【get a second chance】～イケメンに生まれ変わったら見える景色が鮮やかになった～

第85話 不屈の心（鋼）

　「俺は具体的に何をすればいいのだ」

　先ほどまでの黒猫の話しから推察すると、俺はヘイト活動をしているこの世界の神から選ばれた人間を見つける事である。しかし、どうやって見つけ出せば良いのかわからない。

　「Yチューブをしてヘイトにさらされ続けるにゃん。そうすれば、いつか必ず嫌悪ポイントを回収しに姿を現すにゃん」

　「そうなのか？ヘイト攻撃をしていれば嫌悪ポイントを獲得できるのじゃないのか？」

　「SNSでのヘイト攻撃によって得られる嫌悪ポイントは、あくまで仮のポイントにすぎないにゃん。実際にポイントを得るためには、対象者の近くに来ないと回収は出来ないにゃん。この世界の神から選ばれた人間・・・いや、これからは使徒と呼ぶにゃん。使徒は必ず嫌悪ポイントを回収するためにヘイト攻撃をした相手に接触するにゃん」

　「俺の前に姿を現すのだな」

　「そうにゃん。しかし、直接何かをしてくるわけじゃないから、昴にゃんの側を通り抜けるだけで、昴にゃんは気づかずに嫌悪ポイントを回収されるにゃん」

　「それだったらどうしようもないのじゃないのか」

　「話は最後まで聞くにゃん。嫌悪ポイント回収されたら今まで苦しんでいた心の痛みがマシになるにゃん」

　「そういうことか。心の痛みが和らいだ時に側に居たヤツが使徒なのか！」

　「そうにゃん・・・と言いたいところだが、その時の状況によって心の痛みは違うからそれだけでは使徒と決めつけるのは厳しいにゃん」

　「じゃぁ、どうすればいいのだ」

　俺は苛立ちを隠せずに声を荒げてしまう。

　「【不屈の心　鋼】のスキルを手に入れるにゃん。【不屈の心　鋼】は【不屈の心　銅】の進化したスキルで、今よりも強靭の心を持つことが出来るうえに、相手の心の動揺も感じる事が出来るにゃん。嫌悪ポイントを回収しに来た使徒は、かなり緊張感もしくは高揚感を感じているはずにゃん。昴にゃんの側を通過するだけなのに、心が乱れている人物こそが使徒の可能性が高いにゃん」

　「わかった。それなら【不屈の心　鋼】のスキルをくれ」

　「吾輩にはそんな力があるわけないにゃん。自分の力でスキルをゲットするにゃん」

　「ふ・・・ふざけるな！【不屈の心　鋼】ないと使徒を見つけ出す事が出来ないのだろ？俺に協力して欲しいのなら神に頼んでスキルを渡すようにしてもらえ」

　俺の言い分は間違ってはいない。俺は使徒を倒す為にこの世界に来た勇者ではない。100年に１度、適当に選ばれた1人に人生をやり直す事ができる権利を得たニートである。使命感に駆り立てられて黒猫に協力することにしたのだから、黒猫側からの協力を得る権利はある。

　「ちょっと神様に聞いて来るにゃん」

そう言うと黒猫は一瞬姿を消したがすぐに姿を現した。

　「お待たせにゃん」

　待ったのは1秒ほどなので待ったとは言えない。

　「どうだった」

　「吾輩は出来る猫にゃん。昴にゃん喜ぶにゃん」

　「スキルを貰えるのか？」

　「それは無理だったにゃん」

　「・・・」

　「でも、代わりに【不屈の心　鋼】のスキルを手にする方法を教えてもらったにゃん」

　スキルを手にする方法は２つある。能力のレベルを上げた時にボーナス的に手にする時と、ある条件を満たした時に手にする時である。

　「せこいな。どうせならスキルをくれよ」

　スキルをゲットする方法を教えてくれるのはありがたいが、使徒を見つける手伝いをするのだから、ケチケチせずにスキルをプレゼントしてくれた方がよりありがたい事だ。

　「これでも吾輩はがんばったにゃん。文句を言わずにありがたくスキルを手に入れる方法を聞くにゃん」

　「あぁ」

　俺は小さくうなずいた。

　「昴にゃん！心して聞くにゃん。【不屈の心　鋼】を手にする方法は、死の恐怖心から打ち勝つことにゃん」

　「・・・」

　【不屈の心　銅】を手にする方法は恐怖心に打ち勝つ事だった。【不屈の心　鋼】を手にするには、さらなる恐怖心に打ち勝つ事である。それは死という圧倒的な恐怖心から打ち勝つ事であった。

　「にゃん？何かリアクションが薄いにゃん。もう一度説明するにゃん」

　「もういい！ちゃんと理解した」

　俺は苛立ちはMaxに達している。それは、死の恐怖心に打ち勝つ事とは、一歩間違えば死ぬことである。俺は第二の人生を謳歌するためにこの世界に連れて来られたはずだ。俺に今突き付けられているのは、生きるか死ぬかの博打のような試練だ。もし、失敗すれば俺は第二の人生を謳歌せずに人生が終わってしまう。だから俺は黒猫の言葉にすぐに反応することが出来なかった。

　「なんか怒ってるにゃん。吾輩は感謝される事はあっても怒られる事はしてないにゃん」

　「お前は自分が言った事を理解していないのか！もし、死の恐怖心に打ち勝つ事が出来なければ俺は死んでしまうんだぞ」

　俺は大声で怒鳴りつけた。しかし、黒猫は俺が怒っている理由が全く理解できていないような不思議そうな顔をしてキョトンとしている。

　「打ち勝てば良いだけにゃん。さぁ！頑張ってスキルを手に入れるにゃん」

　「他人事だと思って簡単に言うな！俺はもう死にたくない。それにどうやって死の恐怖心に打ち勝てばいいのだ」

　死の恐怖心に打ち勝つには死に直面する必要がある。自ら死に直面するような行動を取るにはどうすれば良いのかわからないし、やりたくもない。

　「簡単にゃん。このままYチューブを続けていれば良いにゃん。そうすればヘイトまみれになって死にたくなるにゃん。それでは昴にゃんの健闘を祈るにゃん」

　そういうと黒猫は姿を消した。