペットショップ跡に中型GEミドルタイプと思われる紅点を確認。数はひとつ、単独行動するなんて珍しいからF型の可能性が高い!!」


「間違いないですね。この反応はF型だと思います」


 伊藤いとうが断言するんだったら間違いないだろう。


 たまに高速移動する飛行型の中型GEミドルタイプもいるが、伊藤いとうはその違いを確実に見抜くからな。


「こちらの端末でも確認した。極力戦闘は避けるが気付かれた場合は応戦する。いつでも退却できるように準備してくれ」


「了解。非常時特例で霧養にもう一台の運転を任せる」


「霧養に運転は仕込んであるが合流時に俺が運転を変わる。無茶だけはするなよ」


「了解っス!!」


 GEが何を頼りに支配区域に踏み込んだ人間を初めとする生物を察知しているのかは分からないが、MIXなどは組み込まれた素体の能力に依存していると考えられている。


 しかし、F型だけは元の生物が本来地球上に存在しない為にどんな能力を持っているのか戦うまで分からない。そこのところも厄介なんだよな。


「紅点に動き!! おうさん気付かれてますわ!!」


「らしいな。周囲にいる他のGEが押し寄せる前にそいつを片付けるぞ」


 周りにはGEの存在を示す紅点が無い。迫る脅威は高速でここに向かってきているF型だけ。だけどどこから押し寄せて来るか分からないからな。


「どうやらこいつの方が足が速そうだな、大通りに続く十字路の前で迎撃するぞ!!」


「「「了解!!」」」


 この十字路の先にある駐車場まで逃げ切ればいいんだが、このまま走って逃げて追いつかれでもしたらその方が厄介だ。


 大型GEヘビータイプに匹敵するって噂の中型GEミドルタイプF型だが、一匹だけだったら何とかなるだろう。


 待ち構える路地にはただの石像と化した元人間の障害物が多数。


 路地の正面に姿を現した中型GEミドルタイプF型はその石像を砕きながら突進してきた。


「GEを肉眼で確認。過去のデータから幻想目魔物魔法生物種蜘蛛型リビングアーマーと判明。間違いなくF型だ!!」


 幻想目魔物魔法生物種、【リビングアーマー】。


 これまでに人型・虫型・動物型・竜型が確認されており特殊弾が利きにくい装甲で身を包んでいる事が多い。


 魔法生物種蜘蛛型リビングアーマーはドラゴン型の様に炎のブレスといった厄介な特殊能力は持っていないが、襲われた者の多くはリビングアーマーの頑丈な装甲で覆われたその身体に圧し掛かられると身動きが取れず、碌な抵抗も出来ずに生命力ライフゲージを削られてそのままの姿で石の彫刻に変わっていくって話だ。


 攻撃が通りにくい、その一点だけでもこいつがいかに強敵か分かるってもんだ。


「装甲の隙間から覗く関節部や胴体にある目玉が弱点らしい。グレード五に切り替えて竹中はそこ狙ってくれ」


「了解」


たつはこっちだ。グレード三が詰まっている」


「マジでっか。一発三百円でっせ!!」


 いつもの三倍以上の弾だ。下手をすれば特殊ランチャーを使うより高くつきそうだからな。


「出し惜しみしている場合じゃない。こういう時用に用意してきた弾だ」


「了解や。遠慮のういきまっせ!!」


 竹中はPSG―1に高純度の特殊弾が詰まった弾倉マガジンを差し込み、蜘蛛型リビングアーマーの足の関節に狙いを付ける。


 その竹中に合わせて伊藤がフルオートで胴体を撃ちながら横に二メートルほど移動し、そこで立ち止まってマガジンが空になるまで特殊弾を撃ち続けた。伊藤のマガジンにもグレード三が詰まっているんだが、窪内くぼうちほど高速で撃ち出せないのでそこまで弾代は掛からない。


