第25話 冤罪?
俺はずっと俯いていた。彼女達が過ぎ去った後も顔を上げれない。それは周りからの視線がチクチクと体に突き刺さるからである。綺麗な女子高生2人に一方的に声を掛けられる男子高校生。はたから見れば羨ましい光景でありネタになる光景なので、電車の乗客たちはパパラッチのように俺を見る。
通勤通学の時間帯なので、学生以外は友達同士で乗っている人は居ないから俺の話題で談笑する人はいない。しかし、話のネタとして状況を把握しようと虎視眈々と俺を観察していた。
少し目立ち過ぎたかもしれないので、俺は寝たふりをしてやり過ごす事にした。電車が一駅、二駅、三駅を通過したあたりから、俺を見る視線が無くなった気がした。しかし、また誰かに声を掛けられても面倒なので俺は四条畷駅に着くまでは寝たふりをすることにした。
「すみません!居ります」
河内磐船駅に着いた時、学生が電車から降りるために声を出した。俺は寝たふりをしていたが、ふと電車のドアの方向を見た。学生は乗客をかき分けて無事に降りることが出来た。
「すみません、乗ります」
学生が降りるとホームに待っていた乗客が雪崩のように押し寄せてくる。電車内はかなり混みだしてきて、流されるように老夫婦が俺の前に来た。
「どうぞ!」
俺はすぐに立ち上がり老夫婦に席を譲る。俺は貪欲に好感度ポイントを取りに行く。
「こちらもどうぞ」
隣に座っていた女子高生も席を譲った。
「ありがとうね」
老夫婦は俺と女子高生にお礼を言って席に座った。
「あれ?そう言えば・・・」
俺はある出来事を思い出した。この光景は34年前の入学式へ向かう電車の中と同じである。あの時は隣にはサラリーマンの男性が座っていた。河内磐船駅に着くと老夫婦が押し込まれるように俺の前に来て、俺は席を譲らずにそのまま座っていたが、隣のサラリーマンが席を譲ったので、俺は慌てて席を立った。
「もしかして、あの事件も起きるのか」
俺は人をかき分けて下り側のドアの角に向かう。するとヘッドフォンをかけた小柄の女子高生が立っている。あの時も俺は四条畷駅に着いたらすぐに降りれるようにこの位置に立っていた。
「まだ、大丈夫みたいだな」
俺はヘッドホンを付けた女子高生の側に立つ。この子は34年前の俺が目撃した女子高生と同一人物である。あの時はヘッドフォンではなくイヤホンで音楽を聞いていたが、小さなクマのぬいぐるみを抱いている姿は同じであった。
俺は警戒するように辺りを見渡す。怪しい動きをする男性は今の所いない。俺は34年前、この女子高生がチカンにあうところに遭遇している。あの時は、助けることも出来ずに、傍観者として見て見ぬふりをしていた。女子高生はチカンに遭遇して四条畷駅まで涙を浮かべてずっと耐えていた。怖くて声も出せずに体を硬直させて・・・。あの時俺は女子高生と目が合ったがすぐに目線をそらして気付かないふりをした。俺はトラブルに巻き込まれるのが嫌だったから逃げた。
しかし、今回は違う。もし、この女子高生がチカンに遭遇すれば俺は絶対に助けると覚悟を決めた。電車は河内磐船駅を出発して次の星田駅に止まる。すると、流れ込むように数名のサラリーマンが押し寄せてきて、ヘッドフォンの女子高生を取り囲むように3人の男性が俺の前に立ちはだかる。1人は40代くらいの細身の男性、もう1人は背の高い細身の40代くらいの男性、最後の1人は30代くらいの中肉中背の男性。あの時は怖くてチカンをしている男性の姿を見ていない。だから、この3人がチカンをするかどうかはわからないが、あまりにも不自然に女子高生を取り囲んだので俺はこいつらがチカンだと判断した。34年前は背が引くかったので人の隙間から女子高生と目があったが、今回は背が高くなったので、少し見下ろす感じで女子高生の表情を見た。
「間違いない」
先ほどまで女子高生は、ヘッドフォンで音楽を聴きながら頭を軽く揺らし気分よさげな顔をしていたが、今は体を硬直させて俯いている。あきらかに様子がおかしい。俺は3人の男性の動きを確認する。3人は三角形になって女子高生を周囲から見えないように塞ぎ、片手にカバンを持ちガード固めて完全に視覚を封じていた。俺があの時、人の隙間から女子高生と目が合ったのは本当に幸運だったのかもしれない。でも俺はその幸運を簡単に捨ててしまった。
横からじゃ見えないので。俺は背伸びをして上から3人の動きを捕える事にした。1人は175㎝くらいで俺と同じくらいの身長だが、あとの2人は160㎝後半あたりなので、背伸びして覗き込めば状況を把握できるだろうと思った。
「何をしているんですかぁ!」
俺は清水の舞台から飛び降りる覚悟で大声を出す。俺の声に驚いた周囲の人は一斉にコチラを見る。
「女の子が嫌がってるじゃありませんか!」
俺が上から覗き込むと3人の男性が女子高生の体を触っている姿が見えた。
「何を言っているのだ君は!憶測で大声を出さないで下さい。警察を呼びますよ!」
背の高い男性は顔色を変えることなく冷静に言い返してきた。俺はあまりにも正々堂々とした態度に顔が真っ青になる。
「私がチカンをしたとでも言いたいのですか!」
俺のビビった表情を見た男性は、追い打ちをかけるように話し出す。
「女の子の体を触っていたのが見えたのです」
俺も負けてはいられない。今度こそ女子高生を守りたいと決めたのだから。
「満員電車の中、体が触れることもあるでしょう。それをいちいちチカンだと言われても困ります。証拠もないのにチカン扱いするのでしたら、弁護士に電話をしますので裁判で争いましょう」
周りの人々は固唾をのんで俺たちを見ている。チカンをされた女子高生は目をつぶって俯いて何も言えずに硬直していた
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