第11話 見た目は大事


 「そう言えば昴ちゃん、日に日に男前になっているんじゃない。私が若かったら彼女に立候補していたわよ」

 「ありがとうございます」



 俺はぎこちない笑顔で答えた。それは、下条さんの言葉に嫌悪感を感じたわけではない。ただ、感情表現とくに笑顔を作るのが苦手なだけであり、下条さんの言葉は嬉しかった。それと、下条さんが言っている内容は本当である。

 俺は一週間で貯めた好感度ポイントを全て顔面偏差値のレベル上げに使った。それは見た目が一番大事だと俺は思っているからである。人が初対面の相手に対して最初に見るのは顔であり、次は体系そして服装などの装飾品だ。人の中身・人間性などは長い付き合いで少しずつ理解していくが、本当の中身・人間性を理解するなんて不可能だと思う。人は相手によって態度を変える。それが常識であり本能でもある。好きな人、嫌いな人、上司、部下、先輩、後輩、同級生、男性、女性、怖い人、怖くない人、優しい人、気の弱い人、わがままな人、多種多様な相手によって態度や振る舞いを変えるのは、人間の防衛本能だと言える。

 たとえば俺に優しく接してくれる下条さん。下条さんも俺を見た目で判断して優しくしてくれている。俺はチビで不細工だが、15歳に若返り少年といわれる若さの特権を手に入れた。下条さんは親族がほとんど面会にも来てくれないし、足が不自由で部屋で1人で暮らしている。なので、職員の人が声を掛けてくれるのが一番の楽しみであった。そんな時、施設内では珍しい15歳の少年が下条さんの食器の片付けに訪れたのである。下条さんは、孫もしくはひ孫とも思えるくらいの俺の姿(見た目)を見て、とても可愛く感じたのである。孫は子供よりも可愛く感じると言われている。悪い言い方かもしれないが、優しい下条さんでも見た目で人に好感を持つということである。だから俺は真っ先にレベルを上げなければいけないと思ったのが顔面偏差値だった。


 俺は一週間で好感度ポイントを合計で220ポイント手に入れた。俺は随時ポイントが貯まればレベルを上げていたので、1週間前まではレベル1だった俺の顔面偏差値は今はレベル3まで上がっている。


※顔面偏差値 レベル1 大きな顔 細くて小さな目 ゲジゲジ眉毛 小さい鼻 ニキビが多い荒れた肌 出っ歯

レベル2 整った眉 艶々の肌

レベル3 二重の大きな目 歯並びが良い

レベル4 小顔 綺麗な白い歯 鼻が高く鼻筋が通っている。長いまつ毛

レベル5 人を引き付ける魅惑のフェロモン

 

 上の顔面偏差値の内容はアバウトな説明であり、実際はレベルが上がるごとに顔が全体的に少しずつ変形していく。世間的な評価としてはレベル1は不細工、キモイと言われる部類である。レベル2は普通、特徴のない顔、嫌悪感を感じない顔の部類。レベル3はクラスで1や2人いる顔立ちが良い人。イケメンと言われる部類である。レベル4は学校で一番の超イケメンで、将来俳優になどになれる顔立ち。レベル5は俳優、モデルでもトップクラスの顔であり、また顔だけでなく醸し出すオーラが違う特別なイケメン。

 俺はレベル3なので以前とは全く別人のような容姿をしているのだが、周りの人の記憶は雰囲気が変わった程度の印象しかなく、前の俺の顔の記憶が曖昧になっているようである。だから、親や施設の職員さん、入居者さんも俺の雰囲気が変わったと感じているが、あえて言葉にすることはない。しかし、露骨に態度が変わる人もいる。


 「僕は次の部屋に行ってきます」

 「そうなのかい、さみしいわね。仕事がんばってね」


 下条さんは笑顔で言うが、目はとても寂しそうである。下条さんは俺がイケメンになったからといっても露骨に態度は変わらない。下条さんにとって俺は孫のような存在であるので、顔のよしあしでなく孫のような雰囲気の見た目に好感を持っているからである。



 「昴ちゃん、待っていたわよ。ホントに日に日にカッコよくなってるわね。そのうち身長も伸びてモデルさんのようになるわ」


 次の部屋に入ると少女のような可愛い声で俺を出迎えてくれたのは上手(かみて)さんである。上手さんは60代後半で髪は茶色く染めて綺麗にセットしている。化粧もバッチリ決めている派手な女性である。上手さんは、俺の顔面偏差値が3になった途端に急に態度が変わった。上手さんは歩けないわけではないが、食堂で食事をするのが面倒なので部屋で食事をしている。最初の頃は不細工な俺を見て愛想が悪かったが今は真逆である。俺が来るのをとても楽しみにしてくれている。


 「そんなことはありません」


 俺はゴニョニョと呟く。俺は積極的に声をかけられたことがないのでガツガツと声を掛けられるのは苦手だ。


 「昴ちゃん、照れてるのね!可愛いわ」


 俺のモジモジした態度を可愛いと言ってくれるのは、俺がイケメンになったからである。もし、不細工だったら、気持ち悪いと言われているだろう。実際に前まではそう思っていたに違いない。


 「食器を片付けます」

 「いつもありがとう昴ちゃん。仕事が終わったら部屋に遊びに来てよ。退屈で仕方ないのよ」


 上手さんは積極的に俺を誘って来る。最近上手さんの服装が明らかに派手になっていた。上手さんは気が若いので、明るめの色の部屋着を着ていたが、最近は派手な服装になっている。おそらく俺の事を意識しているのであろう。年齢を重ねても異性を意識して綺麗に努力することは良いことだと思う。下条さんは俺を孫として好意を抱いているが、上手さんは俺を男として好意を抱いている。どちらもありがたいことだと思うが、うまく対応するほどコミニケーション能力がないので、俺はたじたじなってしまう。


 「すみません」


 と言って俺は駆け足で部屋を出る。


 「昴ちゃん、可愛いわね」


 上手さんも本当に俺を口説いてどうにかするつもりなどない。俺とのやり取りを楽しんでいるだけであるが好意を寄せているのは本当である。

 イケメンは存在自体が好感度を上げる要因になるので、顔面偏差値をレベル3にしてからはボーナスステージのように好感度ポイントが獲得できるようになった。しかし、良い事ばかりではない事に次の部屋で気づかされるのであった。



 

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