第十三話 完全廃棄地区に潜む脅威の噂
昼前になったので時間通りに
ずいぶん重そうなリュックを背負っているが、あの中にはお宝が満載しているんだろうな。
「お疲れさん。今すぐ食わない物や持って帰る物はとりあえず壊れないように注意して固定しておいてくれ」
「もちろんだ。せっかく此処まで持って帰っておきながら、戻る最中で割れたりしたら最悪だからな」
「私たちの分は向こうの車に乗せるね。ちゃんと持ち替える用の衝撃緩和剤は用意してるし」
いわゆるプチプチだな。蜂蜜は瓶入りが多いし、念の為に大量にアレを用意していたみたいだ。
荷物が壊れるような荒い運転をするつもりはないが、緊急時にはその限りじゃないしな。
「こっちの缶詰は食べてみたいっス!!」
「マジで牛肉の甘露煮があるぞ。よく見つけたな」
「おいおい、それは
「……鳥皮の味噌煮か。それは酒のつまみな気がするが」
「別の店で年代物だがスルメイカと干し貝柱なんかも見つけたぞ。酒類を扱ってない雑貨屋だったからこの辺りでもまだ無事だった」
鳥皮の味噌煮は湯煎したし、干し貝柱は水で戻した後に卵などを加えてインスタントの中華スープの素で雑炊にしてある。
スルメは軽く炙って七味とマヨネーズなんかを用意してみた。そのまま食べてもおいしいけどな。
「何気に料理が上手いよな」
「簡単な物だけだ。長年一人で暮らしてると身に着くだろ?」
「そうでんな。最低限のスキルは身につくんちゃいます?」
「焼くか煮たら食えるっス」
「適当に焼けばいいだろ」
うちの部隊だと他に料理の腕が不明なのは竹中くらいか?
伊藤が調理に手をだそうとすると、
「あのさ、輝。午後からは私が残ってもいいよ。欲しい物はたくさん手に入ったし」
確かにこれだけ回収すれば満足だろう。それに、お宝を持ち帰る体力も無限じゃないしな。
「すまない。では
「う、うん。任せて」
「任せてください! 俺が居るから大丈夫っス」
「わては問題あらへんが、索敵担当の
「この商店街の奥にAGE事務局があっただろう? そのあたりを調べてみようと思ってな。あの辺りは過去に何度か遭遇報告もあるし、現場で判断して貰った方がいい」
AGE事務局は割と大き目な街に配置された出張所の様な物で、ここが壊滅した当時ではこの辺りで一番大きな事務局だった。
武器などは守備隊や依頼を受けたAGEの手で十年を待たずに先に回収されたという話だが、一応調べてみるに越した事は無い。
デパートを探索してきた
◇◇◇
「それじゃあ俺達はAGEの事務局に向かう。こっちでも小型端末で索敵をするが、そっちでも広範囲にGEの監視を頼んだぞ」
「何か異常があればすぐに知らせるから。あの……無茶だけはしないでね」
「午前中はGEの影すらなかったが、反対側にいたからだろう。ここにもGEが攻めて来る可能性だってあるから気を付けろよ」
例の
どうやって探知しているのかは知らないが、周りにGEが一匹もいない危険区域でも人が足を踏み入れればGEが寄って来るんだよな。
それにここには噂になっている有名なGEがいる。そいつも例の件で向こうに移動しているのかもしれないが、相手にすれば相当苦戦するのは間違いない。
そのGEの存在があるからこそ普段は同行させる神坂や霧養を此処に残したのだが、その事を楠木はまだ理解していないみたいだな。
「この辺りのエリアで
「本当にこの場所にF型なんているんですか?」
魔物類幻想目魔物魔法生物種及び魔物類生物目魔物幻想生物種の総称で通称のF型。
ファンタジー小説に出て来る様な魔物そのものの姿をしており、サイズは
また、確認されているドラゴンタイプでは口から吐く炎で包まれると焼け死ぬ事は無いが、その炎が消えた時その炎で包まれていた人間が全員石の彫刻に変わっていたという報告もある。
「ああ、その可能性は高い。この辺りに姿を見せていたF型が誰かに退治されたって話は聞かないからな」
「そうでんな。出来れば会いとうないですが、こればっかりは運次第やし。その為に蒼雲はん達を残しはったんしょ?」
探索メンバーはF型に遭遇してもそれ程問題は無い。最悪、ワンマガジン分だけ用意しているグレード五の中純度弾を竹中に使わせた上で、俺が特殊小太刀で斬り刻めば討伐が可能だろう。
しかし、残している蒼雲、楠木、霧養の三人は若干不安が残る。
