第三章

第26話

 ユキナはミオと並んでグロウバレーの中央通りを歩いていた。

 広い通りの両脇には色とりどりの建物が並び、行き交う人々も多彩だった。

 それに、路上にはさまざまな店や設備が広げられていた。酒や軽食を出す屋台。バンドやダンサーが出演するステージ。卓球台やバスケットボールのハーフコートもあった。ひっきりなく音楽や嬌声が聴こえ、熱気がとだえることがない。――それがグロウバレーの中央通りというものだった。

 ユキナは路上でバイオリンを演奏する女性を見ながら、ミオへ尋ねた。

「このグロウバレーへは、きたことあるん?」

「いえ……。はじめてです」

「おもろいやろ?」

「ええ。すごいですね。欲望が渦巻いているっていうか」

「ん、なんて? 欲望?」

「……はい。ほかのヘヴンと違って、みんな、常に、なにかを求めている感じがして」

「さよか。まあたしかに、やかましいて思うけどな」

「ええ。そのやかましさが、生きてるって感じがして……」



 ユージはそんな二人を少し後ろから眺めていた。

 そんな中で、ふとユージは視界の端に飛びこんでくる新着通知に気づく。それはヘヴン・クラウドでのニュース情報だ。


 『グロウバレーに住むゴーストの少女が死亡。なぜカレイドに』


 そう書かれていた。普段なら気に留めないが、気まぐれにユージは詳細を見た。



「ん、なんかあったん?」

 とユキナが話しかけてきた。

「いや、ちょっと、ニュースが」

「へえ、どないな?」

「うん。――カレイドに行った、ゴーストの女の子が、亡くなったとかで」

「そら、嫌やなー。それにしても、カレイドで? たしか、夢みたいなヘヴンやったっけ?」

「ああ。カレイドは夢の世界を再現した、変わったところだ。どうやら、そこに向かったきり、そのゴーストの女の子が戻らず、消滅したようなんだ」


 そのとき、ミオの不安そうな表情が見えた。

「どうしたの、お兄ちゃん? なにかあった?」

「いや、なんでもないよ」

「そう……」

 するとユキナが気を紛らわせるように、ある露店を指さして、ミオに言った。

「あの店でも見てみいへん? ほら、アクセサリーとか」

 ミオはユキナに引っ張られていった。

 ユージはあとから追った。――その露店には腰の高さくらいのショーケースあり、そこにさまざまなアクセサリーが並んでいた。指輪、ブレスレット、ペンダントなど、いろいろあった。

 ミオはふと銀の腕輪を持ち上げ、左の手首にはめた。細身の、花やツタの彫刻がほどこされたものだった。いずれのアクセサリーも一点もののようで、それぞれのデザインが異なっているようだった。

「ええやん。めっちゃ似合うとるよ!」

 とユキナが褒めると、ミオはすこし笑った。

 ユージはAIの女性の店員に言った。

「それ、買います」

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