第26話 チカンの真偽

 「か・・・かまいません。僕はあなたがチカンをしているのを目撃しました。弁護士でも警察でも呼んで下さい」


 俺はこの目で3人の男性たちが女子高生の体を触っているのを目撃している。長身の男性の毅然たる態度に動揺をしてしまったが、ここで引き下がってはダメだと過去の俺が後押しをする。


 「わかりました。次の駅で降りましょう。あなたのような正義を振りかざした偽善者に、私は決して屈することはないでしょう。チカンの冤罪でたくさんの男性が人生を棒に振っているのです。私は冤罪だとはっきりと証明させましょう」


 揺るぎない心強い言葉に乗客たちは戸惑いを隠せない。チカンが発生したと思いきや、背の高い男性の毅然たるふるまい、愚直な言葉、身なりのいい服装、チカンをするような男性に見えない。一方、イケメンで高身長の高校生、すこしおどついている所はあるが、まっすぐな瞳に、正義感あるれる行動、冤罪を押し付けるような人にみえない。

 乗客たちはどちらの言い分が正しいのかわからないので、静かに状況を見守るしか出来ない。


 「まもなく南寝屋川、南寝屋川です。お出口は右側です。降りる際は忘れ物のないようお気を付けてください」


 電車が南寝屋川駅に到着した。


 「降りてきちんと話し合おう」

 「わかりました」


 女子高生は依然として硬直して顔を伏せたまま動かない。無理やり女子高生を電車から降ろす事も出来ないので、背の高い男性が電車から降りたので俺も続いて降りた。


 『バコ!』

 『ズデーーーン』

 「うわぁぁぁぁぁぁぁ」


 俺が降りるとすぐに、俺の後ろに居た二人の男性のうち、1人が俺を蹴飛ばした。俺はホームの床に激しく膝を殴打する。


 「・・・」

 「・・・」


 駅のホームに立っていた乗客は、いきなり俺がドアから飛び出してきたので唖然とした。


 「大丈夫か!」


 電車に乗っていた乗客があわてて俺に駆け寄ってきた。


 「僕は大丈夫です。チカンを捕まえてください」

 「申し訳ない。一瞬の出来事だったので、取り逃がしてしまったよ。まさかホントにチカンだったとは・・・」


 チカンの3人組は俺が派手に転んで、ホームの乗客が唖然としていた隙に走って逃げたのである。電車に乗っていた乗客も、まさかこのような事態になるとは想定してなかったので全く対処が出来なかった。


 「そうですか・・・残念です。あ!僕に構わずに電車に乗ってください」

 「わかりました」


 俺が扉の前で派手に転んだので、乗車の邪魔になると思い、回転しながらドアから離れる。乗客は痛々しい俺の姿が気になるが急いで電車に乗る。


 「お客様、どうしたのでしょうか?」


 駅員が俺の元に駆け付ける。


 「チカンに蹴飛ばされてしまいました」

 「チカン!チカンにあわれたのですか?」

 「僕じゃありません。ドア付近に立っていた女子高生が3人組の男性にチカンされていたので注意をしたのです」

 「チカンをした3人組はどこにいるのですか!」

 「僕を蹴飛ばして逃げました・・・申し訳ありません」

 「いえ、謝る事はありません。あなたは勇気ある行動に誇りを持ってください。派手に転んだみたいですけどお怪我はありませんか?」

 

 俺は咄嗟に手を付いていたのでたいしたケガはしていなかった。


 「大丈夫です。ご迷惑をおかけしました」

 「迷惑などかけていませんよ。こちらこそ、チカン撲滅にご協力を頂いてありがとうございます」

 「結局逃がしてしまいましたけど・・・」

 「チカンをされている人がいても、注意を出来る人はなかなかいません。私どももチカンが無くなるように注意喚起をしていますが、犠牲に会う女性は後が絶ちません。皆さんが注意をして下されば少しは減ると思いますが、乗客様に頼むわけにもいきません。だから、あなたのような勇気ある行動をして下さることは本当に嬉しいのです」

 「あ・・・の・・・・大丈夫で・・・すか?」


 怯えた声が俺の耳に響く。俺は声のする方に目をやった。そこにはヘッドフォンを付けた女子高生が立っていた。


 「派手に転んだけど大丈夫です」


 俺は強引に笑顔を作る。ケガはしていないが手は痛いし膝も打ったので膝も痛い。


 「ご・・・ごめんなさい。私のせいでひどい目にあってしまった」


 女子高生の頬に涙がこぼれ落ちる。


 「僕は大丈夫です。君こそ辛い目にあったよね。すぐに助けてあげれなくてごめん」

 「ごめんなさい。私・・・怖くて・・・怖くて・・・」

 「気にしなくてもいいよ。本当に僕は大丈夫だからね」


 俺はサッと立ち上がり制服についていた汚れを払った。


 「君たち、詳しく話を聞かせてもらっていいでしょうか?」


 駅員が俺と女子高生に声をかける。


 「はい」

 「は・・・い」


 女子高生はか細い声で返事をした。



 俺と女子高生は駅員に電車内で起こったチカンについて説明をした。女子高生の説明では、河内磐船駅から乗り込んできた3人組は、女子高生を取り囲んで痴漢行為をしていた。恐怖で声もだせずに硬直していた時に俺が止めにはいったが、女子高生は、チカンをされた恐怖と、乗客たちの好機の視線が怖くてずっと下を向いて固まってしまい声を出す事ができなかった。しかし、俺が蹴り飛ばされて派手に転倒し、ホーム内があわただしくなったので、俺の事が心配になり慌てて電車から降りてきたらしい。俺もチカンをしていた男性との電車内でのやり取りを説明した。


 「犯人を捕まえるためにも警察に通報しますか?」

 「・・・」


 女子高生は思いつめた表情ですぐに即答できなかった。


 「また、次の犠牲者を出さない為にも通報された方が良いでしょう」

 「・・・は・・い」


 女子高生は小さくうなずきながら返事をした。


 「僕も協力します」

 「わかりました。すぐに警察官を呼んできます」


 数分後、警察官が訪れて再度説明することとなった。

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