【開かずのプレゼント】1
プレゼントとは贈り物のことである。
時に感謝の印として、時にお祝いの品として、……もしかすると気まぐれで渡す人もいるかもしれない。
ただ、そのどれもに共通していることがひとつある。
それは、伝えたいことがあるということだ。
想いとは体として形を持たず、それを言葉で表すには物足りないということがこの世界にはありふれている。それを補完することがプレゼントの役目のひとつのように私は思う。
では、そんな重要な意味を持つプレゼントの中身がわからなかったらどうだろう?
『いや、そんなこと起こるはずはない』と思った人もいるかもしれない。包装なら破けばいいし、箱なら開ければいいのだ。
しかし、本人たちの知らないところで、また知るよしもない要因が働き、想いが伝わらない……。なんてこともあるかもしれない。そう、あのプレゼントのように。
叶うことならばすべてのプレゼントに込められた想いが相手に届くことを願おう。
――――――――――――――――――
「ちょー、店員さん、この箱開けてほしいんだけど頼んでいー?」
その日、店の雰囲気を乱すような一人の若い女性が来店された。
絶対に普段ならば来ることのないだろう人種がなぜここに?私の思考は一瞬止まり、頭は真っ白になった。
髪は染められ鮮やかなブロンドに変わっている、服ははだけた様子を感じさせるくらいには大胆に開かれておりパンツに至っては太もも程までしか裾が伸びていないジーンズだ。
私は目を伏せたくなるのを堪え店員として対応する。
「はい、なんでしょうか。」
そのときの私はどれだけ酷い顔をしていただろうか、少なくとも顔の筋肉のこわばりは感じていた。
「これこれ、マジあかなくて―。」
彼女が手に持っているのは、ただの木箱のようだった。
真四角ではなくどこか角ばった突起のようなものが飛び出ている。イメージとしてはルービックキューブのようで亀裂がたくさん入っている。
手渡されたそれはそれほど重くはなく、見た目通りだった。
「パズルですか?」
「そう!」
うちは、代行屋でもパズル職人でもないんだけれど。
彼女は、心底嬉しそうにこのパズルのことを話した。
「これ、あっしの彼氏が誕生日にくれたんだけど、まじむずくてさ―。中の誕プレとれないの。マジウケない?」
いや、ウケないが?
「はあ……。」と私は曖昧に返事をし「これを開ければいいんですか?」
「そうそう!お願いできる?ネットで、ここのこと知ってさあ。なんかこういう訳ありの物?を解決してくれる?みたいな。」
「まあ、そうですね……。」
私は少しだけ、箱の突起を押してみると、押し込まれるようにして中に潜り込んだ。すると別の個所から
また突起が出現した。なるほど。
「これは……この突起が全部押し込まれて四角形になったときに開くんですかね?」
「そうそう!お姉さん頭いいね!」
「ありがとうございます?」
「じゃ、一週間後またくるからよろしくねー。」彼女はそういうと私が口を開くよりも先に帰っていった。
茫然とその姿を見送りながら私はパズルに視線を戻した。
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