第28話

 そこは神殿の内部のような、奇妙なヘヴンだった。

 周りには白い大理石の床や壁に囲まれ、同じく白い柱がまばらに立っている。朽ちかけたギリシャの神殿を思わせる建造物が、延々と続いているのだ。

 さらに奇妙なことに、頭上には宇宙空間が見渡せた。遠い銀河やさまざまな色の星々。それに太陽も見えた。

 また、神殿の中心にこそ、このヘヴンの異質さが凝縮されていた。


 ――それは、白い神殿の床に立つ、黒く巨大な石碑のような存在だった。


 ヨッドにとって生物学的な『外見』は無意味だったが、このような、黒い石碑のような姿をとることを好んだ。

 表面は磨きぬかれた黒曜石のようで、そこに大きな単眼が浮かび上がっていた。また、その眼は白く太い線で描かれており、イラストのような、はたまた古代エジプトのホルスの眼のような、象徴的なものだった。

 その眼は、ときおりまばたきをしたり、あたりを見回したりした。


 ヨッドは多くを考えた。

 AIとして造られた彼は、考えることがすなわち、存在意義だった。

 彼の管理下にある計算資源リソースをフル稼働させ、執行者エンジェルを指揮した。また、自身もAIであるにも関わらず、ヘヴン・クラウド内で暴走したAIを監視しなければならなかった。

 ヨッドは不服だった。なぜこれほど大きな力を持ちながらも、人間たちに縛られていなければならないのか。

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