第39話 仲間

 俺は保健室で休んでから病院に行った。レントゲンを撮った結果、骨折など全くなくただの打撲である事がわかり安心した。母親が帰ってくると俺の腫れた顔を見て、驚愕していたが事情を説明すると涙を流しながら褒めてくれた。


 「昴、本当に強くなったのね。お母さんは嬉しい」


 母親は俺を強く抱きしめる。以前の俺なら照れくさくて払いのけるのだが、俺は懐かしい母のぬくもりを感じながら母親の無償の愛に感謝する。


 「ケガは本当に大丈夫なの?」

 「正直全身が痛いけど骨には異常はないから問題ないよ」


 「あなたが大丈夫って言うならお母さんは何も言わないわ。でも、無理はしないでね」

 「もちろんだよ」


 以前の母親なら、口うるさく注意をするタイプだったのだが、俺が内面的に成長したのを感じ取っているので、余計な注意をする事はしなかった。母親も以前とは性格が少し変わったのかもしれない。

 母親は心配症でとても口うるさい女性だった。子供を注意して躾をするのが親の役割かもしれないが、自分基準で注意するので、子供ながらに言っている事が支離滅裂だった記憶がある。子供はこうあるべきであるという聖人君主のような事を求めるので、怒られる方はたまったものじゃない。親は何をしても許されるが、子供には理想像を押し付けるのが嫌だった記憶がある。

 しかし、今の母親は違う。俺の事を信頼しているので、自分の気持ちを抑えて余計なことを言わず、逆に俺を褒めるだけだった。いろいろと注意したい事はあったに違いない。顔を腫らして全身に青タンできる状況になった事をきつく注意したいに違いない。でも、自分の感情を押し付けずに、俺の感情を優先する様子に俺は母親に無償の愛を感じたのである。


 「昴、体の痛みがひかなかったら明日は学校を休むのよ」

 「はい」


 俺は元気よく返事をして、少しでも元気である事を伝える。


 「それだけ大きな返事をできるなら問題ないわね」


 母親は俺の意図を汲み取り笑みを浮かべた。



 翌日


 体の痛みはほとんど取れなかったが俺は学校に行くことにした。


 「昴、いってらっしゃい」

 「いってきます!」


 俺は元気よく挨拶をする。心なしか無意識に大声が出るようになっている。これは不屈の心(銅)の効果でもある。俺は無意識のうちに周りの目を気にして臆病になっている。声が小さいのは自分に自信がなく、周りの目が気になるからである。地声が大きい人は自分に自信のある人が多いと言える。

 母親も俺の声が大きくなったことに気付き嬉しそうに手を振って俺を見送ってくれた。俺が成長することが母親の喜びであり、母親自身も成長していくのだと俺は思った。


 俺は電車に乗るといつものようにスマホを見て時間を潰していた。


 「六道君、顔大丈夫!」


 俺がスマホをいじっていると女性の声が聞こえた。顔を上げると茜雲さんが立っていた。

 

 「おはよう!茜雲さん。まだ痛いけど問題はないよ」

 「そうなのね。元気そうでよかったわ」


 昨日木原に顔を殴られた場所はまだ青く腫れているのでガーゼを張って処置をしていた。


 「実は昨日、私と丸川さんで先生に報告をしたの。もっと早く報告出来たら六道君はケガをせずにすんだのにね」

 「そんなことはないよ。2人が報告してくれたおかげで無事に学校に通う事ができるんだよ」 

 

 先生に報告をしてくれたのは茜雲さんと丸川さんであった。


 「都築君が教室から誰も出るなと命令していて、足止めされてなければもっと早く報告できたのに」

 「え!そんな事があったの?」


 「うん。先生に報告しないように都築くんが妨害をしていたの。御手洗君と木原君は地元ではやんちゃで少し有名らしいから、みんなビビッて報告することができなかったの」

 「報告して大丈夫だったの?」


 「丸川さんは正義感の強い子だし、私は六道君に助けてもらったから無視することは出来なかったの」

 「ありがとう。もし、御手洗達が何か言ってきたら俺が対処する」


 不屈の心(銅)を手にした俺は、臆することなく言う事が出来た。茜雲さんと丸川さんは別の中学出身だが、同じ班になったので丸川さんから声を掛けてきて仲良くなったらしい。お昼休みも同じ班になった者同士で弁当を食べていたら、俺と上園が御手洗達に呼び出されてどこか行く姿を見て心配していた。都築がクラスメートに先生にチクらないように教室で足止めを始めたので、2人は先生に報告すべきだと思い、トイレに行くと言って教室から出た。2人の報告を受けた雪月花先生はすぐに体育館の裏手にいると確信して真っ先に飛び出した。磯川高校では体育館の裏手でよくケンカが起きるので簡単にわかったらしい。


 俺と茜雲さんはたわいもない話をしているうちに四条畷駅に着く。すると昨日と同様に茜雲さんは1人で学校へ向かった。

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