第56話 和解

 簡単な解決方法だった。しかしそれは、女性と簡単に会話ができる男子に限られた事である。不屈の心(銅)のスキルを持つ俺は女性を前にしたからといって緊張はしない。スラスラと言葉が出て会話が出来るが、あくまで会話があればの話しである。 

 なんの共通点もなく一度もしゃべった事がない安藤さんと関川さんに、俺から声を掛けるのは無謀である。何を喋っていいのかわからずに黙り込んでしまう未来が手に取るようにわかってしまう。


 「何を話せばいいのだ・・・」


 俺は素直に都築に聞いてみた。


 「バーベキューは楽しかったとか?今日の出来事を聞けば良いと思います」


 確かに都築の言う通りである。共通の話題といえば今日バーベキューをしたことである。それなら自然と声を掛ける事が出来そうだ。


 「六道さん、僕も付いていきます。僕に全て任せて下さい」


 人の懐に自然と入り込む能力に長けた都築は、こういう時には非常に役に立つ。俺は都築と一緒に安藤さんと関川さんの班が集まっている場所に行く。

 安藤さんと関川さんは御手洗の班である。御手洗がこのクラスの美女を集めたハーレム班といっても過言ではない。5人の女子はそれぞれタイプは違うが美人である。その中で一番綺麗な女性が安藤さんだ。安藤さんは茶髪のロングですこしパーマをあてている。背も165㎝でスラッとしたモデルのような女性だ。恐らく学年の中でもトップクラスの美貌を誇るだろう。関川さんは黒髪ボブヘアーの小柄の女性だ。胸のふくらみはクラスナンバーワンであり、ジャージ姿でも隠し切れないたわわを感じる。関川さんは美人というよりも可愛らしい愛嬌のある顔をしている。昔の俺なら絶対に交わることない別の世界の住人だ。


 「安藤さん!六道さんがお話をしたいと言っているよ」

 「!!!」


 もちろん驚いたの俺だ。都築がうまい具合に会話を進めてくれると信じていたのにいきなり裏切られた気分である。そういえば、都築は場の空気を読めないポンコツであったことを忘れていた。


 「え!六道君が私に用事があるの」


 安藤さんは嬉しそうに顔を赤く染める。


 「あ・・・、俺のせいで御手洗君達が来れなくなってごめん」


 俺は思いつく出来事を言葉にする。


 「そんなの気にしてないわ。それに悪いのは御手洗君達だって聞いているわ」

 「そうよ。私たちは何も気にしていないわ」


 側に居た関川さんも会話に入って来る。


 「それならよかった。二人はバーベキューを楽しめたかな」

 「うん」

 「うん」


 2人とも眩い笑顔で頷く。こうして見ると二人はとても良い人に見える。


 「入学早々トラブルに巻き込まれて、クラスのみんなとは全然喋れてないけど、これからよろしく」


 御手洗のせいで俺は上園達意外とは会話をしていない。陰キャの俺だからよほどのきっかけがない限りは自分から声を掛ける事は無いから当然でもある。一方、安藤さんや御手洗派閥に属した者たちも気まずくて俺に声を掛けにくい。俺はこれをきっかけに、御手洗が作った壁を壊せれば良いと思っていた。


 「もちろんよ」

 「うん。私も」


 2人が嬉しそうに頷くと、周りに居た別の女性生徒たちが俺の周りに群がってきた。


 「六道君、ごめんなさい。私達御手洗君が怖くて六道君と距離を置いていたの」

 「私もよ」

 「私も」

 「俺は何も気にしていない。悪いのはつまらない事でもめてしまった俺達だ。君たちは何も悪くないから謝らなくてもいいよ。これからはみんなで仲良くしてクラスを盛り上げよう!」


 俺は照れ臭いが青春ドラマのようなセリフを口にした。しかし、この言葉は女子のハートに見事に突き刺さる。集まった女子たちは嬉しさのあまりに涙を流して喜んでいた。俺は女子たちの頭を撫でながらハンカチを渡す。


 「君たちには涙は似合わないよ。涙より可愛い笑顔を俺に見せてくれないか」と言いたかったが、さすがに不屈の心(銅)を持つ俺でも照れて言う事は出来なかった。


 「もう、帰る時間だね。俺は自分の班に戻るね」


 俺はカッコよく振り返り自分の班に戻る。


 「俺が六道さんとの仲を取り繕った都築だ!みんな俺に感謝をするんだぞ」


 都築は満を持して大声で女子たちに言い放つ。しかし、女子達は冷ややかな視線で都築を見ている。あいつも余計な事を言わなければいいヤツなのかもしれないが、この一言で女子からの評価が急降下する。


 「バカじゃないの!あんたなんか誰も興味ないわよ」


 安藤さんが冷たい言葉を投げる。


 「僕に冷たくすると六道さんが黙っていないぞ」


 いつものように強い者の笠に入ってふんぞり返る。


 「六道君はそんな人じゃないわよ!」

 「そうよ」

 「そうよ」


 都築は女子達に囲まれる。


 「ごめんなさい」


 女子に囲まれた都築は身の危険を感じすぐに土下座をして謝った。

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