第51話 忍び寄る魔の手


 「そんな事があったのか・・・」

 「あぁ。山本さんが木原にいじめられないか心配している」


 「俺も一緒に山本さんを守ってやる」


 上園は木原を抑え込んだ事で自分に自信が付いたので木原を恐れていない。


 「しかし、その笠原って女は何者なんだ?」

 「俺も詳しくは知らない。後で丸川さんに詳しい事情を聴くつもりだ」


 みんなが居るところで聞ける事ではないので、まだ丸川さんには聞いていない。


 「桜が丘西中の女帝、笠原 愛子(かさはら あいこ)、身長170㎝体重54㎏スリーサイズは公表されていませんが、バストはFカップ以上のダイナマイトボディの持ち主です。中学2年生の頃から身長は165cmあり読者モデルをしている有名人です。人を魅了する美しい容姿に、中学生離れしたスタイルですぐに有名になり、今はモデル事務所に所属しています。また、Yチューブで配信もしており50万人の登録者がいます。笠原さんは容姿だけでなく頭も良く学校では常にトップの成績を誇る才色兼備です。しかし、これは極秘の話しなのですが・・・性格は凶暴かつ冷酷で中学時代から気に入らない者をとことんいじめる悪の女帝と恐れられています」


 急に都築が流暢に喋り出す。


 「それは本当なのか?」


 食い入るように上園が訪ねる。


 「僕の情報は完璧です。ちなみに木原も笠原さんにメロメロなので、何でも言う事を聞くのは本当の事です。笠原さんの本当の恐ろしさは、あの妖艶な美貌で先生や警察官、業界関係者など大人たちを手玉に取っているところです。彼女がどんなに悪い事をしても、大人達の手によって全てなかったことになります」


 都築の言うことが本当ならかなり厄介な相手である。


 「六道さん、笠原さんに関わる事は危険です。笠原さんに比べたら御手洗なんて雑魚に過ぎません。笠原さんはこの辺りで関わってはいけない人物ベスト3位だと思います」

 

 ベスト2と1を知りたいところだが、今はそれどころではない。


 「もう、関わってしまった。いまさら丸川さんや山本さんを見捨てる事はできない」


 助けに入った以上ここで逃げる事はできない。


 「六道さん・・・もしかすると、笠原さんでさえ退けてしまうレア人物と遭遇しているかもしれません」


 都築は意味深な事を述べる。


 「どういうことだ」

 「羅生天・・・この変わった苗字にどこかで聞いたことがあります。すぐには思い出せませんでしたが、僕の知っている羅生天(らしょうてん)という男性なら、この極地から脱出する希望の光になるかもしれません」


 都築の情報はどこまで信ぴょう性があるのかわからないが、今は都築を頼るしかない。


 「都筑君は羅生天君の事を知っているのか?」

 「詳しい事は知りませんが、大阪の南部地域を掌握した不良軍団【関西紅蓮隊】(かんさいぐれんたい)のケンカ無双の羅生天という銀髪の中学生が居たと聞いた事があります。当時、羅生天は中学生にもかかわらす身長は175cmあり、格闘技にも精通していて、高校生相手にも圧倒的な強さを誇っていたらしいです。【関西紅蓮隊】は死者を出す大きな抗争をきっかけに警察の手によって解散させられたので、今は存在していません。しかし、六道君が出会った羅生天という男性が、ケンカ無双の羅生天であれば、笠原さん相手でも引けを取らない可能性があります」


 どこまで本当かわからないが、羅生天の得体の知れない不気味なオーラからかんがみて、都築の言っていることは正しいのかもしれない。俺は羅生天と友達になり(友達になる握手は銀 笑さんの手によって阻まれたが問題はないだろう)、またどこかで会うだろうと言われた。これは笠原さんとのトラブルに助太刀をしてくれるという意味だったのかもしれない。


 「羅生天に助けてもらうのが得策だな」


 自分の力ではどうにもならない事なら人を頼るのもありだろう。


 「六道、すぐに羅生天に連絡して今後の対策を練った方がいいんじゃないか?」


 上園の言っていることは正しい。笠原さんが動き出すのを待っていたら対処が遅れてしまう。先にこちらから対策を練っていた方が有利に事は進む。しかし、俺は羅生天の連絡先を知らない。


 「俺は羅生天の連絡先を知らない。どうすればいいのだ?」

 「それなら今から羅生天に聞きに行けばいいのでは?羅生天は縄手学院の生徒なんだろ」


 羅生天は縄手学院のジャージを着ていたので間違いなく縄手学園の生徒である。縄手学園もくろんど池公園キャンプ場にバーベキューをしに来ているので、直接聞きに行けば何も問題はない。くろんど池を挟んで東側のキャンプ場を利用しているのが磯川高校で、西側を利用しているのが縄手学院である。すぐに聞きに行ける距離なのだが、他校の生徒が集まっている場所に、磯川高校の生徒が行くのはかなり目立つ行為なので、行きたくないのが本音である。しかし、これは俺の問題ではなく丸川さんと山本さんが危険にさらされる可能性がある問題である。自分の事なら無理はしないが2人の為なら行くしかない。


 「そうだな。今から行って来る」


 俺は縄手学院の生徒たちが集まっているキャンプ場に向かう事にした。少し迂回して人気の少ない場所から西側のキャンプ場を目指す。それは、羅生天は遠くからでも目立つ風貌なので、キャンプ場に近寄らずに離れた場所から探す事にしたからだ。俺は木々の隙間からのぞき魔のように縄手学院の生徒たちを物色する。


 「六道、やっと一人になったな。俺はこの時をずっと待っていたのだ」


 俺の背後からどすの利いた声が聞こえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る