第十一話 完全廃棄地区で遺棄物回収を【神坂蒼雲視点】


「アルミ製品は根こそぎ持ってかれとりまんな。高額商品を扱っとった店も、ひっどいありさまでんな~。あの店なんてアルミ製のシャッターまで持ってかれとりまっせ」


 元々寂れかけていた商店街だったが、僅かに残っていた高級時計店、宝石店、アクセサリーショップ、酒屋、洋服店等はシャッターを破壊されて店内の商品はひとつ残らず運び出されていた。


 襲われた時は昼間だった筈なので店の持ち主が盗難を恐れてシャッターを下ろしたんだろうが、シャッターはハンマーか何かで叩き壊されている。アルミのシャッターなんて丸ごと盗まれてる時もあるしな。


「呉服店や、鞄とか帽子の専門店も全滅だね~。鞄は色々使い道があるから、残ってたらラッキーだったんだけどね~」


「戦利品を詰め込むのに使ったんだろう。宝石や貴金属系ならそこまで大きなバックでなくてもいいし」


 何処の廃棄地区でもそうだが回収しやすく退路が確保しやすい駐車場に近い場所や車の出入りが容易な場所が真っ先に荒らされ、商店街の奥深くやデパートの最上階などは意外に荒らされていない事も多い。


 完全廃棄地区は基本的に電気系統が死んでいる事もあり、GEが襲ってくるリスクがあるにも拘らずエレベーター無しで十階以上の階に階段で登って重い装備と戦利品を抱えて階段を降りるという危険行為を繰り返す猛者もさは少ないからだ。


 それと同様に通りに面した店舗でも危険を冒してまで十年以上前の食料品を狙う物好きは少なく、食料品や生活雑貨だけを扱う店舗などは無傷のまま残されている。


 シャッターが破壊されて荒れ果てた廃墟と化したこの街にも無数の石像が並び、GE襲撃時の混乱と恐怖を窺い知る事ができた。


「かわいそうですよね……。あの女の子なんて私達と同じくらいなのに」


 視線の先には、高校生位の女の子が何かから逃げようとして走っている姿で石に変わり地面に横たわっていた。


 倒れた時は砕けなかったのだろうが時が経って髪の毛の一部が砕け、細かい石の針と化して地面に散乱している。服も風雨に晒し続けた事で激しく汚れ、所々破けてその下に隠されていた石の肌を覗かせているようだ。


 基本的にGEの攻撃は生命力ライフゲージを奪うだけで身に着けている装備類は破壊されない。

 あいつらの攻撃は服の上からでも生命力ライフゲージを奪うからな。


 だから街に並ぶ石像は服を着たままだし、誰かが意図的に脱がせたりしない限り全裸の石像なんて見かける事は殆ど無い。


 ただ稀に物理攻撃というか人が立て籠もっている建物の扉なんかを砂に変えて破壊するGEが出現するらしく、そのGEに襲われた時は装備が破壊されたりすることもある。この商店街でも何ヶ所か見かけるしな。


 そのGEに攻撃された時も触れるものを全て砂に変えたりする訳じゃなくて、どうもそのGEが砂に変える物を選ぶことができるっぽい。


 そうじゃないと高速道路や大きな河の橋の上でそのGEが攻撃した時、足場を崩して河底に真っ逆さまって事になるからな。


 ここのアーケードも十年以上たてばボロボロだし、横殴りの雨が降ればこの辺りは濡れるだろうしな。……ん?


