第96話 黒猫の真意

 上限坂は星夜の忠告を無視してモデルの活動を続ける事にした。それは星夜を死に追いやった悪魔の正体を探す為である。悪魔の正体はYチューブなどに寄せられるヘイトコメントである事は、星夜の手紙から知る事は出来た。しかし、ヘイトコメントを書き込む人物を特定することは難しく、警察に相談したところで取り合ってもくれない。

 星夜のアカウントはすでに削除されていて、コメント欄を除きに行くことさえ出来なかった。これもこの世界の神の仕業なのか、悪魔の痕跡は一つも見つける事が出来ずに上限坂は苦悩していた。

 そして、星夜が死んで半年後、【2023ジェムストーン】の出場をかけた2次オーディションに上限坂は選ばれた。星夜の死のキッカケともなった口舌バトルがオーディションに採用される事は誰にでも予想は出来た。上限坂は星夜の死の真相を探る為にも、2次オーディションに是が非でも出場すべきだが、慎重で用心深い上限坂は出場を断る事にした。しかし、ダイヤモンド事務所の会長はそれを許す事はしなかった。上限坂は強制的に2次オーディションに参加することになる。身の危険を感じた上限坂は、ここで覚悟を決める事にした。


 「虎穴にいらずんば虎子は得ずとはこういう事なんだな」


 星夜を死に追いやった悪魔を見つけると誓ったが、臆病で思い切った行動をおこせない上限坂に、悪魔の方から近寄ってくる形となった。


 「俺も悪魔の標的になったのか・・・」


 上限坂は疑心暗鬼に陥る事になる。この考えは見事に的中していた。上限坂の2次オーディションの出場を強く押したのが羅生天 鳳凰であった。鳳凰はSNS関係を一切やらない上限坂を疑っていた。


 「最大限の警戒が必要だな」


 上限坂は慎重で用心深い、しかし、裏を返せば臆病で気が弱い。星夜は大胆で豪快だったが、ズボラで緊張感のない男でもあった。どちらでも良い方向に傾けば自分の良さを発揮できるが、悪い方向に傾けば自滅する両極端な二人でもあった。


 上限坂は星夜の手紙を読み返す。上限坂は何度、星夜の手紙を読み返したのだろうか、既に手紙がボロボロになっていた。


 上限坂が星夜の手紙を受け取ってから2週間後に、黒猫が上限坂の前に姿を現していた。


 「どうにゃん?第2の人生を謳歌しているにゃん?」


 黒猫は上限坂に対してかなり高圧的な態度をとっていた。


 「何しに来た」


 上限坂は黒猫を見ると苛立ちを隠せずにいた。


 「お前らは神から適当に選ばれた役立たずにゃん。神の御心によって、好感度ポイントやスキルを利用して、この世界で快適に過ごせる事に感謝するにゃん」


 黒猫は俺以外の異世界人には冷たい態度をとっていた。


 「神様には感謝をしている。前の世界で不遇な生活をし、みじめな死に方をした俺に第二の人生を与えてくれたことを。でも、神様には感謝はしているが、俺達をゴミのように見下すお前には1ミリたりとも感謝はしない」


 上限坂が怒るのも当然なのかもしれない。


 「クズどう思われようがどうでもいいにゃん。それよりも、SNSを利用して有名になるにゃん。せっかく神から与えられ力を無駄にしないにゃん」


 上限坂がSNSなど一切やらない本当の理由があった。それは黒猫の言いなりになりたくなかったからだ。黒猫は異世界人にSNSなどを利用して、知名度をあげて人生を有利にすごせるようにアドバイスをしていた。


 「星夜が悪魔によって殺された。それはSNSなどを利用したのが原因だと星夜は手紙に書いていた。お前は悪魔について何かしっているのか?」


 上限坂が黒猫に詰め寄る。


 「何も知らないにゃん。そもそも神は存在するが悪魔など存在しないにゃん。お前はその男に騙されているにゃん。その男は精神的におかしくなって自殺しただけにゃん」

 「黙れ!俺はお前の言葉よりも星夜の言葉を信じる。二度と俺の前に姿を現すな」


 上限坂は黒猫を追い払った。


 黒猫は上限坂達に使徒の話しをしていない。それどころかSNSなどを積極的に使用することを進めていた。もし、黒猫が真実を星夜に伝えていれば、最悪の事態を未然に防ぐ事が出来たのかもしれない。なぜ、黒猫は使徒の事、嫌悪ポイントの事を隠しているのか謎である。

 この状況は、明らかに黒猫が星夜や上限坂を使徒に献上しているように思えてしまう。黒猫の狙いは何なのかいずれ俺は身をもって知る事になるだろう。

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