第40話 心配
教室に一番乗りした俺はスマホを見ながら時間をつぶしていた。俺より先に学校へ向かった茜雲さんはまだ姿を見せていない。しばらくすると数名のクラスメートが教室に入って来るが何か雰囲気が違うように感じた。
俺は違和感を感じたが気にせずにスマホをいじりながら暇をつぶしていると茶髪のロン毛の男が俺の席の前に来た。
「六道、イケメンが台無しになったようだな」
ガーゼを付けた俺の顔を見てにやけながら言う。
「お前が都築か?」
制服の胸の所の名札が付いているので、この男が御手洗達の仲間である都築であることがすぐにわかった。
「都築さんだろ?」
俺を睨みながら余裕たっぷりの態度で言い返す。今までの俺なら都築の威圧的な態度にビビッてしまうところだが、不屈の心(銅)のスキルをゲットした俺には恐怖は全く生まれてこない。それどころか、無理して威嚇している様子が読み取れて笑ってしまいそうである。
「それなら俺の事は六道様と呼んでもらおうかな」
俺は全くビビる様子もなく淡々と答えると、都築は少し動揺したような目をして口を開けて怒りをあらわにする。
「俺は御手洗君と木原君のツレだぞ。そんな態度をとっているとまた痛い目にあうぞ」
今の都築の言動で全てを知る事が出来た。都築は御手洗達の子分であり、御手洗達の笠に隠れて偉そうにする典型的な卑怯者であろう。
「俺は御手洗達に屈する事はない。どんな手を使ってきても正々堂々と俺は戦う。お前にもその覚悟があるなら相手をしてやる」
不屈の心(銅)のスキルに頼らなくても、自分の信じた道を突き進む覚悟をしているので、堂々と教室内にこだまするくらいの大声で宣言することができた。御手洗達の暴力と権力に全く怯えることなく堂々とした俺の姿に都築は、さらに委縮して今にも泣き出しそうになる。
「ど・・・どうなってもしらないぞ。御手洗君達に逆らったやつらは、みんないじめられてひどい目にあってるんだからなぁ~」
古典的な卑怯者の遠吠えをあげながら都築は教室から出て行く。都築が教室から出ていくと教室内は誰もいないような静けさに包まれた。その静けさを打ち破るように教室の扉が開く。
「六道!大丈夫だったか?」
教室を入るや否や大声で俺に声をかけてきたのは上園である。
「大丈夫だ」
「病院には行ったのか?」
「あぁ、骨に異常はないから全く問題はない。でも、全身の痛みはとれていない」
「おい!全然大丈夫じゃないだろ?休まなくて良かったのか?」
「これくらいで学校は休めない。動くにも支障はないし」
「真面目だな。でも、六道らしいな」
上園が俺の肩をポンポンと叩く。一緒に戦地を共にした仲間のような熱い気持ちが俺に伝わって来る。
「そうだ!ココア(SNS)を教えてくれよ。昨日からお前の事が心配でなかなか眠れなかったのだ」
上園は俺の体の事が本当に心配であった。連絡して容態を確認するにも連絡手段がなかったので、夜も落ち着かず寝不足になってしまったようだ。俺は上園とココアの連絡先を交換をする。
「おはよう六道君。昨日は大丈夫だった?」
「問題ないよ」
塩野が俺に声をかけてきた。
「ごめん。昨日は僕は何もできなくて」
「気にするな!あいつらに逆らいたくないのは当然だ」
上園が塩野をなぐさめる。
「そうだよ。俺は何も気にしてない」
「な!六道はそんな事を気にする男じゃないって俺は言っただろ」
「そうだね」
塩野は御手洗達の怖さを知っているので、先生に報告が出来ない事は上園も承知の上である。だから塩野を責めることなどしない。
「おはよう。昨日は何があったの?僕たちは何が何だかわからなかったよ」
昨日のお昼休みの事件の詳細を知っている人はほとんどいない。俺達が御手洗に体育館の裏に呼び出されて、俺がボコボコにされたことは雪月花先生は詳しくは言っていない。
お昼休みが終えると俺達4人は教室に戻ってこなかった。上園、御手洗、木原は個別に事情徴収され、俺は保健室で休んだ後に家に帰宅した。教室に居たクラスメート達は4人の間にトラブルがあり、その為に授業に戻ってこなかった事は理解していたが詳しい事を知るのは俺達4人だけである。
何があったのかわからない川原は、俺のケガの様子を見て心配してくれたのだろう。
「六道、昨日の事は雪月花先生がきちんと説明するから、お前から何も言わないでくれ」
俺が川原に昨日の事を説明しようとすると上園が止めに入った。
「わかった」
「川原、悪いな。詳しい事は朝のHRで説明あるはずだ」
「そうなんだ」
相川も川原と同様に俺に声をかけてきたが、上園が同じように説明してくれた。おとなしい2人だが俺の姿をみて心配になって声を掛けてくれたのだろう。俺は心配して声を掛けてくれた事はとても嬉しかった。
「御手洗君、アイツらをシメて下さいよ。さっき僕に向かって生意気な口をきいたんですよ」
御手洗の後ろに隠れて都築が教室に戻って来た。
「ここでは手を出せない。でも、心配するな!アイツらの運命は今日で終わりだ」
御手洗は余裕の笑みを浮かべて俺を睨んでいた。
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