第14話 二度目の挑戦

 俺は松井山手駅に着くとゴミ拾いを始める。吸い殻や空き缶などは落ちてはいないが、どこからか飛んで来た紙屑、落ち葉などがところどころに落ちていたので拾い集める。ロータリーの周辺や自転車置き場など、辺りを隈なく歩いてゴミが落ちていないか確認する。


 「あの、何をされているのでしょうか?」


 オシャレな服を着た背の高い20代の女性が俺に声を掛けてきた。


 「え・・駅の・・周辺の・・・ゴミ拾いを・・していま・・す」


 急に声を掛けられたので、しどろもどろになりながらもきちんと答える事が出来た。


 「そうなんですか!若いのに偉いね」


 女性は煌びやかな笑顔で答える。


 「・・・」


 綺麗な女性に声を掛けられる経験のなかった俺には眩し過ぎる笑顔に俺は言葉を返すことができない。


 「ちょっと気になっていたのですよ。私はこの建物の2階にある美容院で働いている三日月(みかづき)といいます」


 俺の目の前には2階建ての建物があり、1階は旅行会社で2階は美容院になっている。三日月さんは2階の美容院の店員であった。


 「そ・・・そうなんで・・・すか」

 「私は毎日仕事で建物の周りの清掃をしているの。なんだか代わりにしてもらった感じになっちゃいましたね」


 背の高い三日月さんは覗き込むように俺を見た。その時、ほのかに甘い香りがした。


 「お名前を教えてくれないかしら?」


 薄紅色の口元から発せられたこの言葉に俺は心臓がバクバクと動き出す。見知らぬ女性から名前を聞かれるなんて初めての経験である


 「ろ・・・六道・・す・・昴と言います」

 「昴君って呼んでもいいかな」


 緊張してまともに喋ることができない俺に対して、三日月さんは気にせずに微笑みながら言う


 「は・・・はい」


 ぎこちない俺の返事に三日月さんは、緊張をほぐすようにゆっくりと喋り出す。


 「昴君は、どうして駅の周辺のお掃除をしているの?」

 「じ・・・自分を・・・変えるため・・・・です」

 「へぇ~~そうなんだ。自分自身が嫌いだったのかなぁ」

 「は・・・はい」

 「その気持ちなんとなくわかるかも。私もいろいろあって一時期引きこもっていた時期もあったのよ。昴君は若いのに自分を変える為の努力をしているなんてえらいわね」

 「そ・・・んな・・・ことはないです」

 「謙遜しなくてもいいのよ。昴君は人生を変える為の大きな一歩を踏み出しているの。それはとても大変なことだと思うわ」

 「は・・・い」


 三日月さんの言葉は素直に嬉しかった。誰かに認めてもらった事のない人生を歩んできたので、誰かに認めらるのは嬉しいものである。


 「私も一緒に掃除をするわ」

 「は・・・い」


 三日月さんは終始俺の目を見てあかるい笑顔で声を掛けてくれていた。一方、俺は緊張して終始うつむいていた。そんな俺の様子を察知した三日月さんは、話を切り上げることにしたのであろう。

 三日月さんは美容院のある建物の周辺を掃除し、俺は少し離れた場所を掃除した。三日月さんは15分程掃除をすると俺のところに駆け寄って来て、「お掃除がんばってね」と声をかけて美容院に戻って行く。おれは「ありがとうございます」と小声で返事をした。



 

 「あの子可愛くない!」

 「私もそう思ったわ。でも、何をしているのかしら」

 「ゴミを拾っているみたいよ」

 「そうなの!学校の宿題か何かでボランティア活動でもしてるのかな」

 「そうかもね。若いのにえらいわねぇ~」

 「ホント、ホント、尊敬しちゃうわ」


 俺がゴミ拾いをしていた時、以前の時と同様に周りからの視線を感じていた。しかし、その視線は以前の冷たい心無い視線とは違い、好意的な暖かい視線であった。俺はゴミ拾いに集中していたので、それほど気にはならなかったが、松井山手駅に向かう通勤・通学者は俺の事を興味深く見ていたのである。


 「今回は通報もされなかった。やっぱり、顔面偏差値は大事だな」


 俺は通報されずに無事にゴミ拾いを終えてホッとしていた。


 「美人なお姉さんにも声をかけてもらえたし、好感度ポイントもけっこう入ったかな」


 俺は聖人君主のような清い心でゴミ拾いをしているわけではない。どちらかと言うとよこしまな気持ちでゴミ拾いをしている。人の心を読むのは不可能なので、俺がどのような気持ちでゴミ拾いをするかはさほど重要ではない。俺がゴミ拾いをしている姿を、他人がどのように受け止めるかが重要である。前回は、俺の行動は不審な行動だと受け取られて、チカン扱いされてしまった。それは、俺によこしまな気持ちがあったからでない。俺が怪しい行動をしたからでもない。俺の姿が気持ち悪かったので、そのイメージから不審者として結びつけられたのである。 

 でも今回は違う。三日月さんからも声を掛けられたように、俺を不審者ととらえた人はいない。だから、好感度ポイントも入手しているに違いないと俺は判断した。


 「マジかよ!」


 俺は思わず大声を出した。


 「本当なのか?何か間違っていないのか?」


 俺が動揺するのは当然である。なんと好感度ポイントが200ポイントも入っていたからである。好感度ポイントの内訳は簡単である。駅の周辺を通っていた200人が俺のゴミ拾いをする姿を見て好印象を持ってくれたのである。前回とは大違いの結果になった。


 「やっぱり見た目は大事だな。最初に顔面偏差値を上げてよかった」


 俺のレベルの上げ方に間違いはなかったと確信した。しかし、外見には身長や体型も含まれるので、次は、顔面偏差値をレベル4にするか、身長レベルをレベル3にするか迷うところである。体重に関してはレベルは関係なく自分の努力次第でなんとかなると思っていたが、そうではなかった。   

 昨日身長をレベル2に上げた時にステータスの変化に俺は気づいた。それは、あるスキルをゲットしていたのである。そのスキルとは【体重変動】であった。

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