第45話  不安

 サイレンを鳴らしたパトカーが校内の敷地に止まった。突然のパトカーの訪問に生徒たちに激震が走る。授業中にも関わらず一体何が起こったのか気になり、先生に質問をするが先生達も詳しい事は知らないので、生徒を静かにさせるのに一苦労だ。

 学校の駐車場には3台のパトカーが止まり警察官が校長室に向かっていく。校長室では御手洗の父親が最後の悪あがきをしていた。


 「示談をしよう。お金ならいくらでも用意してやる。どうせお金が欲しいのだろ」

 「それは僕が決める事ではありません。それに被害者の女性は示談に応じるつもりはないと言っていました」


 おそらくこいつらは初犯ではないだろう。何度もチカンを行為を繰り返している常習犯に違いない。それはあまりにもチカンをする手際がよかったからである。コイツらをこのまま許す事は社会の為にならない。もちろん、茜雲さんも示談には応じずに罰を受けてもらう事を望んでいる。


 「100万だそう。それだけあれば好きなモノが買えるぞ。もちろん、六道君にも用意する。だから、女性に示談をするように説得してくれ」

 「・・・」


 高校生には100万円とはかなり高額なお金だ。貰えるものなら喜んで貰いたい。お金で解決できる事はたくさんあるだろう。

 チカンなどの性犯罪は被害者を一生苦しめる恐ろしい犯罪だ。知り合いに性被害にあった事を知られると、被害者なのに冷たい視線を向けられる理不尽な仕打ちも受ける事もある。なので、泣き寝入りをしてしまう被害者もいる。そういう背景を知っているからこそ性犯罪者は付け上がる。だからこそお金で解決するのは愚策であるが、性犯罪者と戦うには勇気が必要だ。被害者なのに勇気が必要なのはあまりにも理不尽だ。


 「お金の問題じゃありません」

 「御手洗様、部外者に言っても意味はありません。被害を訴えているのは女子高生です。なので、親に現金を見せればすぐに被害届を取り下げてくれるはずです。後の事は私に任せてください。つまらない正義感を振りかざした偽善者と交渉する意味はありません」


 弁護士が御手洗の親父に忠告をする。


 「そうだな。いつものようにお金で解決できるはずだ」


 御手洗の親は少し冷静を取り戻してきた。一方、木原の親父は表情一つ変えずにずっと俺を睨みつけていた。


 「お前の事は絶対に許さない」

 

 木原の親父は俺に聞こえない声で念仏のように何度も何度もこの言葉を呟いていた。


 しばらくすると、警察が校長室に来て御手洗達を連行する。御手洗達の親は一旦警察署に連行され取り調べを受ける事になる。そして、警察署内で取り調べを受けた後、家族などを身元引受人として帰宅することもあるが、2人はこのチカン以外にもいくつもトラブルを抱えているので、警察署内で留置される事になる。


 パトカーに乗せられて行く自分の親を見た御手洗は、呆然と教室内で佇んでいた。


 「おい。あのおっさん誰だよ」

 「あのおっさん何をしたんだ?」


 休憩時間になり教室内ではほとんどの生徒がパトカーの止まっている敷地を窓からのぞいていた。


 「あれ!御手洗君と木原君のお父さんだよね」


 空気の読めない都築は大声で御手洗に声を掛けた。しかし、放心状態の御手洗には聞こえていない。


 「御手洗君のお父さんは、どんなトラブルでも解決してくれるんだ!木原君もすぐに学校に戻って来る。俺達に逆らうヤツは上園や六道みたいに制裁を加えられて奴隷のように従うようになるぞ!お前達も誰の仲間になるか覚えておけよ」

 「黙れ!」


 御手洗は都築を一喝した。


 「どうしたの?御手洗君。僕何も間違っていないよね。今までだって何をしてもみんなを黙らせてきたよね」


 都築は怯えながらも御手洗に訴える。御手洗は感じていた。今回はいつものように解決しないと。今まで親がパトカーに乗せられることなどなかった。直感で今回はダメだと感じてしまった。


 「六道・・・何をした。親父に何をしたんだ!」


 御手洗はやり場のな怒りをぶつけるように怒鳴り上げた。


 「御手洗、今回はいつものように権力や財力で解決しないようだな」


 上園が御手洗に声をかける。


 「お前は何か知っているのか」

 「いや、俺は何も知らない。でも六道なら何かしてくれる気がする。アイツはそんな男だ」


 俺は上園にも詳細は教えていない。それは、できれば茜雲さんがチカンされた事はクラスメートには言いたくなかった。いずれみんなが知る事になろうとも俺からは伝えてはいけないと思っていた。


 「おい!授業をはじめるぞ」


 教室に男性教師の声が響く。そして生徒たちはおとなしく席に座った。しかし、御手洗は体調が悪くなったと言って途中で学校を早退した。


 俺は校長先生に今回の事は黙っているように言われた。俺も誰にも言うつもりはなかったので結果往来である。俺は途中から授業に戻ったが、戻るや否や何があったのか生徒が騒ぎ出したので、男性教師はみんなを抑え付けるのに一苦労した。結局俺は誰にも何も言わなかった。

 

 そして、お昼休みになる。俺は上園と塩野と一緒に弁当を食べていた。


 「六道、ありがとう。お前のおかげで御手洗に勝てたぞ」


 上園が嬉しそうに笑みを浮かべていた。


 「どうなるかと思ったけど、これでアイツらがおとなしくなってくれたら良いけどな」

 

 俺は希望的観測を述べた。御手洗達の親の圧力は抑える事が出来たが、木原は一週間経てば学校へ戻って来る。アイツの性格からしてまたケンカを売ってくる可能性は高い。上園は柔道で鍛えているが俺は弱い。木原よりも強くなるには好感度ポイントを貯めて運動神経のレベルを上げる必要がある。一週間で俺は木原より強くなれるのだろうか・・・


 

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