第89話 使徒
「父上、異世界人を特定できました」
「そうか。また、オーディション会場に異世界人がまぎれ込んでいたか。まさにゴキブリホイホイなみの捕獲力があるな」
ここは大阪の最大のタワーマンション極楽の最上階、そこに住んでいるのは鳳凰グループのドンである羅生天 鳳凰(らしょうてん ほうおう)。大阪市内の夜景を一望できるペントハウスで、天井はとても高く一戸建てのようである。広々としたルーフバルコニーでは趣味の観葉植物を栽培している。一代で富と名声を得た鳳凰は、金をこよなく愛し、リビングは金で覆われている。リビングにある王様が座るような金で作られたセンスの悪いイスは特注品である。鳳凰は金の玉座に座るのがこの上ない至福の時間でもあった。
※羅生天 鳳凰(らしょうてん ほうおう) 48歳男性 雷鳴、龍神、笑の父親である。外見は金髪オールバックで金縁の眼鏡をかけている。眼鏡の越しの蛇のような畏怖の金目を見た者は、奈落の底に引き込まれる気持ちになる。趣味の総合格闘技で鍛えられた強靭な肉体はまるでギリシャ彫刻のように美しく、40代後半とは思えないくらい若く見える。
鳳凰グループは大阪を中心に美容院、エステ、モデル事務所、不動産など幅広く事業を展開している。
「はい。配信型口舌バトルを採用してから異世界人を見つけやすくなりました。今回は二人の異世界人がモデルとして参加していましたが、1人はSNSを全くしていないので、ヘイト攻撃を仕掛けるには時間がかかります。もう1人はシルバー事務所に在籍しています。Yチューブを開設しているのでヘイト攻撃を続けていますが、このまま攻撃してもよろしいでしょうか」
「異世界人を排除するのが神から与えられた我らの使命だ。そして、嫌悪ポイントが鳳凰グループの発展に繋がる恩恵の源だ。使命を成就するために徹底的に攻撃をしろ。1人たりとも異世界人をこの世界に住むことは許されない」
「わかりました。数多のアカウントを駆使して六道 昴をこの世界から排除致します。上限坂 下に対しては自宅を特定でき次第、原始的な方法で追い詰めていきたいと思います」
「任せたぞ。我らは神から与えられたこの力で、異世界人を排除して鳳凰グループを世界的企業に発展させなければならない」
「はい。しかし、六道の側には笑達が居ます。このまま攻撃し続けるのは如何なものでしょうか」
「気にするな。お前は何も気にせずにヘイト攻撃をすれば良い」
「わかりました。仰せのままに実行致します」
「ところで雷鳴、お前のお気に入りのモデルは上手くコントロール出来ているのか。少しのほころびが仇となりモデル生命を一瞬で失う事もあるのだぞ」
「問題ありません。悪役モデルキャラで売っているので、素行の悪さを指摘されても炎上する事は無いでしょう。父上の言われた通りに銀家には近づかせないようにしていますので、それさえ気を付けてくれれば愛子は一流のモデルに駆けあがることは間違いないでしょう」
「その女は龍神や笑と同じ縄手学院で通学しているのだろ?事を荒立てるような事をするなよ」
「もちろんです。転移者の愛子は過去の苦しみを吐き出すように自己中心に他者を攻撃しています。しかし、神から授かった言霊の力で愛子は俺の指示に逆らうことはないでしょう」
「転移者は我らの敵だ。いずれ葬り去る事になるのだから、過度な感情移入は厳禁だ」
「はい」
羅生天家では鳳凰の言う事は絶対だ。「いいえ」と返答することは決して許されない。雷鳴は鳳凰の言葉に「はい」と答えたが、この時、心の奥底では「いいえ」と返答していたのかもしれない。
「2次オーディションは配信会見だな。いつものように上手に会見をコントロールしろ」
「はい。言霊の力を使えば愛子がジェムストーンに選ばれる事は間違いないでしょう。私が愛子を栄光の頂に導いてみせます」
「期待しているぞ。オーディション組はジェムストーンには1名しか進出することは出来ない。鳳凰事務所の存在感を世界にアピールするためにもあの女を優勝させろ」
「はい。愛子は私達と同じ使命の持つ使徒の標的になる危険はありますが、私が全力で阻止しつつ、必ず愛子を優勝させてみせます。それに、ジェムストーンの出場者の中にも転移者が居る可能性がありますので、その点も逃さずにチェックを行います」
「お前の手腕に期待をしている。俺は新たな異世界人を探す方法を模索しておこう」
「はい」
羅生天 鳳凰と雷鳴は、神から言霊の力を授かった使徒である。この世界の神から異世界人を葬り去る手段として言霊の力を授かり、異世界人から嫌悪ポイントを入手している。嫌悪ポイントを貯めると神から恩恵を授かることができ、その恩恵で鳳凰は事業を拡大させている。
雷鳴は、配信型口舌バトルで俺と上限坂にだけヘイトコメントを送っていた。他の出場者にヘイトコメントを送らなかったのは、俺と上限坂だけがSNSをしていなかったからである。他のモデルはSNSをしていたので事前に異世界人でない事を知る事が出来たからであった。
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