第55話 嫉妬

 俺達の班はいつしか賑やかになっていた。全く声を出さなかった山川さん、山本さんも笑みを浮かべている。話の中心は上園で陰キャ班らしくアニメやゲーム、Vチューバ―の事でみんなに話題をふり、その話題にみんなが参加している。

 俺も引きこもっていた時は、その辺りは網羅していたので楽しく話題の中に入る事ができた。楽しい時間はあっと言う間に過ぎて片付けの時間になる。みんなテキパキと行動して片付けはすぐに終わる。結局俺は班長らしい事は何もしていない。


 「悪いな、上園。全てお前に任せてしまったな」


 班長は俺だが、あれこれと指示を出しているのは上園だ。班の中心で話題を提供するのも上園だ。俺は上園の横で楽しそうに笑っているだけだ。


 「お前がいるから俺が好きに出来るんだ。みんなお前の事を尊敬しているし頼っているんだぜ」


 上園が俺の肩を叩く。


 「そうだよ六道君。僕たちは六道君がいるから楽しいんだ」


 塩野が俺をフォローするかのように言う。もしかして、これが羅生天の言っていたやさしいオーラと言うヤツなのかもしれない。俺はスキルを確認したがそのようなスキルはゲットしていない。


 「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しい」


 俺は素直にお礼を言う。


 「六道さん、ちょっとよろしいでしょうか?」


 さっきまで別の場所に居た都築がひょっこりと顔を出す。


 「都築、何か用事でもあるのか?」

 「六道さんにお伝えしたい情報があるのです」


 都築の情報量は半端ない。都築はいろんなところに出没して情報収集を行っている。これも都築の才能の一つである。俺は都築に連れられて人気のすくない場所に来た。


 「僕がすべての班にもぐりこんだところ、不穏分子を見つけました」

 「不穏分子?どういうことなんだ都築」


 「六道さんに仇をなす奴らです。しかし、今回見つけたのは六道さんを直接狙う敵ではなく、丸川さんと茜雲さんを標的にしています。六道さんがお二人と仲良くしているから、標的になったと思われます」


 俺は二人と特別に仲が良いわけではない。ただ、偶然二人に関わる事件に巻き込まれただけである


 「標的とは具体的に教えてくれ」

 「丸川さんと茜雲さんは、僕が教室を封鎖している時に教室を抜け出して先生に報告をしました。その事に気づいた安藤さんと関川さんは御手洗に密告をしようとしたのです。しかし、御手洗は学校に来なくなり密告することが出来ずに僕に相談をしてきました」

 

 「相談?」

 「そうです。二人は御手洗を使って先生に告げ口をした丸川さんと茜雲さんに制裁を加えるつもりでした。しかし、制裁をする御手洗が来ないので困っていたようです」


 俺は安藤さんと関川さんがなぜ?先生に報告した丸川さんと茜雲さんに制裁を与えたいのか考える。


 「安藤さんと関川さんは御手洗の仲間なのか?」


 考えられる理由はこれしかない。


 「違います。二人は御手洗には全く興味をもっておりません。二人が興味を持っているのは六道さんです」

 「え!俺を・・・」


 「そうです。超イケメンの六道さんに気に入られるために先生に密告した丸川さんと茜雲さんを許せなかったみたいです。案の定、お二人はそれをきっかけに六道さんと仲良くなったと思っています」


 俺は磯川高校で1番のイケメンと言っても過言ではない。安藤さんと関川さんが俺に興味を持つのは当然かもしれない。それが悪い方向に作動した。


 「丸川さんも茜雲さんも俺を助ける為に先生に連絡をした。けっして俺の気を引くためにしたのではない」


 2人には下心などない・・・とは断言できない。俺は二人の心を読み取る事はできないからだ。しかし、2人から好意を受けている印象は少しもなかった。どちらかと言えば、へんな誤解をされない為に、できるだけ俺を避けるようにしている。


 「六道さん、もっと自分の事を自覚してください。僕の調査によるとクラスの女子全員が六道さんを憧れの対象として見ています。もちろん、六道さんの事を高嶺の花だと思っているので、告白なんて大それたことを考える人はいません。みんなテレビの中のアイドルのような尊い存在として崇めています。六道さんは御手洗と敵対してしまったので、女子たちは声を掛けたくても声を掛けられませんでした。今は御手洗が学校に来なくなりクラスのボスの座から陥落しましたが、今更六道さんに声を掛ける事が出来ずにやきもきした気持ちで六道さんを遠くで眺める事しか出来ないのです。そのやきもきした気持ちを逆なでする存在が丸川さんと茜雲さんです。二人は御手洗の圧力にも屈することなく六道さんを助ける為に先生に連絡して、六道さんの好意を手にしたと思っています。クラスの女子、特にイケてる女子の安藤さんと関川さんはかなり怒っているのです」


 都築の話しを聞いて俺は初めて自分はクラスの女子から憧れの対象として見られている事を知る。顔面偏差値がレベル4の俺は誰もが羨むイケメン男子。町を歩けば誰もが振り返り足を止める。しかし、教室では誰も俺をもてはやす事はない。それは、御手洗と木原がこのクラスを牛耳り、俺への称賛を遮っていた。みんな、恐怖には勝てない。俺に声を掛けたい、仲良くなりたい、眺めていたい、そんな願望も恐怖の前には意味を持たない。クラスの女子たちは、俺への接触を諦め御手洗の恐怖に身を投じた。しかし、結果は御手洗は失脚し恐怖支配は終焉を迎える。恐怖の元凶が消えたからといって、いまさら俺に近づくなんて出来ず、もどかしい気持ちだけが残る。そんな中、恐怖に屈することなく行動をおこした丸川さんと茜雲さん。窮地の俺を救い、尚且つ同じ班としてバーベキュー大会を楽しんでいる。これは恐怖に打ち勝った者と屈した者との当然の結果であるが、それを受け入れる事が出来ないのが安藤さんと関川さんであった。


 「俺はどうすればいい」


 具体的に丸川さんと茜雲さんに何かをしたわけではない。これから何かをしようと企んでいるだけである。俺は今何をすべきかわからない。


 「簡単です。安藤さんと関川さんに声をかけて下さい。二人の怒りの原因は六道さんと仲良くできない苛立ちです。それを取り払ってあげれば解決します」


 実に簡単な解決方法であった。

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