第76話 smile☆チャンネル

 ジムの見学を終えると次は反対側にあるスタジオに向かう。スタジオはウォーキングやポージング、ダンスなどを練習する場所である。ジムとスタジオの間にはシャワー室もあり汗を洗い落とすことも出来る。


 「昴君、週1でここでレッスンを受けてもらうことになるからね」

 「うん、うん」

 「わかりました。いつ来たらいいのですか?」


 「毎週土曜日の10時からお願いすることになると思うわ。これからの昴君のスケジュールは、土曜日にシルバー事務所に来てもらって、ウォーキングなどの練習をしてから、Yチューブの撮影をすることになるわ」

 「うん、うん」

 「俺もYチューブをするのですか?」


 「もちろんよ。1次オーディションの配信の概要欄には、参加者達のYチューブチャンネルを載せてもらえるから、昴君のチャンネルも載っているはずよ。昴君がオーデションに参加している間に笑(えみ)が昴君のチャンネルを作成してくれたから問題ないわ」

 「smile☆チャンネルよ!」


 笑さんがYチューブにチャンネルを開設してくれていた。チャンネル名は笑(えみ)さんの名前を英語にしたスマイルと俺の名前スバルを記号にした☆マークを合体した形になった。最初は「笑♡昴の愛の巣チャンネル」だったらしいが、全力で鼓さんが反対して、かなり譲歩した形でsmile☆チャンネルになったらしい。

 はっきり言って笑さんの名前が前面に押し出されているが、俺に選択権はないようなので受け入れるしかなかった。


 「撮影は私がして、編集は笑がする予定。企画も私達が考えるから昴君は自然体で臨んでくれたらいいわ」

 「うん、うん」

 「はい」


 逆に演技をしろと言われる方が難しいので自然体で臨めるのは嬉しい事だ。


 「ゴールデンウイークの間はスタジオでレッスンをして、Yチューブの撮影をするつもり。2,3日は休みを用意してるから安心してね」

 「うん、うん」

 「わかりました」


 俺は羅生天に言われていたのでゴールデンウイークには予定は入れていない。少しはゆっくりとする時間がもらえたのは幸いだ。しかし、ゆっくりしている暇はない。俺は空いた時間は自分のレベル上げに費やしたいと思った。

 スタジオを一通り見学し終えた頃に受付の女性が声をかけてきた。


 「鼓さん、専務が専務室に来るように言っています」

 「わかりました」


 俺はスタジオを後にして二階にある専務室に向かう。二階には事務所・社長室・専務室・会議室・撮影室がある。撮影室は2部屋あり住み込みのモデル達が順番に使用している。二階の内装は白を基調とした清潔感のある壁で覆われていて、床は明るめのグレーで落ち着きを感じる。鼓さんが通路の一番奥にある専務室の扉をノックをすると入るように声が聞こえた。


 「失礼します」

 「おっす」

 「失礼いたします」


 専務取締役とはシルバー事務所で2番目に偉い地位に当たる人である。くれぐれも失礼のないように俺と鼓さんは大声で挨拶をして専務室に入る。しかし、俺達とは対照的に笑さんは自宅に戻って来たかのようにリラックスしたラフな感じで入って行く。


 専務室の内装は黒を基調とした壁で覆われていて、一瞬別の建物に入って来たかのように感じてしまう、床は対照的に真っ白でチリ1つ落ちていないピカピカの床だ。部屋に入ると大きな黒のテーブルがあり、白のモフモフの4人がけソファーがテーブルをはさんで二つ置いてある。その奥には書類まみれのデスクがあり、黒髪ロングの赤の眼鏡をかけた背の高い8頭身の美女が奥から声をかける。


 「そこのソファーに座って」


 美女の透き通るような甘い声は俺の耳をゾクゾクとさせる。


 『バン!』


 笑さんは急にダッシュをしてソファーにダイブをする。


 「きもよい」


 ソファに大の字になった笑さんは至福の笑みを浮かべて気持ちよさそうだ。


 「わかりました」


 鼓さんは、美女に頭を下げてからソファーに座る。


 「ウッ!」


 鼓さんは笑さんの頭をクッションの代わりのようにのしかかる。


 「昴君も座ったらいいわ」

 「本当にいいのですか」


 「いいのよ座りなさい」


  鼓さんは冷たい目で言い放つ。笑さんは鼓さんに乗られて苦しそうな表情で涙を浮かべている。しかし、急に顔を真っ赤にしてニヤニヤと笑い出した。


 「ご褒美、ご褒美。昴君、早く乗って!」


 『ドスン』


 「ギャー――」

 「笑さん、冗談はこの辺にして下さい!あなたには厳しく躾をするように社長から言われています」


 専務取締役の琵琶(びわ)さんが笑さんのお腹にドスンと座る。笑さんは悲鳴を上げて飛び起きた。


 「ご褒美がお仕置きになった・・・」


 笑さんはお腹を抑えながらソファーに座る。


 「鼓、その子を紹介してもらえるかしら」


 琵琶さんは鼓さんの座るソファーとは反対側のソファーに座り真剣な眼差しで俺を見た。




 


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る