運転手として神坂と霧養を残して撃退と牽制用として霧養達にもグレード四の特殊弾が詰まったマガジンを渡してあるが、F型の噂が本当だったらグレード六以上の特殊弾でもない限り撃破するのは難しいだろう。
これだけ多くの物資が残されているにも拘らずAGE部隊が滅多に回収に来ない理由は、此処にいると噂されるF型が原因だからな。
身体の一部が欠けた石像の立ち並ぶメイン通りから少し離れ、入り組んだ裏通りへと進んでいく。
午前中がそうだったように、
逆に犬猫や鳥などの動物が集まる場所にはGEの出現率が高く、ペットショップや犬猫の溜まり場になっている場所などは特に警戒が必要になるって話だ。
「AGEの事務局は元コンビニの居抜きを丸ごと利用した建物だったな。外観で見分けが付きそうなんだが……。アレか?」
「間違いなさそ~ですね~。あの外観、学校前のコンビニとそっくりです」
「店の規模は学校前のコンビニよりデカいが同じ系列のコンビニだしな」
同じ系列なんで似てて当然というか違ったら驚きだ。
この店は十数年前に建てられた後で撤退した筈なんで、その間にデザインが一新されたりしてると分からないが。
AGEが設立した経緯からも分かるが民間企業の援助や募金で運営していた初期の事務局には基本的に予算などほとんど掛けられず、国からの援助が本格的に始まった二〇一一年前以前に出来た事務局は基本的にコンビニなどの居抜きや立地条件の悪い小さな店などを利用している。
出来た当時はソコソコ栄えていたこの地区でさえコンビニ後の居抜きを利用していた辺り、当時のAGEに対する期待度が窺い知れるという物だ。
「周りと内部にGEの反応は無し、ドアも……開いてるな」
「この辺りはGEの襲撃があった時間がお昼って話ですから~。入り口とかは開いてると思いますよ~」
AGE事務所の中はすでに色々と持ち出された後で、武器庫に収められていた武器や特殊弾などはひとつも残されていなかった。
もし見つかったとしても当時の特殊弾グレードは現在の物よりもツーランク以上落ちるといわれているし、現在使われている物の方が精度も威力も上な為に好んで使う者はいない。別の場所のAGE事務所で残っていた低純度の特殊弾を弾幕としてバラ撒く為に回収する者は存在していたが、ほとんど役に立たなかったという話も聞いている。
「当時の物でも特殊ランチャー辺りが見つかればラッキーだったんだが」
「うちの部隊やと無用の長物やろ?」
「当時の特殊ランチャーを発見してAGE事務局に届けると、相応のポイントと交換してくれるんだ。追加でいくらか払うと最新型の特殊ランチャーとの交換もあるらしい」
「確か三十万ポイントで引き取り、二十万ポイント支払ろうたら最新型やったか?」
うちの部隊だと俺頼りでしか
もう一つ
「こっちの個人ロッカーの中に面白いものがありまっせ。……アルミが使われていない旧型のGE用ナイフ? こっちは七発しか装弾できない上にコッキングのハンドガン……。ガバメントっぽいけど」
「この街が襲われた時期はまだ強化型の政府公認の特殊改造タイプが開発されていない。特殊弾の威力を上げる為に色々知恵を出して試作を重ねてたみたいだな……」
「他にも無許可で色々弄っとった人がおったみたいや。これ、試作型の特殊ランチャーやな」
個人で作られたものだからポイントと交換もされないし、最新型との引き換えにも使えない。
だから誰も手を付けずに放置されていたんだろう。
窪内は試作品のロッカーの中にあった大量のパーツと、コッキングのハンドガン等をカバンに詰めた。一応試作型の特殊ランチャーも回収するみたいだな。
「他にはめぼしい物は無さそうでんな。まあ、この試作型特殊ランチャーも使い様やろ」
「あまり収穫は無かったけどこんな物だろうな。午前中に大量の食料品が入手できたのは大きいかも知れないが」
「個人回収分を除いたらホントに微々たるもんでんな」
この辺りもせこい部隊だと全部集めた後で再分配だとか言い出すんだが、うちでは基本見つけて回収した人間の物という事にしいる。
例外は金券類や貴金属なんかだが、これは税金なんかの関係もあるから部隊で回収するしかないんだよな。
ただ、許される行為であってもレジの金に手を付けるような隊員はうちの部隊にはいないし、自動販売機を破壊して中の小銭をあさる奴もいない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます