第75話 事務所へ

 俺がオーディションに参加した理由は、【2023大阪エボリューション】に出場を目指す為でなく、口舌バトルによって知名度を上げる為であった。鼓さんの話しだと配信時のコメントは演出みたいなものなので、気にする必要はないらしい。しかし、アーカイブに残された動画を見た人のコメントは一般視聴者からのコメントが大多数を占める。でも、わざわざコメントをする人は一部の熱狂的なファンか熱狂的アンチしかいないので少数意見だと教えてもらった。

 配信動画を見た大多数の人はコメントを書き込まないが、どんなコメントが書いているか確認するので、少数意見のコメントは影響力があることも確かだ。

 今回のオーディションで俺にファンがどれくらい出来たのかは不明だが、インパクトのある退場だったので、知名度が上がった事は確かであった。


 ちなみに1次オーディションの結果は笠原さんが圧倒的大差で1位になり、2位はベア子、3位は五月雨さんだった。この3人が2次オーディションに駒を進める事となる。俺が強制退去された後、4人のモデルは健闘したが敗退した。俺と上限坂は失格なので投票の対象から外された。


 

 俺はオーディションを終えて笑さんのマンションに戻るのではなく、大阪市内にあるシルバー事務所に向かう事となる。


 「本当はシルバー事務所の社長である金(こがね)さんに紹介しないといけないけど、社長は忙しいから専務取締役の日車 琵琶(ひぐるま びわ)を紹介するわ。名前でわかったと思うけど私の母よ」

 「うん、うん」

 「わかりました」


 先に雇い主に挨拶をするのが正道だが、オーディションの時間が差し迫っていたので後回しにしたらしい。そもそも、計画自体がギリギリのスケジュールなのが問題だと思うが、笑さんが全て計画をしているので仕方がない。


 「あのビルがシルバー事務所よ」

 「うん、うん」

 「綺麗なビルですね」


 大阪市内の一等地に建てられた丸い五階建てのビルがシルバー事務所である。一階には受付、スタジオ、ジムなどがあり、二階が事務所になっている。三階から五階は居住空間になっており新人のモデルや琵琶さんが住んでいる。車は地下の駐車場に止めて俺達は受付に向かった。


 「専務はいるかしら?」

 「うん、うん」

 「鼓さん、専務は今会議中です。後30分ほど待っていただいてよろしいでしょうか」


 「わかりました。会議が終わるまで昴君に事務所内を見学してもらうわ」

 「うん、うん」

 「会議が終わり次第電話しますのでゆっくりと見学をしてください」

 「ありがとうございます」


 俺は受付のお姉さんにお礼の言葉を述べる。


 「昴君、一階を案内するわ」

 「うん、うん」

 「お願いします」


 地下駐車場の階段を登ると正面玄関に出る。正面の玄関の自動ドアを開けると受付があり、ここで受付を終えると中に入ることが出来る。受付を抜けるとすぐに階段があり、階段を登ると二階にある事務所に行くことが出来るのだが、今は一階を見学するので階段を登る必要はない。階段を登らずに左側に進むとスポーツジムがある。ここで、モデル達は定期的に体を鍛えて美を追求する。今のモデルは細いだけでは通用しない。服を着るのだから筋肉は必要ないように思えるがそれは全く違う。服を着てスタイルを隠すのではなく、スタイルを良く見せる服を着るのが正解だ。女性のモデルの場合は二の腕やウエストの引き締め、胸元やヒップには程よいボリュームをつけてしなやかなボディを手にすることが王道だ。

 どんな服も着こなす為には、女性は女性特有のしなやかなボディを身に着ける必要がある。これらは天から授かったスタイルと美貌を、さらに昇天させるためには日々の努力は必要だという事である。いくら天性の美貌とスタイルを持って生まれても、日々の努力を怠れば、モデルとして1流の道を進む事が出来ない。今は多様性が求められる時代でもあり、美に関する意識も人それぞれであり、美しいの基準はなく、みんなそれぞれに美しいと定義される時代に成ってはいるが、努力をして手に入れたスタイルを否定する者はいない。

 俺は男性なので手に入れる肉体は、自分が目指すべきイメージによって異なって来る。簡単に言えばゴリマッチョか細マッチョの二択と言えるだろう。多様性の時代なので別に自分の個性に合わせたスタイルでも良いのだが、万人受けするには細マッチョが一番無難な選択肢と言える。


 俺は鼓さんにジムの中を案内してもらったが、よくよく考えると大阪市内までジムに通うのは大変なので、ここのジムを使用することは今のところはない事に気づいてしまった。

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