第46話
シンヤは徐々におさまった竜巻の中心にいた。
環境スクリプトを起動するためのエネルギーである、マナがすべて尽きるまで、竜巻を生み出していた。
それは、シンヤが長年研究してきた、シンヤ自身がもっとも得意とする
その
シンヤの体には、竜巻を生みだす前にエンジェルから受けた攻撃や、あるいは竜巻に紛れた岩の破片によって、無数の傷があった。
そんなぼろぼろのシンヤに、一体の剣を持ったエンジェルが近づいてきていた。
「マジかよー。勘弁してくれよ!」
そう言って、シンヤは地面に目を走らせ、手から離れた自身の剣を探しはじめた。
傷ついたエンジェルは足を引きずりながら、じりじりと近づいてくる。
そこで、エンジェルは剣を振り上げ、一気に間合いを詰めてきた。
シンヤは右前方に自身の剣を見つけると、エンジェルの攻撃をかわしながら、頭からすべりこむように剣へと体をおどらせる。――そして、剣を掴むと、よろめきながら立ち上がり、エンジェルから距離をとる。
エンジェルは弱っているらしく、剣が不得意なシンヤながら、何度かエンジェルの攻撃を弾くことができた。しかし、防戦一方で、なかなか反撃がままならない。
下がりながら、なんとかエンジェルの攻撃をさばくというのを続けているうちに、ついにその哀れな剣舞の終わりがきた。
ひときわ大振りな攻撃がきたかと思うと、シンヤの剣が弾かれて宙に舞った。そして、エンジェルは身を反転させ、剣を横薙ぎにしてきた。
「やべえー!」
そうシンヤは叫び、後ろに体勢を崩した。エンジェルの持つ白い剣は、ランタンの光をあびて、オレンジ色に光っていた。
シンヤは心の中で、レイカとヒロキに詫びた。
『わりィ。ヒロキ。おれは、レイカさんを守れなかった! 許してくれ……!』
そんなことを悲しく思いながら、シンヤは目を閉じた。
――――そのときのことだ。
シンヤの耳元で、空気を切り裂く音がした。続いて激しい金属音。
目を開けると、金色のエネルギーの刃が、エンジェルの剣を跳ね上げたところだった。
そこには、大柄の浅黒い肌の女戦士――ユキナのアバターがいた。
ユキナは薙刀を振り、体勢を崩したエンジェルの下段を刈った。エンジェルはかろうじてそれを剣で受けた。ついでユキナは薙刀を翻し、流れるようにエンジェルの頭を狙った。
薙刀の刃は低い音をたててエンジェルの黒いフードを破り、白い金属質の頭を引き裂いた。
エンジェルはうなり声を上げ、火花をはなつ自身の頭を抑えながら、背後に倒れこんだ。
そこでユキナは振り向いてきた。
「ごくろうやったな! シンヤ。見たで、あの竜巻!」
シンヤはほっとため息をついて、近くに落ちていた剣を拾い上げた。剣は苦手だが、やはりあるとないとではまったく違う。シンヤは言った。
「わりィ、助かったぜー。せっかく大群を蹴散らしたと思ったら、この一匹に追いこまれるとはよー!」
そう名指されたエンジェルは、体の色がくすんだ灰色になってきていた。致命傷を負い、消滅しようとしていた。
ユキナはそれを見て、
「せやな。まあ、あたしもここから追いつくで。シンヤは見とったらええ。あたしだって、稼がなあかんから!」
そのとき、竜巻を受けて倒れていた一体のエンジェルが、ふらふらと立ち上がった。
ユキナは薙刀を脇に構えて、そのエンジェルに向かいあった。薙刀を脇に構え、じりじりと近づいてゆく。続いてユキナは、振り絞った弓をはなつように、怒声とともに薙刀を振り上げた。刃はユキナの髪の色と似た金色に輝き、光の線を引いてエンジェルの頭を襲った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます