第3話
お城の台所では大勢の料理人たちが、所せましと動き回っていた。
なんでも今夜は盛大なパーティーがあるらしく、その準備で忙しいのだとか。
ええ? こんな戦場みたいにせわしないところで「かくれんぼ」なんかできる?
ワイン
案の定、コックから邪魔者扱いされてしまった。
「ええい、邪魔だ。邪魔だ」
「まったく、つまみ食いはカルポ坊ちゃんだけで充分だよ」
「おい、マズイぞ。へへ、どうか今の話は聞かなかった事に」
「ちっ、坊ちゃんのつまみ食いが原因で七面鳥の丸焼きが作り直しになったんだぞ? 文句ぐらい好きに言わせろっての。今ごろはきっと、口直しのデザートをお求めだろうよ」
どうやら、カルポがここに居るのは間違いないようだ。
それに……今の会話は、もしかして遠まわしな僕へのヒント?
カルポはデザートを食べていると?
ふと見れば、台所の
テーブルの下には……誰も隠れていないようだが。
よく耳を澄ませると、ガスが
音の出所はどうやら果物皿の中だ。そこにはブドウやリンゴ、洋ナシなんかと一緒にカットされたメロンも盛られている。
そんなカットメロンの一つがペロリとたいらげられ、残った皮をベッド代わりにしてスヤスヤ寝ている者が居るじゃないか。聞こえてきた音は彼の寝息だ。
小人のようにちっぽけな太り気味の少年。
僕が探す相手に間違いなかった。
「カルポ、みーつけた」
「うわわ! 誰だい
「小さくなれるのが君の魔法か」
「……そうだよ。少ないご飯で腹いっぱいになれる便利な魔法さぁ」
よし! これで二人を見つけたぞ。二時間が経過して残り八時間。
これなら暗くなる前に帰れるかもしれない。
けれど、魔王城の「かくれんぼ」はここからが本番だった。
案内人さんに従って色んな場所を歩き回ったのだけれど、どうにも手ごたえがない。残り三人の手がかりや目撃情報さえ見つからないのだ。
時ばかりがドンドン過ぎていく。
とうとう僕と案内人さんは始まりの場所である
「あー、もう! どこを探せばよいんだよ? お城を一周しちゃったよ」
「まぁまぁ、まだ時間はありますよ」
「でも、人が隠れそうな所は全部探したと思うんだけど」
どこかに隠し部屋でもあるのなら別だけど。
ふーむ、待てよ。隠し部屋や隠し通路は、ゲームのお約束だよね。
もしかすると、この城にも?
僕が考えていると、案内人さんが何気なく口を開いた。
「こういう時は芸術品でも
確かに、広間の壁にも立派なタペストリーがかけられているな。
あっ、タペストリーっていうのは壁にかける
この世に二つとない芸術品ばかりか。
あれ? おかしいぞ。
この絵、どこかで見覚えがある。
馬にまたがり槍を構えた騎士二人が向かい合っている構図。
城内のどこかにまったく同じ物があったような気がするぞ。
この手の
僕たちはさっそく同じタペストリーがあった
見比べてみると、勘違いなんかじゃない。
完全な
このタペストリーが、この世に二つとない品だというのならば。
広間にあった方が本物で、こっちは偽物ってコトなのかな?
では、なぜ偽物が廊下にかざってあるのだろう?
思い切ってタペストリーをめくってみれば、やはりあった。
後ろにはドアが隠されていたぞ。ご
『イソノエの部屋』
じ、自室を「隠し部屋」にしていたのか!?
たしか次女の子だよなぁ。その発想は素直に凄いと思う。
ノックしてドアを開ければ、中は
部屋の真ん中に
これはお客様とお茶を飲むための部屋、茶室という奴じゃないか。
本物は初めて見たぞ。
彼女は洋風のドレスと和風の着物が混ざった奇妙な服を着ていた。
と、とにかく例の宣言を。
「イソノエ、みーつけた」
「お見それしました、ミハト様。イソノエの負けですわ。自室にこもっているのが好きなので、このような
「偽物のタペストリーはなに?」
「あれはイソノエの魔法で作った物。見た目そっくりなコピーを作るのが私の魔法なのです」
「そうだったのか。あとは長男と三男が見つかっていないんだ。どこに隠れているか、君は知らない?」
「そればかりは……兄上には、よくお世話になっているし、弟のレダは告げ口をすると私をイジメるのです」
「誰に聞いたかは絶対言わないから、ヒントだけでも!」
「そこまで おっしゃるのでしたら。レダの魔法は瞬間移動です」
「え!?」
「その気なれば、この世の果てまで
「そ、そんなのズルいよ」
「ですが、弟のレダは『男なら公正であれ』とダイモスお兄様からいつも
「僕の勝つ手段がないと公平じゃない。だから、わざわざそれを用意してあるってこと? 叱られないように?」
「ええ、必ず」
イソノエちゃんを探すのに大分時間を使ってしまった。
すでに日も暮れて残りは四時間。急がないと!
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