第84話 過去との決別

 「おい!命を絶っているとはどういうことだ。みんな第二の人生を謳歌していないのか?」

 「転移者には第二の人生を謳歌してもらう予定だったにゃん。しかし、この世界の神によってことごとく妨害されているにゃん」


 「それが転移者の自殺とどのように繋がるのだ」

 「神によって選ばれた人間は、嫌悪ポイントを貯めることによって神から祝福を受ける事ができるにゃん。しかし、好感度ポイントと違ってこの世界の人間からは嫌悪ポイントを得る事が出来ないにゃん。嫌悪ポイントを得る事が出来るのはこの世界の人間でない転移者のみに限られるにゃん」


 「それで転移者がヘイトの的になっているのか・・・でも、どうやって転移者だと知る事が出来るのだ?」

 「外見で転移者を特定するのは無理にゃん。だから、有名人や著名人にヘイト攻撃を仕掛けるにゃん。もし、別の世界でやり直しができるとするにゃん。もし、能力を上げる事が出来るとするとどうするにゃん?」

 

 「俺ならイケメンになりたいと思うし、実際にイケメンになった」

 「そういうことにゃん。昴にゃんと違って他の転生者は、特定の能力しかレベルを上げる事が出来ないにゃん。だから他の転移者は特定の能力に極ぶりするから一芸に秀でた人物になるにゃん。すなわち、有名人や著名人になる確率が高いにゃん」

 

 「それで、有名人や著名人がヘイトの的になるのだな」

 「そうにゃん。それに一般人を狙うよりも有名人や著名人を狙う方が簡単にゃん」


 最近の有名人や著名人は、ほとんどの人がSNSで世間にアピールをしているので、ヘイトをするには格好の的である。それに、たくさんの人が有名人や著名人にヘイトをぶつけているので、目立つことなくヘイトを書き込めるので都合も良いのであった。



 「対象者から嫌悪ポイントを得る事が出来るとわかったら、その人物が転移者と特定できるにゃん。特定されたら最後、ヘイト攻撃を悪化させ絞れるだけ嫌悪ポイントを搾り取るにゃん。そして、転移者はヘイトに苦しめられ最後には命を絶ってしまうにゃん」

 「そんな・・・ひどい」


 【不屈の心(銅)】のスキルを持っている俺でさえ、ヘイトコメントにさらされ続ければ心が折れてしまう。もし、俺が【不屈の心(銅)】のスキルを持っていなければ、俺はそのうち命を絶っていたかもしれない。それほどヘイトを受け続ける事は辛いのである。


 「おそらくにゃん、口舌バトルで昴にゃんは転移者であることがバレてしまった可能性があるにゃん」

 「それならなおさらモデルなんか辞めて静かに過ごした方が良いだろ」


 俺は転移者だと特定された可能性は高い。だからこそ、Yチューブのコメント欄はヘイトで埋め尽くされたのだろう。このままモデルを続けていれば最悪の事態になってしまう恐れがある。俺はすぐにでもモデルを辞めて、目立たずにひっそりと暮らしたいと思った。


 「昴にゃん、また現実世界から逃げるにゃん?このまま姿を消せば昴にゃんは逃げ切れるかもしれないにゃん。でも、アイツらは次のターゲットを探すにゃん。それに、ターゲットを見つけるために関係もない有名人や著名人がヘイトの犠牲になるにゃん。昴にゃんはこの状況を見て見ないふりをするのにゃん?」

 「・・・」


 俺はすぐに言い返す事が出来なかった。俺が逃げる事によって他に犠牲者が出る事になる。しかし、俺が命をかけてまでも次の犠牲者を出さない為に戦う必要があるのか?悪いのは俺じゃない。嫌悪ポイントを得るためにヘイトを浴びせ続ける奴らが悪い。なのに、黒猫の話し方だと俺が悪いように聞こえてしまう。俺に戦う勇気があれば、長年引きこもりなどしていない。俺に戦う力があれば長年引きこもりなどしていない。俺に戦う理由があれば長年引きこもりなどしていない。


 「俺にしかできないのか?」


 俺は絞り出すように声を出した。俺は2か月という短い時間だが、その2か月間で俺は生まれ変わっていた。力がないのに御手洗達に逆らって自分の気持ちをぶつけた。痛いのを我慢して木原にボコボコに殴られた。昔の俺ならそんなことは出来なかった。キャンプ場で木原に襲われた時も、自分から逃げずに自分に出来る事をやり遂げた。その結果、羅生天の力を借りて木原を撃退することが出来た。俺は2か月前の俺とは違う。スキルや能力のレベルを上げて、自分自身に自信が持てるようになり、内面的に成長した事が一番大きかった。


 「昴にゃんしか出来ないにゃん」

 「わかった。協力する」


 俺は決意した。俺が逃げる事によってあらたな犠牲者を出したくない気持ちも大きいが、俺がこの世界に来て、俺にしか出来ない事があるのならば、それは俺がすべき使命だと。恩恵ばかり受けて逃げるわけにはいかない。




 

 

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