第14話
大無の死の原因がシヴァの顔認証システムの精度の悪さだと判明しても、ヤミーは判断を変えなかった。彼の不幸など他人事、素知らぬ態度を決め込んだ。
大無は、彼女の過ちを指摘して一矢報いたいと思った。自分の死が理不尽なものだったと認めさせなければ、自分自身その死を受け止めきれない。
「シヴァは閻魔大王が作ったのですか?」
「まさか……。閻魔大王様が意図的に命を奪うことはありません。ヌシの死に関しては、すべて人間がやったことですよ。知恵の使い方を知らない人類は、自らの手で自分の首を絞めているのです。このままでは冥界は死人であふれ、フレコンバッグ不足でオーバーフローしてしまう。むしろ閻魔大王様は、それを
彼女は大無を
「ここがオーバーフローしないようにするのは、皆さんの務めです……」
その時、隣から大きな声がした。
「……写真が投稿されただけで、どうしてボクは死んだのですか。納得がいきません!」
見れば、善春がヤミーに組み付きそうな勢いだった。
「シヴァの祟りです。それは人外の
隣のヤミーは善春が伸ばした手を振り払って口角を上げた。
祟り?……大無は自分の耳を疑った。
「さて、さくさくと分別を終わらせましょう」
目の前のヤミーが言った。
祟り、人外の業?……大無のスカスカの脳内で言葉が舞った。
「あのう、審査基準を教えてもらえますか?」
さくさくと終わらせられてはたまらないと思った。
「失礼、手続きについて説明を忘れていました。何分、分身なのでお許しください」
「さっきは、分身でも能力は同じだと……」
「おや、覚えていましたか。……まぁ、細かいことはお忘れなさい……」ヤミーが話を進めていく。「……審査というのは、魂の品質を検査することです。冥界では、ヌシらは物と同じ。問われているのは、ヌシがどこに行く資格があるかではなく、世界がヌシをどのように造ったか、どのように見ているか、ということです。もし、不良品、いえ基準外であれば、地獄で廃棄処分。……審査の結果、不良品と位置付けられても自分を責めてはいけません。責任が問われるのは、ヌシではなく世界そのものなのです」
大無の緊張をほぐそうというのだろう。彼女が微笑んだ。
「何がおかしいのです。世界が悪いとしても、それで廃棄されるのは、僕自身なのですよ」
「おやおや、
ヤミーが大無に冷たい視線を投げた。
気持ちが読めるのか?……改めて冥界にいることを実感した。
「あのう、地獄の
「人間は何でもよく知っていますね。だから、我らもやりにくい。昔は冥界専門学校卒で窓口業務は務まりましたが、今では冥界工科大学、いわゆるMITの卒業資格が必要なのです」
ヤミーが軽く自慢話を挟んだ。
「僕は高卒ですが、何か?」
「いや、いや失礼。そういう意図はないのです。……金の話でしたね。誤解しないでください。金次第と言っても、ここで現金を受け取るわけではありません。我々は腐敗した政治家とは違うのですから。生前の資産、生涯年収などが、審査の一項目にあるということです」
「銀行と同じですね」
大無は父親が空飛ぶ車のローンを残して他界した時、銀行員に冷たくあしらわれたのを思い出した。彼らにすれば回収が滞る事態になって困惑しただろう。それが態度に出たにすぎない、と社会人になってから理解した。
大無がオリジナルゲームを開発して人気を博した時、銀行員が取引を持ち掛けてきた。しかし、ただのような金額でゲームを販売していると知った彼らは、「何故チャンスを無駄にする」「金のありがたみを知らないのは馬鹿だ」と言って
「ヌシは、お金の事には詳しそうで助かります。資産や収入が多すぎる者は地獄行きとなります……」
彼女は意外なことを言った。
「……欲深いことは罪です。キリスト教でも仏教でも、そう言われているはずです。……誤解してはいけません。ここでは宗教的差別はありません。純粋に、ヌシがどんな魂なのかを審査したうえで分別しますから、安心してください。現世で快楽を貪った者の脳と魂は快楽に汚染されているので、黒いフレコンバッグに詰めるのが普通です。……ここでは、
「なるほど……」富裕層が不利だと知り、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます