第83話 選ばれし人間

 「昴にゃん、よく聞くにゃん。今この世界で起こっている匿名でのヘイトコメントのムーブメントには裏があるにゃん」

 「裏がある?」


 「そうにゃん。ヘイトコメントによって心を苦しめられた人間は、自暴自棄になり、心に深い闇を作り出してしまうにゃん。その心に出来た闇は、人間の思考回路を狂わせて、暗黒の世界へ導かれてしまうにゃん。一度闇に支配された人間は自分の意思とは無関係に暗黒の世界に向かう為に命を絶ってしまうにゃん」

 「何を言いたいのかわからない。それが裏と何が関係あるのだ」


 「ヘイトコメントによって出来る心の闇が大きくなればなるほど、得をする人物がいるにゃん。その人物達が率先してヘイトコメントして、ヘイトを盛り上げているにゃん」

 「ストレスを発散するためにヘイトコメントしているのじゃないのか?」


 ヘイトコメントをするアンチと呼ばれる人は、ヘイトをした相手が怒ったり苦しんだりする姿を見て、ストレスを発散している事が多い。


 「大多数の人間はストレスの発散や冗談でヘイトに追随しているにゃん。だが、ヘイトコメントの発端となるコメントをする人物は、自分の利益の為にヘイトコメントしているにゃん」

 「もし、お前の話しが本当なら、そいつらには、どんなメリットがあるんだ」


 「嫌悪ポイントをゲットするためにゃん」

 「嫌悪ポイント?」


 「そうにゃん。昴にゃんで例えるなら好感度ポイントと同じ意味にゃん。心に出来た闇の正体は嫌悪ポイントであり、嫌悪ポイントを貯めることによって、その人物たちは恩恵を受けているにゃん」

 「そいつらも俺と同じように人生をやり直す為に、この世界に転移してきたのか?」


 「違うにゃん。この世界の人間にゃん。この世界の神によって選ばれた人間にゃん」

 「神に選ばれた人間だと!この世界の神はこの世界の人間を使って何をしたいんだ」

 

 「転移者からこの世界を守ろとしているにゃん」

 「どういうことだ?意味がわからないぞ」


 「この世界に転移して来たのは昴にゃんだけじゃないにゃん。他にも、昴にゃんの世界の神の手によって転移してきた人間がいるにゃん。転移者には様々な特権があり、初めからスキルを持つ人間や、昴にゃんのように、好感度ポイントを貯めて能力のレベルを上げれる人間がいるにゃん。スキルや能力のレベルを上げれる異世界人と、この世界に人間では、明らかに異世界人のが容姿も能力も高くなるにゃん。この現状に危惧したこの世界の神が、異世界人を滅ぼす為に、選ばれし人間に力を授けたにゃん」

 「この世界ではそんな恐ろしい争いが起きているのか・・・」


 「そうにゃん。だから昴にゃんの力で止めて欲しいにゃん」

 「俺には無理だ。今の俺にはそんな力はない」


 俺は引きこもりの人生を歩んできたニートだ。それに、好感度ポイントを貯めて変わったのは外見だけであり、知能、運動神経はレベル1のままである。今の状態でこの世界の神によって選ばれし人間と戦うのは無理である。


 「今すぐに力で抑え付けろとは言わないにゃん。まずは神に選ばれし人間の捜索をして欲しいにゃん」

 「自分でやれば良いだろう。お前は時を止めれる何でも出来る凄いヤツなんだろ」


 黒猫の正体は知らないが、時を止める事が出来る力を持っている。俺よりも格段優秀なのだから自分でやれば良いと思った。


 「吾輩たちはこの世界に直接介入することは出来ないにゃん。だから、昴にゃんの力が必要にゃん」

 「もしかして・・・俺を利用するためにこの世界に連れてきたのか」


 人生をやり直すことが出来るなんて都合の良い話などない。俺は黒猫に利用されるために、この世界に連れて来られたと感じた。


 「わからないにゃん。昴にゃんをこの世界に連れてきたのは吾輩ではないにゃん。吾輩はこの世界にやってきた転移者をサポートするしがない猫にゃん。だから、詳しい事情は何も知らないにゃん」


 黒猫は嘘をついているようには見えなかった。俺に第二の人生を授けてくれたのは天使のような女性だった。俺は黒猫の正体がその女性だと思っていたが違うようだ。


 「俺のようにこの世界に転移した者がいるのだろ?それなら、そいつらに頼めばいいだろ」


 俺以外にこの世界に転移した者がいるのは確実だ。俺はこの世界に来てまだ2か月程度だから能力のレベルが低い、だから俺よりもレベルの高い者に任せれば良いと判断した。


 「吾輩も出来る事ならそうしたいにゃん。しかし、それは出来ないにゃん」

 「どうしてだ。なぜ?出来ないのだ」


 「理由は2つあるにゃん。1つは昴にゃんが100年に1度、人生をやり直すことができる【get a second chance】の権利を得た特別な人間だからにゃん。【get a second chance】は、すべての能力のレベルを上げる事ができ、さらにスキルもゲット出来る天下無敵の最強能力にゃん。レベルを上げるのには多少時間がかかるけど、地道に成長すれば容姿端麗、文武両道、当代無双の最強人間になれるにゃん。もう一つはこの世界に転移した人間たちの大半は、自殺をして命を絶っている。今、頼れるのは昴にゃんだけにゃん」


 切実な表情で訴える黒猫を見て、黒猫は嘘は言っていないと判断した。俺はとんでもない異世界に来た事を思い知らされた。


 ※投稿を水曜、土曜日の週に二回に変更をします。

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