第94話 星になる

 【新人発掘企画 配信型口舌バトルロワイヤル】に優勝した星夜だが【2022大阪ミニエボリューション】の出場を辞退した。理由は体調不良であった。

 

 【新人発掘企画 配信型口舌バトルロワイヤル】に優勝した星夜のSNSにはたくさんの祝福のコメントが寄せられたが、その数十倍のヘイトコメントも寄せられていた。星夜は口舌バトルでのヘイトコメントによりかなり精神的ダメージを受けて精神がボロボロになっていたが、その追い打ちをかけるように届いたSNSに寄せられたヘイトコメントにより自我が崩壊し、いつ死を選んでもおかしくない状態になっていた。


 上限坂はすぐにでも星夜のいる大阪に駆け付けたいと思ったが、仕事が軌道にのり雑誌の撮影で忙しく、事務所に迷惑をかける事も出来ないので、休みを取る事が出来なかった。


 「お願いです。日曜日に休みを下さい」

 「ダメだ。日曜日も雑誌の取材がきている。やっと仕事が増えてきたのに今断ると印象が悪くなるだけだ。SNSを一切使わないお前のやり方をここまで応援してきたのだ、少しくらい事務所の為にがんばってくれ」


 今のこの世界でSNSを利用せずにモデル活動をする事は、事務所にも迷惑をかける行為である。モデルを売り出すには、どれだけ商品価値があるのか宣伝する必要がある。SNSを見ればそのモデルの個性、人気、ビジュアルすべてが繁栄されているので、利用したい企業も一目瞭然である。逆にSNSを利用していないモデルの情報は少なく事務所も売り出すの難しくなっている。しかし、今の時代にあえてSNSを利用せずに自分の足で企業に売り込みに行き、コミュニケーションを図るやり方に好感を持つ人も一定数いたことが幸いし、上限坂も仕事が舞い込むようになったのである。

 上限坂も今が一番大事な時期だとはわかっていた。しかし、星夜とはあれから連絡が取れなくなっているし、SNSの更新も途絶えている。YMA事務所の発表によると過労により体調不良だと公表されているが、星夜と最後に交わした言葉が上限坂の脳裏から離れない。


 「星夜・・・口舌バトルには悪魔が潜んでいるとはどういうことなんだ!お前に一体何がおこっているのだ!なぜ、電話に出てくれないんだ。俺は心配で・・・心配で・・・」


 上限坂は今すぐにも大阪に飛んで行きたい。モデルを辞めてでも会いに行きたい。しかし、今すぐモデルを辞める事は出来ない。それは1人でここまで辿り着いたわけではないからだ。事務所の社員の協力なくして今の上限坂のポジションは存在しない。上限坂は事務所の会長を何度も説得して、やっと来週の日曜日に休みを入れて貰える事に成功した。


 「頼む星夜、謝った行動をしないでくれ。俺がお前の力になってやる」


 そして1週間が経過し、上限坂は土曜日の夜に最終便の新幹線で大阪に向かった。


 「どういうことだ!なぜ?星空 星夜の嫌悪ポイントが無くなっているんだ」


 星夜は誰とも連絡を取らずに自室で引きこもり状態になっていた。食事もあまりとらずに常にスマホの画面を見ては嗚咽を発していた。


 「父上、星空の嫌悪ポイントが0になっています。これで3度目の事例です。原因は特定出来たのでしょうか?」

 「残念だが、まだ捜査中でお前に話せる事はない。嫌悪ポイントは嫌悪を与えた使徒本人しか回収できないシステムになっているはずだ。何かしらのイレギュラーな事が起きているのか、それとも神様の介入があったのかわからない。しかし、嫌悪ポイントが0になったのなら、その男の命は今日で終わるはずだ。搾り取れるだけ搾り取りたいところだったが新たなターゲットを見つけないとな」


 「はい。異世界人は一度発生した嫌悪ポイントを全て消失すると心のバランスが崩れて、自死を選択することになります。結果的には神様の望んだ結末になりますが、私達としては上手く心のバランスを保ちながらたくさんの嫌悪ポイントを手にしたいところです」

 「今回はどれほど回収出来たのだ」


 「先週に5万ポイント回収致しましたので、残りは1万ポイントでした。しかし一週間ヘイトを浴びせ続けましたので5万ポイントに戻っていたはずです。異世界人から吸い取れるポイントは50万ポイントを限界値とされています。なので、後45万ポイントは回収出来たのに誠に残念です」

 「次を探せば良い事だ。異世界人はこの世界に害を及ぼす害虫だ。害虫はいくら駆除しても絶滅しない無限発生する厄介な生き物だ。その為に我ら使徒が存在するのだ」


 「はい。父上、半年後の【2023ジェムストーン】の2次オーディションは鳳凰事務所が主催する事に決定しています。おそらく、異世界人が参加する事は間違いないので、次こそは全ての嫌悪ポイントを回収をしてみせます」

 「そうだな。お前の活躍を期待しているぞ」



 雷鳴が配送業者を装い星夜の自宅マンションに向かったが、嫌悪ポイントを回収する事は出来なかった。そして、雷鳴がマンションから姿を消した30分後に星夜はマンションから飛び降りて死を選択した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る