第44話 犯人
「昨日の出来事を僕の口からきちんと説明をしましょうか?」
「六道君!挑発するような事は言わないで下さい!」
藤井教頭の額から汗が滝のように流れてくる。俺が謝罪すると思っていたのに好戦的な態度をとる俺に焦りを隠しきれない。
「六道君、話は解決に向かっています。余計な口出しは差し控えてください。それに、藤井教頭、なぜ六道君を校長室に連れて来たのですか?話がややこしくなるだけでしょう」
校長先生は冷静を装いながら俺と藤井教頭に注意をする。
「申し訳ありません。六道君が謝罪をしたいと言いましたので連れて来ました」
藤井教頭は涙目で校長先生に訴える。
「御手洗様、この礼儀を知らない生徒が全ての元凶です。自らが犯した過ちを反省もせずに、言い訳を述べる無礼者にどのように対処を致しましょうか?」
勝ち誇った顔で弁護士の男性が御手洗の父親に声をかける。しかし、御手洗の父親は手で顔を隠して俯いて何も言わない。
「校長先生、教頭先生、冷静になってお二人の顔を見てください。僕の顔を直視することが出来ずに下を向いて震えています。まるで目の前に強大な敵が現れて逃げ場を失った兵士のようではありませんか」
校長先生と教頭先生は二人の方を見てあきらかに様子がおかしいと感じた。
「六道君、これはどういうことでしょうか」
先に口を開いたのは校長先生である。
「僕と御手洗と木原の親とは腐れ縁があるみたいです。実は入学式に向かう電車の中で二人と会っているのです」
「電車の中で会うくらい別に普通ではありませんか?」
「ただ電車の中で遭遇したのであれば、お二人は威勢よく僕を罵っていたでしょう。でも違います。お二人は何も言葉を発せずに今にも校長室から逃げ出しそうです」
「どういう事ですか!六道君。きちんと説明したまえ」
しびれを切らした藤井教頭が怒鳴りつける。
「校長先生、先ほどの話しは無かった事にしてください。裕也君には1週間の停学処分をしてもらい、今回の件を十分に反省をしてもらいます。もし、深夜にも悪い所があれば停学処分をして下さい。よくよく考えれば親が学校の教育に口出しするのは間違っていました。過保護過ぎた事を深く反省致します」
「御手洗様、どうしたのですか?ここで引いてはいけません」
「黙れ!」
「・・・」
御手洗の親は弁護士を一喝する。
「木原、これでいいよな」
「・・・」
木原の親は顔を真っ赤にして怒りに満ちていた。しかし、納得せざる得ないと感じて歯を食いしばって首を縦にふる。
「ちょっと待ってください。僕と上園君は何も悪い事はしていません。罰を与える前に僕たちに謝罪をして下さい」
停学処分は罰であり謝罪ではない。俺と上園は全く悪い事をしていないので、きちんとした謝罪をしてもらわないと納得がいかない。
「それと、電車での出来事は警察に連絡します」
「ふざけるなぁ!俺達は我慢して引いてやったのだ。調子にのっていると痛い目に合わすぞ」
木原の親が烈火の如く怒る。
「引くことはないのです。自分の道が正義ならその道を突き進むべきです。その為に弁護士さんを連れて来らているのでしょう」
俺をビビらせようと大声で怒鳴りつけるが、今の俺には脅しは通用しない。木原の親父は電車の中では冷静な紳士を装っていたが、今はガラの悪い悪党の姿である。これが本来の姿なのであろう。この親にしてこの子ありを体現している。
「六道君どういうことなんだ。きちんと説明してくれ」
状況が飲み込めない藤井教頭が涙目で俺に声をかける。
「この二人は電車の中でチカン行為をしたのです」
電車の中で出会った背の高い男性は木原の父親で、細身の男性が御手洗の父親であった。俺は教室の窓から見えた黒塗りの高級車から出てきた二人を見て、すぐにチカンをした犯人だと気づいたのである。俺は茜雲さんに相談して2人を警察に通報する許可をもらった。まさか、クラスメートの親がチカンの犯人だと思いもしなかった。これがきっかけでクラスメートにチカンをされたことがバレる恐れがあるが、茜雲さんは犯人を放置すると被害者が増えると言って通報を許可してくれた。茜雲さんの勇気ある判断に俺は感謝した。
「本当・・・なのか」
「・・・」
校長も藤井教頭も驚きで顔が硬直する。
「間違いありません。僕はしっかりと顔を覚えています。それに、急に態度が変わった事をみれば一目瞭然でしょう」
「証拠はあるのか!俺はチカンなどしていない」
木原の父親が堂々と否定する。御手洗の父親は弁護士に耳打ちをして対処を求めている。
「あなたの証言は本当なのでしょうか?お二人はチカンなどしていないと言っています。お二人によく似た方と間違っているのではないでしょうか?」
「俺は絶対にしていない」
御手洗の父親は何も言わずに全て弁護士に任せるようだ。
「チカンの被害者もこの学校の生徒です。チカンをした現場を見たのは僕だけかもしれませんが、電車の中でのやり取りはたくさんの人が見ていたでしょう。しかも、僕を蹴り飛ばして逃げた事も知っているはずです。あの時間の電車に乗っている方は毎日同じ時間の電車に乗っているはずです。警察はすぐに目撃者を見つけてくれます。それでも、やっていないとしらを切るのですか?」
2人は観念したかのように何も言い返しはしなかった。俺は校長先生にお願いして警察を呼んでもらった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます