第93話 星夜の輝き

 星夜のYチューブは『こんなもの食べてみた』の企画で一躍有名モデルの仲間入りとなる。いわゆるゲテモノ料理を食べる動画で、イケメン高校生が一般にはあまり知られていない料理を変顔で食べる姿が視聴者に受けたのである。タガメの素揚げやカブトガニの料理などをウダウダと文句を言いながら食べる星夜の姿に視聴者は一喜一憂した。

 もちろん事務所の協力もあり、チャンネル登録者はすぐに増えて半年ほどで10万人登録され、新人モデルとしては異例の出世を遂げる事になる。


 星夜は半年前に行われた【2022大阪ミニエボリューション】の出場をかけた公開オーディション企画である【新人発掘企画 配信型口舌バトルロワイヤル】の出場権を得る事に成功した。【新人発掘企画 配信型口舌バトルロワイヤル】は鳳凰事務所が主催する口舌バトル大会であり、特設会場に新人モデルを20名招待し、その会場の様子を配信するスタイルである。大会の趣旨は20名のモデルが、相手を自由に選びタイマンの口舌バトルを行い、最後まで勝ち残った者が【2022大阪ミニエボリューション】に出場することが出来る。もちろん口舌バトルの勝者は視聴者の投票で決まり、コメントを送ることも可能だ。

 

 星夜は口喧嘩には自信は無かったが、せっかく手に入れたチャンスを逃す事は出来ないので喜んで出場した。口舌バトルの時間は一試合10分と時間は決められていて、いかに相手を挑発して論破するのが試合の勝者の判断基準である。口舌バトルをしている間は、モニターに視聴者からのヘイトや賛美が流されて、どちらが有利かは参加者のみわかるようになっていた。


 星夜は苦しみながらも順調に勝ち上がっていた。


 「星夜、お前は煽りの才能があるようだな」

 「事務所の先輩からいろいろとアドバイスを受けていたから、言われた通りにしているだけだ。この世界のオーディションは口舌バトルが主体になっている。派手に煽って目立った者が勝者だから、気分的には複雑だ」

 

 星夜は休憩時間に親友の上限坂に連絡をしていた。


 「俺には出来ない芸当だ。お前が俺を雑誌で見つけてからもう1年が経つ、お前がイケメンに生まれ変わりモデルとして輝きだした事に俺はとても嬉しい」

 「ありがとう。お前は前の世界でもブサイクで人と関わるのが苦手だった俺に優しく接してくれた。この世界で頑張れるのは、イケメンになれた事とお前が同じ異世界に居てくれたおかげだ。一緒に第二の人生を謳歌しようぜ!」


 星夜は異世界に来れた事を喜んでいた。


 「お前は会社で事務の女性からキモイとひどい扱いを受け、同僚からも醜い容姿をバカにされていた。でも、お前は挫けずに会社を辞めずに働き続けていた。俺はお前を助ける事が出来ず、声を掛けるだけが精一杯だった。お前はあの時の鬱憤をぶつけるように口舌バトルに勝ち上がっている。ブサイクでデブという重い鎖から解放されたお前は、今までの味わってきた罵詈雑言の蓄積を一気に解放しているように見える。結果的にはあの時の苦しさが糧となり、今のお前を作り出したのかと思うと複雑な気分になる」

 「そうだな。あの時浴びせられた罵詈雑言が、こんな所で役に立つとは思わなかったぜ。あの頃の俺の人生も無駄じゃなかったのかもしれない」


 星夜は上限坂の言葉の真意には気付かずに明るく答えた。上限坂は電話を切った後、寂しそうな顔をしていた。相手を罵って勝ち上がる口舌バトル、上限坂は好きにはなれない。しかし、画面を通して見る生き生きとした星夜の目に、上限坂は複雑な思いを抱いていた。


 星夜は順調に勝ち上がり続けて【新人発掘企画 配信型口舌バトルロワイヤル】に優勝した。しかし、優勝した星夜の顔は疲労に満ちていて勝者として貫禄はなく、死人のような真っ青な面をしていた。その為、優勝インタビューは急遽中止になり、すぐに控室に戻った。星夜は控室に戻るとすぐに上限坂に連絡をした。


 「星夜、大丈夫か!」


 星夜から連絡がすると大声で上限坂が叫ぶ。配信を見ていた上限坂は途中から星夜の様子がおかしい事に気づいていた。


 「やったぜ。俺は優勝した」


 星夜の声は先ほどとは違い覇気がなく弱々しい声であった。


 「優勝おめでとう・・・」


 祝福をする上限坂だが不安が募るばかりである。


 「上限坂・・・今すぐにモデルは辞めろ。俺達が向かっている場所は地獄だ。口舌バトルには悪魔が潜んでいる」


 星夜は急に震えるような声になり弱々しいボリュームで喋り出す。


 「星夜!何があったのだ」

 「コメントが・・・コメントが怖い。俺を嘲笑するコメントが俺の心を破壊する。辛い・・・。もう・・・」


 話をしている途中で電話が切れてしまった。上限坂はすぐに星夜に連絡をするが星夜が電話に出る事はなかった。


 

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