第十二話 デパートに残されていたお宝の山だ!!【神坂蒼雲視点】


 デパート内部の階段には石化した人であふれていた。


 エレベーターは無理だろうし、エスカレーターも使えないとなると逃げるルートはここか非常階段くらいしかないからな。


 ……確かにこんな状況じゃ上の階から荷物を持って換えるのは困難だろう。……半分くらいはどけたというか砕いた後があるが、もう元に戻れないとはいえあんな行動に出れる奴がいるのは信じられない。


「ひっどいありさまでんな。あの辺りはハンマーかなんか使こうてまっせ」


「俺は元に戻れないと分かっていてもこんな真似はしたくないが、こうまでしなきゃならない状況にでも陥ったのか?」


「可能性はあるよね~。こんな場所でGEに襲われたら最悪だし……」


「ん? 楠木くすのき達は向こうに行ったんじゃないのか?」


「よく調べたら食料品は地下一階だったの。だから、そっちの階段に用があるんだ~」


 上の階に繋がる階段と下の階に繋がる階段があるな。


 地下階は食い物屋しかないと思っていたが、あの奥に食料品売り場があったのか。


「それじゃあ、ここでいったんお別れだな。お互いの戦利品は後で見せ合おうぜ」


「了解!! 聖華せいか行くよ!!」


「は~い」


「俺も行くっス」


 楠木くすのき達三人は地下の探索に行き、俺と窪内くぼうちはお宝の眠る五階と六階をそれぞれ目指した。


 しかし、ここまで荒らされていないデパートとかあるんだな。今まではレベル一の環状石ゲートの支配下にある完全廃棄地区ばかりだったから、ここまで奇麗な状態なんて信じられない。


 中には重機まで持ち出して色々回収する奴もいるからな。


「わてはこっちでんな。蒼雲そううんはんの健闘を祈りまっせ」


「お互いにな。さて、お宝ちゃんが俺を待ってるぜ!!」


 窪内くぼうちもいつも以上にハイテンションだな。


 ホコリくらいは被っているだろうが、箱に入ったままの新品のゲーム機やソフトには関係ない。


 むしろ注意しなきゃいけないのは俺の方だ。新品のCDは問題ないが、中古CDで中に傷防止用のスポンジが入っている場合は最悪なんだよよな。外から見たんじゃ分かりにくいし、持って帰った後のがっかり感は相当なものだ。


 だから俺も戦利品はできる限り新品を持ち帰るようにしているんだが、希少なCDだと中古でも仕方ない事もある。


◇◇◇


 お宝の探索を始めて既に三十分ほどが過ぎただろうか?


 正直デパートの一角にあるCD売り場の規模なんて大したことが無いだろうと考えていたが、俺の想像をはるかに超える量のCDやDVDなどが棚に並んだままだった。


 アイドル系のCDやライブDVDが最優先なのは変わらないが、今は視聴が困難なDVDなんかも高額で取引されているのでどれを持って換えるか頭を悩ませている。


「やべぇ。宝の山だ……」


 絶盤になったCD類。国が運営するデジタルアーカイブや寿買じゅかいアーカイブでも配信されていないアニメやドラマなんかのボックス。限定版のDVDセットに初回特典付きのCD。


 レジの奥にある棚の中には誰かの注文分だった初回限定CDなんかもあるが、流石に十年以上放置されているからこれを取りに来る奴はいないだろう。頼んだ奴は楽しみにしていたんだろうが、GEの襲撃で全部パーになったって事だよな。


 背負った大型の収納バックは空にしてきているが、うまく詰め込んでもこのお宝の半分も持ち帰れはしない。午後からはあきらがメインで探索をするだろうから、もう一度ここに来る可能性は低い。


 あいつはここよりも近場の雑貨屋を優先するような奴だ。


「とりあえず出来る限り効率的に詰め込むしかない。この辺りのDVDボックスは嵩張るから今回は諦めて、こっちの初回限定特典付きのCDは絶対に必要だ」


 アイドル系のCDやDVDは最優先。あとはメモってきた情報を頼りに出来るだけ回収。


 ……このCDとこっちを一緒にしたら上手く入りそうなんだが……。


「やった~!! こ~んなに大きな無傷の蜂蜜の瓶、はっけーーーーーーーん!! 保存状態が良いから間違いなく大丈夫だよ~っ」


「すごいです!! いろんな種類の蜜が揃っていますよ~」


聖華せいか!! 見て見て、こっちにはザラメと白砂糖がこんなに!! これは絶対、持って帰らないと!!」


 ……なにかにあたって通信スイッチが入りっぱなしになったのか、楠木くすのき達の会話がイヤホンから流れて来た。


 どうやらあいつらもお目当ての物は見つけたみたいだな。


 混ぜ物が入ってない純粋な蜂蜜は確かに貴重だが、持って帰る事を考えたら重すぎる。ゲーセンのゲーム筐体よりは軽いだろうが。


「缶詰も色々あるけど、どれがいいか分かんないっスね」


「大体このデパートは上の方の棚が高級品コーナーみたいでんな。カニ缶や牛肉の甘露煮なんかは買うたら一つ千円超えまっせ」


「マジっスか!? あ~でもカニ缶は二個しかない。牛肉の甘露煮は七個あるけど」


「そんな高い缶詰、何個も置いてる訳ありまへん。牛肉の方が七個あった事の方が驚きでんな」


 どの缶詰を持って帰っていいか分からない霧養むかいは通信で窪内のアドバイスを貰っているみたいだ。


 ……マジで牛肉の甘露煮があったのか?


 牛肉なんてまともに食えたためしはないんだが、昔はあれでも食えてたって話だしな。


 鶏肉や豚肉なんかは比較的何処でも流通しているんだが、牛肉なんて潰した乳牛の肉か金持ち用に手塩に育てられた俺たちの手が届かない高級品のどっちかだ。


「オイルサーディンなんかは当たりも多いでっせ。それでも流石に十年ものやしハズレも多いやろ」


「後はコーンビーフとか鯖缶が多いっスね。確か果物系は多かった気がするっス……」


「以前の教訓やな。保存状態次第やし全部やないけど」


 どこぞの国には昔イクラの缶詰があったらしい。キャビアの缶詰がある位だから大丈夫なんだろうが、流石に他の物と比べたら危険度は高いだろう。


 塩漬けで何年持つかは知らないが、おそらく俺たちが口にすることはない。


窪内くぼうち、そっちの回収は終わったのか?」


「お宝の山、シャングリラが広がってましたわ。未開封のゲーム機本体とソフトを可能な限り詰め込んだ後でっせ」


「こっちもお宝の山だぜ。初回限定品や廃盤のCDやDVDが山ほどあったぞ」


 ……よし、こっちもこれ以上詰め込むのは危険だ。


 これを背負ってあの階段を下りて駐車場まで帰るのが大変だが、このお宝を見逃す訳にはいかない。


 できれば違う機会に残りも回収したいところだな。


「そろそろ引き上げないとあきらが怒るんじゃない?」


「作戦時間は……、戻ることも考えると確かにギリギリだな」


「急いで戻りまっせ」


 滅多な事じゃ怒らないんだが、アレでもあきらは怒らせると怖いからな。


 さて、背中から感じる重みを甘受しつつあの階段を降りるとするか。


 これ何キロくらいあるんだろうな?


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