 蜘蛛型リビングアーマーは狙いを伊藤に変える為に一瞬動きを止めた。僅か数秒だが脚を同じ位置に留める事に成功したようだな。

 竹中はその僅かな隙を逃さず脚の関節の一番柔らかい部分にグレード五の弾を撃ち込み、その僅か一発で蜘蛛型リビングアーマーの右前脚を根元から切り離した。


「流石に足一本はそう簡単には再生しないか。なんとなくだが、中型GEミドルタイプにしては再生能力は低い気がする」


「再生してもろうたら困りまっせ。でも、確かにあのくらいやと再生が始まってないのは変でんな」


「再生が遅いのは良い事よ」


「傷跡を狙うと効果的だが、あの状態でも割とちょこまかと動きやがるな」


「同じ側の足を狙うわ」


 竹中は冷静に蜘蛛型リビングアーマーの動きを読み、残ったもう一本の右前脚を根元から吹き飛ばした。


 僅かに動きが鈍くなったとはいえ大した腕だ。


 右前脚に本を失った事でバランスが崩れたのか、蜘蛛型リビングアーマーの動きが鈍くなったというかやけに右側を庇う様に動いてるな。


「ねえ凰樹おうきくん。なんとな~くなんだけど、あのGEの胸の奥に拠点晶ベースっぽい気配を感じま~す」


「……GEの内部にか?」


「うん。小型端末の紅点は確かに中型GEミドルタイプなんだけど、なんとな~く違う気がするんだ~」


 伊藤の勘は馬鹿にできない。


 小型端末やノートパソコン型に映し出された僅かな違和感から、信じられないような精度の情報を送ってくることも何度かあった。


 しかし、F型とはいえ中型GEミドルタイプの内部に拠点晶ベースの反応か。


 もしかして……。


たつ、そのマガジンを空にしてもいいから奴を数秒足止めしてくれ。竹中は右側の残った足を頼む」


「了解でっせ!!」


「任されたわ」


 俺はトイガンを腰に固定して特殊小太刀を手に取り、チャージボタンを押して刀身に力を充填し始めた。


 こいつの正体が俺の思っている通りだったらこのまま攻撃し続けると危険だ。特殊小太刀こいつで一気に倒しきる必要がある。


「チャージ? GE相手にでっか!!」


「ああ。……そこだ!!」


 蜘蛛型リビングアーマーの右足の傷跡から胸部内に拠点晶ベースっぽい何かが見えた。


 こいつがGEであることを考慮していつもの倍近い生命力ライフゲージをチャージしたから十分な筈!!


「砕けろ!!」


「この反応!! 拠点晶ベースでっか?」


「出て来た希少魔滅晶レアカオスクリスタル拠点晶ベースから出た物よりさらにデカい。だけどこの感じは似てる気がする」


「GEの内部にどうして……」


 いくら考えても結論は出ないだろう。手持ちの情報が少なすぎる。


 っと。こいつの正体が何であれ拠点晶ベースに攻撃したんだ。破壊はしたがこのレベルの環状石ゲートだと……。


「こちら凰樹だ。F型の撃破完了したが、周りで何か動きはないか?」


「もう撃破したのか? えっと……、五百メートル先にそいつと同サイズ紅点多数出現!! そいつ、死んだ瞬間に仲間呼ぶタイプみたいだぞ!!」


「考えるのは後だな。急いでこっちに車を回してくれ。俺の生命力ライフゲージも限りがあるから、大量のF型を退治できるなんて思えん」


「今大通りを走ってる。……見つけた!! 急いで乗り込んでくれ」


 神坂かみざかが運転する荷物運搬用のライトバンタイプに荷物を投げ込み、ドアを開けて伊藤と竹中を座席に押し込んだ。


「霧養は何処だ?」


「あいつはまだ運転に慣れてないから、大通りの入り口だな。あ、ようやく見えて来たぞ」


 運転に不慣れな霧養は通りに点在する石像を避けながらゆっくりと近づいてくる。普段であればあの慎重な運転は評価できるんだが、こんな非常時にはそんな悠長な事を言っている暇はない!!。


たつは助手席に乗って蒼雲達と先に離脱しろ。俺は霧養と運転を変わって後から脱出する。合流は国道沿いにある例のレストラン跡だ」


「了解……、でも大丈夫でっか?」


「手荒な運転なら任せとけ、乗ってるのが霧養だけなら問題無い」


「車を出すぞ!! シートベルトを忘れるな!!」


 いろいろ察した神坂は全力で大通りの反対側に向かって車を走らせた。此処のアーケードは通り抜けできるからあっちからでも脱出可能だ。


 俺は全力で霧養の運転するライトバンの傍まで走った、霧養の方も理解しているからサイドを引いてすぐに運転席から降り、そのまま反対側に回って助手席に乗り込んだ。


「急いで脱出するぞ!!」


「了解っス」


 こっちの車には戦利品の蜂蜜なんかは積み込んでないしな。多少手荒な運転をしても壊れるものはない。その場で反対方向に転換してアクセル全開で大通りから脱出した。


 俺が運転するライトバンが大通りを抜ける直前、バックミラー越しに見える後方の十字路に無数の蛛型リビングアーマーが姿を現してそのまま大通りを埋め尽くしている。あのまま神坂の後を追って反対側に抜けていたら、十字路付近であの蛛型リビングアーマーの群れに巻き込まれて新たな石像の仲間入りをしていた事だろう。


「間一髪って所か。映画だと良くあるシーンだが、体験するのは御免蒙ごめんこうむりたい所だな」


「まったくっスね。俺の運転が遅くてすんません」


「いや、普段ならあの位に慎重な方が良いんだ。俺も蛛型リビングアーマーがあそこまで動きが素早いとは思わなかった」


「というか、F型があんなに大量に存在するなんておかしいっスよ。レアなんじゃないんすか?」


 今ある情報では断言できないが、F型は拠点晶ベースを取り込んだ中型GEミドルタイプの可能性があるな。


 F型の再生能力が若干低いのは拠点晶ベースの再生能力が低い事と合わせて考えれば納得できる。


 仲間を呼んだというよりは、拠点晶ベースに攻撃を加えた時と同じ様な感じじゃないのか? 他の小型GEライトタイプは近付いてこないから微妙に状況は違うけどな。


「これで二度とあそこに遺棄物回収はいひんかいしゅうに行く事は無くなったな」


「そうっスね……」


 流石にレベル七環状石ゲートだ、そう簡単に俺たち程度に奪還させてくれるようなエリアは持ち合わせてないって事だな。


 レベル一桁でも七以上になると拠点晶ベースの攻略が困難だと聞いた事があるが、他でもF型に近いGEか何かがいるのかもしれない。


 あそこに遺棄物回収はいひんかいしゅうに行けなくなった窪内くぼうち神坂かみざかは残念がるだろうが、こればかりは諦めて貰うしかないだろう。


 あれだけの数の蜘蛛型リビングアーマーを倒せるんだったら別だけどな!!

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