第15話 母への思い

【体重変動】とは、自分の体重をどのような体質にするか設定できるスキルである。太らない体質にするのか、太りやすい体質にするのか、5段階で調整できる。

 一般の人は生まれ持った体質で生きていく必要があるのだが、俺は自由にいつでも変更できる。もし、体重や筋肉を必要とするスポーツ選手などを目指すならば太りやすい体質のが良い。筋肉をつけるには男性ホルモンが必要で、その材料は体脂肪である。太りやすい人は痩せている人に比べて、たくさん食べて栄養の吸収率も高いので筋肉がつきやすい。

 

 「別にスポーツ選手になりたいわけじゃないから太りやすい体質はやめておこう。無難に太らない体質にしとくか」


 おそらく前回は普通の体質だったはず。不摂生だったので太ってしまったが、平均的な生活をしていれば太らなくて済んだのであろう。今は筋肉質な体はいらないので、一番太らない体質に設定した。これで、いくら暴飲暴食をしても太らない。身の回りにいくら食べても太らない人が1人は居てると思う。そのような人を羨ましく思った事は誰でもあるだろう。


 「【体重変動】は一番太らない体質にしたから自然と体重は減っていくだろう。身長のレベルは2したからいずれ170㎝までは伸びる。しかし、入学式までにはレベル3まで上げて高身長のイケメンになりたいかも・・・」


 日本人の平均の身長は170㎝程度と言われている。だから、レベル2でも問題はない。しかし、外見を重視したレベル上げをするなら平均以上の数値が欲しいのが本音だ。顔面偏差値はレベル3で平均以上のイケメンになった。だからこそ、それに見合う身長が欲しい。しかし、身長のレベルを3にするには1000ポイント必要だ。顔面偏差値をレベル4にするには、以前は1500ポイント必要だったが、身長のレベルを2にしたことで、2000ポイントに跳ね上がってしまった。身長をレベル3にすれば、さらに必要なポイントが増えるのは確実なので迷うところであった。

 

 イケメンになり明らかに周りの対応が変わった。それは如実に好感度ポイントに直結する。好感度ポイントをたくさん稼ぐには、ボランティア活動をひたすらがんばる事でない事に気づいてしまった。人はどのような人物がするかによって受け止め方が違う。ブサイクだった俺とイケメンに生まれ変わった俺とでは、好感を抱いてくれる人の差は歴然である。例えば、財布を落ちていて拾ったとしよう。ブサイクの俺が拾うよりもイケメンの俺が拾って財布を渡した方が好感が良いのである。好感度ポイントを稼ぐには、見た目を良くすればするほど、たくさんのポイントを得る事ができる。それなら、最初は見た目のレベルを上げた方が効率的だと思い知らされた。


 イケメン、高身長の人物がボランティア活動をしていれば、誰もが目をやり好感を持ってくれる・・・とは言えないが、ブサイクがするよりかは雲泥の差である。イケメンに対する嫉妬心という足かせもあるが、それを差し引いても得られるポイントは大きいのである。


「よし、先に身長をレベル3にするぞ」


 別にボランティア活動だけがイケメンに有利なのではない。人生を生きるうえにイケメンとブサイクでは見える景色が違う。前回俺はブサイクの人生景色を見てきた。それは、とても過酷で蔑まれた暗黒の景色であった。見下した目、嫌悪感の目、不快感の目、誰も好意的に俺を見ることなどなかった。俺の存在自体が不快であり敵意の対象であった。そんな過酷な景色を見てきた俺だからこそ、次は違う景色を見たいと望むのは当然の結果である。

 身長のレベルを3にするには残り710ポイント必要である。入学式までは残り一週間、それまでに上げれるレベルは全て上げておきたい。


 「別の駅に行ってみるか!」


 午前中は松井山手駅周辺のゴミ拾いをしたので、午後からは予定は未定であった。この2週間は午前中は施設のボランティアをして、午後からは家の手伝いをするくらいで他に何もしていなかった。最初にゴミ拾いをした時に不審者扱いされたので、外に1人で出るのが怖くなっていたからである。しかし、顔面偏差値をレベル3にして、明らかに周りの態度が変わった事で、俺も少しは自信を持てるようになった。だから、今日は昼から樟葉(くずは)駅でゴミ拾いをすることにした。

 俺の家から樟葉駅までは自転車で30分以上かかるが、松井山手駅よりも人が多く集まる場所である。人が多い場所でゴミ拾いをした方が、多くの好感度ポイントを得れると判断した。


 お腹が減ったので俺は母親が作ってくれた弁当を冷蔵庫から出してレンジで温める。春休みの間はお昼ご飯は母親が弁当を作ってくれていた。


 「小学校までは給食だったけど、中学校から毎日おかんが弁当を作ってくれていたなぁ~」


 俺の家は母子家庭である。俺が小学2年生の時に父親はガンで死んでしまった。それから母親は1人で俺を育ててくれた。それなのに俺は30歳の時にニートとなり家から出なくなった。冷蔵庫から弁当を取り出した時、当時の俺なら弁当があって当然だと思い何も感じなかっただろう。しかし、二度目の人生だからこそわかることがある。家事・子育て・仕事など、全ての事を全力でがんばる母親の強さに、優しさに、愛情に、そして偉大さに・・・。俺は弁当を食べながら、二度目の人生こそは、母親にとびきりの親孝行をすると心に誓うのであった。

 

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