第49話 不幸の正体
俺が橋の上に着くと金髪の背の高い女性が腹部を抑えて倒れていて、丸川さんが背の高い不気味な男性の側に居た。
「お前がその女性を殴ったのか?」
俺は橋の上で何が起こったのか状況が掴めていない。しかし、女性が倒れている姿を見てこの男が悪者だと感じた。
「・・・」
その男は何も言わずに俺の方を見た。その男の不気味な銀の瞳を見た俺は寒気が走り俺は一瞬でコイツはヤバい奴だと悟る。不屈の心(銅)を持つ俺の本能がコイツとは争っていけないと警告していた。
「一体ここで何が起こったのだ?」
俺はこの男にじゃなく丸川さんに声をかける。できるだけこの男には関わらない方が良いと判断したからである。
「君が六道君だね。噂は聞いているよ」
男の表情が穏やかになりさっきとは違って天使のような笑みを浮かべる。しかし、それが返って恐ろしく感じた。
「六道君、この人が笠原さんから私を助けてくれたの」
丸川さんが俺に声をかけるが、俺の意識は男に集中しているので声が届かない。
「俺の事をしっているのか」
「磯川高校に超イケメンの1年生がいると縄手学園では有名でね、一度会いたいと思っていたんだ」
優しい声色だが俺の心はこの男を拒絶している。
「・・・」
「俺は縄手学院1年の羅生天 龍神(らしょうてん りゅうじん)、そこの女性が俺の学校の女子生徒に絡まれていたから助けてあげたのだよ。そんな怖い顔で俺を見ないでくれるかな」
俺の顔はいつしか恐怖で怯えていた。得体のしれない羅生天の不気味なオーラを感じて。
「丸川さんを助けてくれてありがとう。でも、女性を殴るのはどうかな?と思う」
女性を平気で殴ることができる羅生天を俺は許せないわけではない。どのような状況だったかも知らない俺が注意すべき事ではないからだ。しかし、思わず声に出してしまった。
「笠原さんは口で説得して理解してくれる素直な子ではない。力でしか抑える事の出来ない狂気の心の持ち主だ。おそらく彼女は親から暴力で教育を受けてきたのだろう」
羅生天はやむを得ないから手を出したと言いたいのだろう。俺はそれに納得するしかない。俺は笠原さんの事も知らないし、丸川さんを助けてくれたのも事実である。
「そうだったのか。失礼な事を言ってすまない。そして、丸川さんを助けてくれてありがとう」
羅生天への恐怖は消える事はないが、素直に俺は謝ってからお礼をした。
「いいんだよ。俺はなぜか人から畏怖される体質なんだ。だから怖がられることにはなれている」
背が高いからではない。奇抜な髪色をしているからでもない。鋭い目つきだからでもない。羅生天が放つオーラが人を恐怖に陥れる。その他のことは些細な演出にしかなっていない。
「六道君、君は不思議なオーラを纏っているね。俺とは対極的なやさしいオーラだ。俺にはそれを感じ取ることが出来る」
俺はそのような事は初めて言われた。しかし、羅生天が嘘を言って俺を褒めるようなヤツには見えない。
「六道君、俺と友達になってくれないか」
羅生天は細長い腕を伸ばして握手を求める。しかし、俺は怯えてすぐに手を差し出す事が出来ない。
「六道君は俺の力が必要だろ。俺と友達になって損はないと思う」
羅生天には俺の何が見えているのだろか?俺にとって羅生天は必要な人物なのか?俺は疑心暗鬼に陥る。
「六道君、俺には不幸の影が見える。今日もくろんど池キャンプ場に着いた時、この橋の上で不幸の影が見えた。気になったので橋の上に着たらこの子が笠原さんにくろんど池に飛び込むように脅されていた。俺がこなければ無理やりにでもこの子を池に落としていただろう。六道君、君は不幸の影に覆われている。もし俺の友達になってくれたら不幸の影も消えるだろう」
俺は羅生天の言葉には嘘偽りはないだろと直感で感じた。自分の保身の為に羅生天とは友達になっていた方が得策だと俺は思った。
「すぐに手を出せなくてすまない。俺でよければ友達になってくれ」
羅生天と友達になる事で、俺の人生が変わるかもしれない。そう思えるくらい羅生天の言葉に浸透してしまった。友達によって人生は左右される。良き友人と出会えれば、良き人生が待っているだろう。しかし、悪い友人と出会えば、悪い人生が待ち受けている。人との出会いとは運命を左右するおみくじなのかもしれない。羅生天は俺にとって吉と出るか凶と出るかは神のみぞ知る。
俺は羅生天と握手をする。羅生天の手は女性のように小さくて柔らかくて気持ちが良い。
「うん、うん」
「え!銀(しろがね)さんですか」
その手の持ち主は羅生天ではなく電車の中で出会った銀髪ショートカットの可愛い女性の銀 笑(しろがね えみ)さんだった。
「やっと見つけた」
銀色の綺麗な瞳で笑みを浮かべる。俺はその時はっと気が付いた。羅生天と銀さんがとても似ている事に。
「姉貴、こんなところで何をしている」
羅生天はいつものような冷酷な表情に戻る。
「弟よ、私は実行委員」
「姉貴がそんな面倒な事をするわけないだろう・・・もしかして、六道を狙っているのか?」
「うん、うん」
笑さんはまだ俺の手を離さずに握っている。
「六道君の不幸の影の原因は姉貴なのか・・・」
羅生天の冷酷な表情は憐れみの表情に変わる。
「すみません。手を放してくれませんか?」
小さくて柔らかい手に秘めた握力は強大であり俺が手を外そうとしてもビクともしない。
「ノー、ノー」
笑さんは決して手を放そうとしない。
「笑!こんなところで何をしているの」
笑さんを怒鳴りつけたのは日車 鼓(ひぐるま つづみ)さんである。俺はこの時、鼓さんが天使に見えた。
「デート」
「昴君が困っているじゃないの!それに、実行委員長の紫雨(しぐれ)先輩が怒っているわ。笑、紫雨さんに許可をもらってなかったでしょ」
「バレたか」
「そんなのすぐにバレるわよ。戻るわよ笑!昴君ごめんね。」
笑さんは鼓さんに引きずられるように去って行く。
「六道君、俺も戻る。また、すぐに会う事になるだろう」
羅生天は笠原さんを抱えて笑さん達と一緒に戻って行った。
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