第38話 新たなスキル
御手洗と木原は教師たちに連れられて職員室に向かい、俺は上園に担がれて雪月花先生と保健室に向かった。
俺の右頬は青く晴れ上がり、制服を脱ぐと体中にアザが出来ていた。体中に痛みが走るが俺の心は晴れやかだった。木原の鬼のような形相、どすの利いた声、全身から沸き立つ恐怖のオーラ、今までの俺なら怖くて木原の言いなりなっていただろう。しかし、俺は恐怖に屈することなく無抵抗で立ち向かいボコボコにされた。はたから見れば口だけの弱者かもしれない。でも、俺は逃げずに自分の言いたいことを言って高揚感に満ち溢れていた。
「六道君の状態は大丈夫なのでしょうか?」
「詳しい事は分かりませんが骨などは折れていないでしょう。しかし、念のために学校は早退して病院に行った方がよいでしょう」
「救急車を呼びましょうか?」
「歩くのに支障がないみたいですが、本人が望むなら呼んだ方がよいでしょう」
「先生、僕は大丈夫なので救急車は必要ないです」
全身が痛いが骨が折れているほどの痛みではない。わざわざ救急車を呼ぶほどではないし、救急車が来ると目立ってしまうので断る事にした。
「保健室で休んでから早退するのよ」
「はい」
「上園君は大丈夫?」
「僕は何もされていませんので問題ありません」
「そうなのね。上園君にはどうしてこのような事になったのか説明してもらうわ」
「はい」
上園は雪月花先生と一緒に保健室から出て行った。そして、俺は1人で保健室で休憩することになる。
もし、先に運動神経のレベルを上げて、格闘技をマスターしていたら結果はどうなっていただろう。木原をボコボコにして力でアイツらを抑え付ける事が出来ていただろうか?ケンカでは大事な事がある。それは相手を平然と殴る事が出来る冷酷さである。
もし、相手との力量差が明確ならば、手加減して相手をいたぶる事もできる。まさしく木原が俺にした事だ。木原は俺がケンカに慣れていない事を理解していた。
もし、仮に俺が攻撃してきても簡単に倒せる自信があったに違いない。だからこそ、俺はあれだけ激しく蹴られても骨折をしていない。木原は本気で俺を殺しにきたのではなく、恐怖を植え付けるためにいたぶっていた。
もし、俺が格闘技をマスターし木原とケンカをしていたら、俺は木原を躊躇なく殴る事が出来ただろうか?もちろん、出来なかっただろう。上園は2年間柔道で鍛え上げて強くなった。御手洗達のような陽キャにいじめれないように。しかし、上園は鍛えた柔道で御手洗達と戦う事は出来なかった。上園は二人に植え付けられた恐怖心と躊躇なく相手を殴りつける冷酷さが無かったのだ。だが、俺がボコボコにされてこのままでは危ないと感じた上園は、俺を助ける為にやっと自分の力を出す事が出来た。
人はきっかけがあれば変わる事ができる。
1度目のきっかけは、俺が御手洗達に強引に自分たちの班に来るように勧誘されている現場を見て、上園は勇気をだして俺を助けに来た。しかしその時は、御手洗達から植え付けられた恐怖に負けてしまった。だが、2度目のきっかけの時は、無我夢中で木原にタックルをかまして転ばせた後、木原を抑え込むことが出来た。おそらく上園は俺を助ける為に恐怖心を克服し、本来の力を発揮することが出来たのであろう。これは上園にとって大きな成長に繋がった。たとえ不意打ちとはいえ木原を力で抑え込んだ事実は上園にとって大きな糧となり強い自信を身に着けたに違いない。
俺は保健室にベットで横たわりながらある異変に気付いた。俺は早々にも運動神経のレベルを上げなければいけないと思い、後どれくらい好感度ポイントが必要か確認していたところ、スキルの欄に新たなスキルを手にしていた。それは【不屈の心 銅】である。不屈の心とはどんな恐怖心にも打ち勝つことが出来る強靭なメンタルのことである。不屈の心は3段階あり銅、鉄、鋼に変化していく。
「いつの間にこんなスキルをゲットしたのだろう」
スキルの習得はレベルを上げた時のボーナス特権としてたまに付与される以外に、ある条件を満たすとゲット出来ると黒猫から聞いている。俺はどんな条件をみたしたのであろうか?
「ニャ~、ニャ~、ニャ~」
保健室に不気味な猫の鳴き声が聞こえた。
「昴にゃん、今回はよく頑張ったにゃん」
黒猫に褒められて俺は少し嬉しかった。誰かに褒められるのは悪いものではない。
「ケンカをしたところで1ミリの勝ち目はにゃかったので、ボロを出さずにボロボロにされたのは良い判断にゃ~」
「・・・」
黒猫の言う通りである。ケンカをしたところで勝ち目は0である。どうせ負けるとわかっているのならカッコよく負けるのも美学である。
「しかしにゃ~、昴にゃんは悪意の暴力に屈することなく自分の誇りを貫いたにゃ~これは不屈の心のスキルを手にする条件である恐怖心に打ち勝つ事に該当するにゃ~」
不屈の心の習得条件は恐怖心に打ち勝つことである。
「不屈の心(銅)はあらゆる恐怖心にも冷静でいられる強い心にゃ~。恐怖心は、物事の判断を鈍らせ本来の力を発揮できなくなるにゃ~」
恐怖心とはプレッシャーと同じことである。生きていれば絶えず何かしらの恐怖心やプレッシャーに襲われ続ける事になるだろう。しかし、俺は不屈の心(銅)を手にした事で、どのような環境下でも自分の力を出す事が出来るようになった。
「昴にゃん!着実に成長しているにゃ~。二度目の人生こそは謳歌するにゃ~」
そういうと黒猫は姿を消したのであった。
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