第2話


 

「76から80番!」

「あ、呼ばれたわよトーヤ」

 ええい袖を摘まんで引っ張るな!ときめくだろうが!

 スカーレットに連れられて行くと、俺達のように集まった三人の男女が居た。

 男二人に女子が一人。

 やたら背筋が伸びて笑顔満面な男と、正反対に猫背に黒フードを被った少し気だるげなマスク男子。そして竹刀袋を背負ったポニテ女子。武器持ち込み組か?。そのバストは豊満であった。

 俺達含めこの五人が、初めての迷宮探索で仲間になるのだろうか。


「みなさんが76番から80番までの方々ですか?」

 互いを見合う俺達の外から声が掛けられた。

 女子だ。女子用のブレザーを着ているが、この着慣れた感じは上級生だろうか。さっきから疑問が止まないな。

 ウェーブがかった黒髪は腰まで伸び、柔らかな微笑みと柔らかそうな胸を持つ先輩らしき女子生徒。是非仲良くなりたい。

「はい!!ID 03501080番、菊池正義です!」

 突然笑顔満面男が手を挙げて名乗りだした。

「ふふふ、元気いっぱいね。私は一条薫子。三年で監督員を務めるわ」


「申し訳ないけどみんなの自己紹介は後にしましょう。迷宮の入り口は混み易いの。みんなのIDカード、仮免許証だけ確認させて貰えるかしら?」

 俺達は言われるまま仮免許証を見せる。

「うんうん、OKだね。それじゃあ迷宮に向かうわ。……っと、その前にみんなあれを見て」

 薫子先輩が指を指す。校庭を挟んで校舎の反対側、物々しいフェンスや鉄の壁で作られた、まるで砦のような建造物。

 この校庭に並ばされてから、恐らく全新入生が気にしていた建物だ。

 先に呼ばれた番号の生徒らが、分厚い鉄の扉を進んでいた。

「皆の予想通り、あれが迷宮への入り口、通称『ゲート』。基本的に迷宮は門からしか入れないようになってるわ。迷宮に入る際は免許証、IDカードの提示が必須だから気を付けてね?忘れたり無くしたりすると入れなくなっちゃうわ」

 クスクスと笑う薫子先輩。ああ、癒される。こんな先輩と青春を送りたい人生だった。

 そうして薫子先輩に連れられて分厚い鉄の門を超えた先には迷宮、ではなく市役所みたいな空間が広がっていた。

 役所特有の三人掛けくらいの皮の椅子が点在し、受付とその向こうで書類仕事をこなす数人の職員。

 役所みたいじゃなくて完全に役所だった。

 まあ唯一違うと言えば、受付の隣に迷宮入り口ってプレート掲げたデカい孔が開いてるとこだな。デカい孔だけが役所みたいな空間の中で異質すぎて浮いている。

「八木城さん、この子達のです」

「ああ、一条さん。お疲れ様」

 受付で俺達の仮免許を渡すと、ピピ、と電子音が連続する。

「受付完了。気を付けていってらっしゃい」

「はい。……それじゃあ、早速迷宮に行きましょうか」

 返却された免許証が薫子先輩を通して再び俺達の元に戻ってくる。

 ついに、ついに迷宮デビューか。話に聞いていただけで実物は初めてだ。

 

 デカい孔を抜けた俺達の前に待っていたのは、青空だった。


「……ふぁっ!?」

 誇張じゃない。なんせ、前後左右どこを見渡しても空だったんだ。

 いや、真後ろだけは孔が広がってるがその孔もなんと言うか、何もないはずの空間に孔が開いていると表現したら良いのか……。

 足元こそ石畳だが、その範囲もあまり広くない。1LDKくらいだろうか。なんなんだ、此処は。

「なんと…!」

「空?」

「……マジか」

 三人も俺と同じように驚いてる。やっぱビビるよな。

 迷宮って存在は謎が多いと聞くが、ここまでのもんなのか。

 スカーレットと薫子先輩だけは動じていないみたいだけど。

「ここは『塔』と呼ばれる迷宮ダンジョンタイプ。下に伸びる塔タイプは、世界中の迷宮で一番多いの」

「塔?……」

 気になって石畳の縁に立つと、石畳と同じ材質の塔が下に向かって延々と続いた。

 高すぎてか、存在しないからのか、地表は全く見えなかった。海のど真ん中にでも建ってるんだろうか。


「それじゃあ迷宮に来たことですし、自己紹介しましょう!お名前をお願いします」

 手を合わせて嬉しそうに提案する薫子先輩。

「では俺から行きます!菊池正義!『硬質強化』!自分の肉体を鉄より硬くできます」

「スカーレット=マルティネス。『火炎操作パイロキネシス』。強度はA+、……って言っても日本じゃ強度計測はしてないんだっけ?」


「風祭咲夜だ」

 自信有り気に能力まで答えた二人に対してポニテ女子、風祭は興味無さげに名前だけだ。

 今後このメンバーでやってくわけでもなく、ソロでやる人もいる。自分の商売道具は隠したいって人も一定以上居る。

「霧山……清十郎」


一通り自己紹介が終わり、全員の視線が俺に向けられる。ああやっぱ俺もよね。


「……轟藤太」

「と、轟だと!?」

「孫と言うのは、君か」

「……マジかよ」

 事もなし気に言ったがやっぱ引っかかるか。

「あー、爺ちゃんはあの通りバケモノだが俺は普通の人間なんでそこんとこよろしく」

そう言うと驚いた三名は小さく頷いてくれた。


「さて、自己紹介も済んだことだし早速迷宮に潜りましょうか」


「今から君たちが潜るのは迷宮の地下一階のみ。目的は魔物との実際の接触。教科書や動画などの情報に無い、生の魔物を味わって貰います」


「それではようこそ、ハンターの世界へ」

石畳の中心、口のように開いている入り口には階段が続いていた。



「ここが、迷宮……やっば」 

 霧山が辺りを見回しつつ呟く。それも仕方ない事だろう。迷宮入り口の1LDKくらいしかなかった広さに比べ、数倍どころじゃない広さをしていた。迷宮内部は、巨大な地下遺跡のようで床も天井も壁も石畳み。まるでゲームだ


「ドラファン3の無限ダンジョンみたいだ……」

「え……と、轟、くんも……ドラファン、やるの?」

「お?……シリーズ全11作、外伝のクリーチャーズを少々」

「マジ!?あ、本当?お、俺もシリーズ全作やってるんだよね……!」

 おお!こんな所で同好の士に出会えるとは!是非語り合いたい!

「ゲームか!俺は今までそう言うのはやって来なかった!そんなに似ているのか?」

「ほぼそのまんまだな。ゲームだと…」

「ゲームの話は後で良い?あたし達、今迷宮にいるんだけど?」

「む……確かにな、悪い」

「お、俺もごめん」

「ふふ。それじゃあ、今から監査を始めます。私は緊急時以外手を出しません。チームで話し合い、迷宮を進んでください」


「よーい、スタート!」

パチン、と小さく鳴らされた手の音と共に、俺達は駆け出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スキルサバイバー タピオカ @iidak0093

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