第12話 嫉妬
『ガチャーン』
俺が部屋に入るなり食器が床にぶちまけられる。
「あ!悪いね。手が滑ってしまったわ」
70代のスキンヘッドの男性が全く悪びれる様子もなく薄気味悪い笑みを浮かべながら言った。
「食器を片付けます」
俺は軽く頭を下げてすぐに床に散らばった食器を片付ける。
「床も掃除しとけよ」
「はい」
俺は主人に仕える召使のように返事だけをして業務を淡々と行う。
「お前、最近調子にのってないか!態度が生意気だぞ」
「ごめんなさい」
以前は俺に対してそこまであたりはきつく無かったが、なぜだか最近俺へのあたりがきつくなっていた。しかし、理由を聞けるほど根性もないので、おれは謝る事しか出来ない。
「お前を見ているとムカつく。早く仕事辞めろ。ボケ!カス!」
「ごめんなさい」
男性は隣の部屋に響き渡るほどの大声で怒鳴りあげる。
「何かあったの?」
真っ先に部屋に駆け付けてきたのは職員ではなく上手さんだった。
「上手さん、聞いてくれよ。この馬鹿が食器をぶちまけやがったんだ。ほんま、どんくさくて使えないガキだ」
上手さんを見た男性は、にこやかな表情になりベットから降りて上手さんに近寄る。
「福井さん、そんなに怒ったらダメよ。昴ちゃんはボランティアで手伝ってくれているのよ。それに、まだ子供だからミスが多くても仕方がないわ。昴ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫です」
俺は何も言い訳をせずに床を掃除する。
「上手さんは、コイツを甘やかしすぎだ!こっちはお金を払っているんだ。ボランティアだろうがそんなことは関係ない」
本当に俺が食器をぶちまけたなら福井さんの言う通りかもしれない。福井さんは施設にお金を払って入居している。俺がボランティアであろうがそんなのは関係ない。
「そんな言い方は良くないわ。それに、お金を払っているからと言って、人のミスを責めて大声で恫喝するのはどうかな?って私は思うわ」
「勘違いしないでくれ。俺は恫喝したんじゃない。人生の先輩としてアドバイスをしてあげただけなんだ」
上手さんに注意されて、福井さんの元気はなくなり言い訳をし始める。俺は福井さんの表情の変化を見てあることに気づいた。それは、福井さんが俺に対してキツく当たるようになったのは、上手さんが俺のことを可愛がるようになってからであった。そして、上手さんを見る福井さんの姿を見ていると、福井さんは上手さんに好意を寄せているのが一目瞭然だった。
上手さんは、施設に入居している女性の中で、一番オシャレで綺麗な女性である。福井さん以外にも好意を寄せている人もいるらしい。そんな上手さんに好かれている俺に福井さんは嫉妬しているのである。数日前までは俺もイケメンじゃなく上手さんも関心を寄せてなかったので問題はなかったが、今は状況がかわったのであった。イケメンとは好意の対象だけでなく嫉妬の対象にもなることを俺は初めて知ったのである。
「失礼しました」
俺は二人をよそに片付けを終えるとそそくさと部屋を後にする。
「次は気を付けるんだぞ」
「昴ちゃん、気にしちゃダメよ」
「・・・」
俺は頭を下げるだけで返事はしなかった。いや、出来なかった。
「アイツ、気持ち悪いな」
「そうかしら、可愛いと私は思うわよ」
「子供だから可愛く見えるだけやろ。俺の若い頃の方がもっと可愛いと思うぜ」
「あら、もしかして昴ちゃんに嫉妬しているの?」
2人が楽しそうに会話を続けていたのを、背中で感じながら次の部屋に向かった。
「六道さんの息子さん、最近男前になったと思わない?」
「思う、思う。雰囲気が変わったというよりも、成長したって感じよね」
「中高生ってガラッと変わるからね。あれで、身長も伸びたら俳優さんになれそうね」
「あ!私も思った」
若い二人の女性職員が俺の噂をしていた。
「ガキ相手に何を言ってるんだ!アイツは仕事は遅いし陰キャだし、俳優なんて絶対無理だわ」
「そうそう、アイツが俳優になれるんだったら俺でもなれるわ」
若い男性職員が女性職員の話しが聞こえて割って入ってきた。
「他人の話しに入って来て悪口を言うなんてカッコわる~~~~」
「ほんと、ほんと。高校生相手にマジになってるの?」
「はぁ!お前たちの方こそガキ相手に色目使ってキモイわ」
「いつ私たちが色目を使ったのよ!勝手なこと言わないでよ」
俺が顔面偏差値を3にしてから、職員問わずに女性と男性の仲が微妙に悪くなっていた。男性は俺が女性に褒められるのが悔しいのである。俺が最初からイケメンであれば問題はなかったのかもしれない。しかし、自分よりも下だと見下していたヤツが、急に女性の評価が上がり納得いかないのである。俺は3週間施設でのボランティアを続ける予定だったのだが、2週間で辞めることになった。母親からは、新しい新人職員が入ったので、ボランティアが必要なくなったということだったが、実際は、一部の男性入居者さんと一部の男性職員から俺へのクレームがあり辞めさせざる得ない状況になったのであった。
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