「あそこの女の子は俺たちと同じように遺棄物回収はいひんかいしゅうにきたAGEじゃないか? 身に着けている服が新しいしまだ綺麗だ」


「そうっスね。分かってて下着まで剥ぎ取ってる奴がいるのは最低っス」


「ホント、さいっていよね~。近くの店からタオルか何かかけてあげるわ」


「特殊トイガン系は仕方ないとして、服まで持っていくのは最悪だ」


 高価な特殊トイガンは仕方がない。ここでGEとの戦闘があれば、まだ弾のある特殊トイガンを放置して逃げるって選択肢は無いからな。


 問題はその後だ、後から来たAGE隊員の誰かが彼女の来ている服をいたずら目的か何かで剥ぎ取ったって事だろう。


 家族や部隊の仲間がタグか何かを持って換えるのは理解できるが、それ以上の物を形見として持ち帰る事は無いしな。


「前の遺棄物回収はいひんかいしゅうの時もそうだったけど、ここに居る人達もリングの表示が消えてるんだね」


「この街が襲われたのは十年以上前だからな。十年過ぎても一年位は表示されてる事もあるらしいけど……」


 それがなにを意味しているのか、楠木くすのき達は十分に理解していた。


 ここに並ぶ石像達はこのエリアに影響力を持つ環状石ゲートを破壊したとしても、もう生身の人間に戻る事は無い。


「完全廃棄地区では見慣れた光景でんな。アレを見て病む人間も多いっちゅう話や」


「それは仕方ないよ。家族や親しい人のあんな姿を見たら泣くと思うし」


 少し離れた場所にある少女の石像は腕などが砕け落ち、その欠片が四方に散乱している。


 確かにあの姿を見るのはショックだろう。


「今の居住区域がならんように頑張るしかあらへんな」


「守備隊だけじゃ手が回り切れてないし、俺たちが頑張るしかない。もう少し武器がよけりゃ……」


「それは言いっこなしだよ。これでも私たちは恵まれてる方でしょ?」


「ここまで最新の装備で固めてるAGEなんてそんなにいないからな。あきら坂城さかきの爺さんのお陰じゃあるんだが」


「その代わりあの爺さん、たま~におかしな装備を送って来よりまっせ」


 ああ、趣味全開のおかしな装備な。


 特撮ヒーロー物かって位に派手な装備とか、これ絶対使いにくいだろうってくらいごちゃごちゃしたトイガンとか……。


 とりあえず今はそんな事はどうでもいいか。今日の俺の目的はここだ!!


「着いたな。目標は五階のCD売り場と六階のおもちゃ売り場だ」


「七階じゃなかったんですか~?」


「七階にあるのはゲームセンターだな。今回は諦めるだろ?」


「しゃあないでんな。流石に筐体抱えて七階も降りられへんやろ?」


 出来たらやる気だったのか、こいつは。


 そういえば以前も遺棄物回収はいひんかいしゅうの時にテーブル筐体を抱えて集まってきた事があったな。


 今回も狙うんだったら駐車場の近くにあったでかいゲーセンだろう。


「作戦時間は限られてる。出来るだけ速やかに六階まで上がるが、問題が無ければお前は五階を物色してくれ」


「承知でっせ。夕菜ゆうなはんと聖華ちゃんはどうしまっか?」


「私たちは一階の食品売り場かな? このクラスの店だったら店頭に並んでる分でも期待できるし……」


「バックヤードに行ければいいんですが、そこまでする事もないですしね~」


 蜂蜜や砂糖系が目当てだったら店頭にある分でも相当な量になるだろうしな。


 一回に持ち帰れる量には限度があるから、倉庫の在庫を持ち出さなくてもいいだろう。


 俺や窪内は目的が決まりきっているが、霧養むかいはどうする気なんだ?


「お前はどうする? なにか探してるものでもあるのか?」


「俺は缶詰を見に行くっス。食料問題は深刻っスから」


「じゃあ私たちと一緒だね。あ、蜂蜜と砂糖がたくさん見つかった時はお願いね」


「干物系もいいかもしれませんね~」


 干しシイタケとか干し貝柱系か。


 干物も高いけど、俺は料理をしないからあまり必要に思わないんだよな。干し貝柱は酒のあてにはいいが、同じようなつまみで肴にするんだったらスルメかジャーキーの方がマシな気はする。


 さてと、最終確認で周りにGEがいないか確認するか。


「こちら神坂かみざか、例のデパートに到着した。安全確認を頼む」


「こちら凰樹おうき、デパートの周囲および内部にはGEの反応なしだ。GPSでも百メートル圏内にGEの反応は無いぞ。屋上近くは飛行タイプが来る可能性があるんで気を付けろよ」


「了解。飛行タイプを確認したら連絡をくれ」


 飛行タイプか。鳥型のGEは飛んでくることもあるが、全体的に数は少ないんだよな。


 気を付けなければいけないのは休眠してる擬態した植物タイプのGEだ。あいつらは動かないと普通の植物とほとんど見分けがつかない。


「大丈夫みたいやね。さて、わてのお宝が待っとりまっせ!!」


「俺もいろいろ楽しみだ。そこそこ高レベルの環状石ゲートじゃないと、ほとんど何も残っていないからな」


「そうっスね。食料品は何処もあるんっスけど」


 十年以上経過して普通に食える物が少ないからだろう?


 昔ながらの製法で作られて壺に入った梅干しなんかは普通に食えるが、それ以外だと腐らない砂糖類や干物系が精々だ。後は何とか無事な物が食える缶詰か。


 環状石ゲートの支配下にある地域では発酵なんかも抑制されるから腐りにくいが、水分が飛んでカラカラの干物に変わってるだけだしな。


 やっぱり食いもの系を狙う奴はいないだろう。


「それじゃあ内部に突入するぞ。照明は落ちてるからライトは忘れるな」


「昼間でも暗いからね~。……これでOK」


「それじゃあ、お宝目指して頑張りますか」


 限定版のCDなんかは高額で売れたりするからな。


 俺がアイドル系のCDを他人に売る事は無いが、他のジャンルのCDで高額買取情報がある物はメモってきた。もし無事に売却できたらライブチケット資金として有効に活用させて貰おう。

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