第23話
部屋の中は天井の照明によって明るく照らされている。
その現実世界の一室は、全体的に整然とし、女性的な雰囲気があった。
また、部屋の壁際にはヘヴン・クラウドにダイブするためのカプセルが設置されており、表面のデジタル表示は緑色の『In use』になっていた。――まさにいま、部屋の住人が利用している最中だった。
部屋のインテリアはアースカラーで統一され、キャビネットやテーブルは茶色で、レトロな壁の時計も木製だった。
片隅の机には、デジタルの写真立てが置かれていた。何枚かの写真が入れ替わりで表示されていたのだが、その中でもある中年の男性の写真が目立っていた。――道着をきた白髪まじりの男性が腕を組んで笑っているという、そんな写真だ。
部屋の入口付近には黒い外観の家事用ロボットがいる。彼は所有者からサスケと呼ばれていた。子供の背丈くらいで、いかにもロボット然とした姿をしている。セラミック質の体に、小ぶりな頭。顔には黒いディスプレイがあり、ディスプレイに表示された目は、部屋を見回したりカプセルを見つめたりしている。
しばらくすると、ダイブ用のカプセルから電子音が鳴り、表面にオレンジ色の『Wake up』の文字が点滅しはじめた。
カプセルからは空気が漏れるような音がした。次に半分から上の蓋の部分が、サナギが割れるかのように左右に割れ、蓋はカプセルの下部に収納されていった。
その中には、二十代前半と見られる女性が裸で横たわっていた。どちらかと言えば小柄で、ショートヘアの黒髪に、やや童顔の面持ち。両目はまだ眠そうだ。
彼女はあくびとうめき声の中間のような声を出し、身をよじり、肘を立てて体を起こした。
「おかえりなさい、ユキナ」
とサスケは言った。
「やられてもうた……」
と彼女――ユキナは残念そうに答え、カプセルから出てくると、横にたたまれている白いバスローブをまとった。
「配信を観ましたが、大変でしたね」
「ほんまや。エンジェル、えぐいわあれ! それに……。あー、ルクス。強制離脱のペナルティで、がっつり没収されたわ。五万ルクス! 五万ルクスも没収された! 上級市民まであと二十二万て……。やってられへん」
そうしてユキナは自分の膝を打つ。
「レイカさんの配信が、まだ続いていますよ」
「せやな! 観とこ! サスケ、映してくれへん? レイカのチャンネル」
「かしこまりました」
すると、部屋の壁の一面が真っ黒になり、そこに森の中の様子が映し出された。それはレイカのオートカメラが撮影している映像だ。
ほとんど真っ暗なのだが、ただ一点、闇にあらがうような青い光が見えた。それはユージの電磁ナイフがはなつ光だった。
エンジェルの大きなシルエットも見える。エンジェルに対して、ユージとレイカが続けて飛びかかっていく。
「ユージや! それにレイカも!」
しかし、エンジェルはレイカを弾き飛ばすと、後ろに退がり、闇の中に消えていった。
「あかん! やっぱり、強いなァ。エンジェル……」
「エンジェルは、いずれも非常に高い戦闘力を持っています。人間のアバターが、対等に戦おうとすること自体が非合理的です」
「まあそら、そうやけど。ルクスが儲かるんや」
「でも、やられて、ペナルティを受けたら台なしですよ」
「あー、やなとこ突いてきよるな。はよ戻って参戦したいわ」
「ペナルティにより、すぐに戻ることはできません」
「んー、わかっとる。わかっとるけど、気持ちの問題!」
「そうですか……。たしかに、極めて絶望的な状態です。私の予測では、九十二パーセントの確率で、ユージさんとレイカさんが敗北します」
「けど、まだ終わっとらんよ」
「時間の問題ではないでしょうか?」
「かもしれへんけどな。でも、最後まで、あきらめんと、戦うもんや。目を開いて、立っとるかぎり、人間は負けへんのや。――見てみい、ユージのやつ、しっかり目を開けとるよ。それに、ユージは、負けられへん。ミオを。家族を守るために」
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