第91話 幸せな時間
「笑(えみ)、お前は何を企んでいるのだ」
羅生天 鳳凰は、笑さんから口舌バトルのヘイトコメントの動画を、シルバー事務所に送るように頼まれた事を雷鳴には伝えていない。それは笑さんが何を企んでいるのかわからないからである。鳳凰は雷鳴にいらぬ心配をしないように配慮した。
「六道に頼まれたのか・・・それしか考えられない。一体何を考えているんだ。六道がヘイトコメントの動画を見たいのは使徒の存在を知っているからだろう。ヘイトコメントを読み返して、使徒を探そうとしているはずだ。しかし、それは諸刃の剣と同じだ。我ら使徒のコメントを見れば見るほど心は蝕まれてヘイトの沼に落ちていくだけだ。それに、簡単に我らを見つけられるほど簡単な痕跡など残していない」
鳳凰達も異世界人に使徒だとバレないように工夫はしている。いくつかのダミーアカウントを持ち、いくら調べても自分たちに辿り着かないように偽装をしていた。俺は使徒だと睨んだ人物はダミーアカウントであり、所在を調べると東北地方にあるネカフェから書き込みだと知る事になるだろう。なので、俺が心を蝕まれながらヘイト動画を見たことは徒労に終わる事になる。
「しかし・・・」
鳳凰は目を閉じて精神統一をするかのように考え込む。脳に意識を全集中させて脳裏に残る疑問の答えを探る。しかし、疑問を解決へ導くことが出来ずにため息をついた。
「様子をみるしかないようだな」
鳳凰は再び目を閉じて瞑想をする。金の玉座で瞑想をするのが鳳凰が名案を思い浮かべるルーティーンであった。
俺がベットに横になってから2時間は過ぎた。スマホを見ると17:00と表示されている。
「もう、こんな時間か」
『ティロリン ティロリン』
俺がスマホを見たと同時にココア(SNS)から連絡が来た。表示を見ると鼓さんからであった。俺はすぐに通話にする。
「昴です」
「昴君、起きていたの?」
「今、起きたところです」
「ちょうどよかったわ。私達は今から自宅に戻るつもりだから一緒に帰ろうと思って連絡したのよ」
「わかりました。すぐに撮影室に戻ります」
「私たちは金さんの部屋にいるから地下の駐車場に向かってくれたらいいわ」
「わかりました」
俺は部屋を出て地下駐車場に向かい、来た時と同じ高級車に乗り込む。俺が後部座席でスマホを眺めていると鼓さん達が車に乗り込んだ。俺は運転席の後ろの窓際に移動する。
「私が真ん中に座るわ」
「昴君の隣が私の指定席」
笑さんが不満げな顔で鼓さんを睨む。
「昴君が怯えているでしょ。体長も悪いみたいだから帰りくらいはそっとしてあげて」
「私が癒すから問題ない」
笑さんは鼓さんを踏んづけて俺の隣に向かって来る。
「コラー」
鼓さんは顔を真っ赤にして笑さんを怒鳴りつけ、首根っこを掴んで左側の座席に放り投げる。
「あれーーー」
笑さんは座席に叩きつけられて悲鳴を上げた。
「そのままおとなしく寝ていなさい」
「まいった」
笑さんは鬼気迫る鼓さんの態度に降伏を認め、おとなしく左側の後部座席に座った。
「昴君、騒がしくてごめんね」
申し訳なさそうな顔で鼓さんが謝る。
「いえ、にぎやかで楽しいです」
俺はヘイトコメントで生気が抜け出たかのように心が病んでいたので、2人のやり取りを見て心が安らぐ気持ちであった。
「え!昴君が私を求めている」
笑さんの目が爛爛と輝く。しかし、鼓さんの鋭い眼差しをみて、すぐに瞳の輝きが濁りだし俯いておとなしくなる。
「昴君、笑が喜ぶようなことを言ったら命が危ないわよ」
「そ・・・みたいですね」
俺は鼓さんの忠告を素直に受け入れる。ヘイトコメントで心が病んでいるが美女二人と一緒にいる空間を俺は非常に満足をしている。しかし、それ以上の進展は望んではいけないような気がした。笑さんに猛烈アピールされるがそれを全力で阻止してくれる鼓さん。このほのぼのとしたトライアングルが心地よいと感じている。50歳まで童貞だった俺には、性行為をするよりもこのような関係の方が刺激があって楽しい事だと思い知る。性行為の気持ちよさを知らない俺だからこそ感じる事が出来る快感なのかもしれない。
笑さんの自宅に着くまで三人でたわいない話をしていた。俺はこの時間がずっと続けば良いと願っていた。面白味もない日常会話をしているだけだが、美女二人と過ごす何気ない時間が俺にとっては最高の時間であった。
シルバー事務所から笑さんの自宅までは高速道路を使って30分程である。その30分は俺にとっては至福の時間であった。楽しい時間とはすぐに終わりが着てしまう。笑さんの自宅に向かう前に、先に俺の家に到着し笑顔で別れの挨拶をした。こうして俺のGWの一日目が終了した。
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