第11話

 急に話しかけてきたユキナにユージは言った。

「賞金稼ぎ?」

「せや、この白暁の森いうたら、賞金稼ぎ――ルクスハンターどもの狩り場や。まさか、それも知らんと、ここにきたん?」

 ルクスハンターといえば、特定のヘヴンで戦闘や冒険をし、その映像を配信するなどして得点ルクスを得る者たちのことだ。

 また、この白暁の森というヘヴンはルクスハンターたちに向けた場所で、魔物の巣食う洞窟や、AIの兵士が守る要塞などがひしめいていたはずだ。ユージは答えた。

「急いでいて、深く考えなかったけど。ここのことは聞いたことはあるよ」

「そら、けっこうや。あたしも、配信で稼いどる。ルクスハンターの、よくあるパターンや。フォロワーはまだ少ないけど」

 そのとき、ユキナはなにかに気づいたように目を広げ、ユージの姿をまじまじと見てきた。

「ん、じぶんのステータスの名前、ユージ、て出てるけど」

「ああ。そうだけど」

「その、腰のホルダーのやつ、武器やろ? ナイフかなんかの」

「まあ、そうだよ」

「もしかして、武器戦闘ウェポンズリーグの? 優勝の?」

「……ああ」

「ほんまかいな! うわ、ちょ、あかんて!」

 そう言って、ユキナは近づいてきた。

「あたしと、戦ってもろうてええ?」

「それって、どっちの意味?」

「え? ああ、せやな。一緒にこの森を攻略できたら、一気に稼げる思うて。あー、戦うて、そっちの意味もあんなぁ。あたしと対戦して、それを配信いうのも、おもしろそうや。なんせ、観る側はみんな、刺激と血に飢えとる」

「いや、ごめん。どっちにしても、そんな余裕はないよ。おれは、妹を守らなきゃならない」

「へえ、そちら、妹はん?」

 するとユキナはミオの方に目を向けた。ステータス表示を見たらしく、

「よろしゅう。ミオ、ええ名前やん」

 と、ユキナは白い歯を出して、にっと笑った。ミオはおずおずと頭を下げて、よろしくお願いします、と言った。

「ほなら、ついてきぃ。……事情はわからんけど、これも縁や。よかったら、あたしの基地まで案内すんで」



 ユージはユキナにしたがい、森の中を歩いていった。やわらかい土を踏み、枝をくぐり、小川をわたり、深い緑の中を進む。

 そうしながらも、いつまた天使エンジェルが襲ってくるかと警戒していた。

「追われとるん?」

 と、ユキナは前を行きながら言った。ユージは答えた。

「まあね。いや、わからない。実際、追われているのかも、よくわからない」

「そら、どういうことや」

「ミオが突然、エンジェルに狙われはじめた。さっき、ほかのヘヴンでエンジェルを倒してきたんだ。そのあと、別のエンジェルがきて、逃げてきた。なにがなんだか、おれにもわからない」

 そこでユキナは木の幹に手をかけ、足を止めて振り返った。

「なんやて? エンジェル? いうたらあの、黒くてでかい、AIたちを取り締まる……」

「そうだ」

「エンジェルとやりおうて、倒してきたいうん?」

「ああ。でも、二匹目はさすがに」

「そらおもろいなぁ! じぶんらとつるむと、エンジェルとやれるいうことや。いっぺんやってみたかったんや。それに、やつら、かなりの得点になるはずや」

「得点?」

「せやで。この白暁の森なら、エンジェルに得点ルクスがつく。それも高倍率の。一体につき、一万ルクスはかたいやろな」

「いや、そうかもしれないけど。エンジェルなんて倒したら、ペナルティとかあるんじゃないのか? よくわからないけど、半分、警察みたいなものだろ?」

「しらんけど、得点ルクスがつく方が悪いんやないかなぁ。あたしも、はよう稼がなあかんから。はあ、あと十八万ルクス。難儀やなァ」

 そう言って、ユキナはふたたび歩き出した。

 ユージはふと、港町で激闘を繰り広げたエンジェルのことを思い出した。黒づくめの長躯。波打った白い長剣。繰り返される斬撃と殴打。自分でもなぜ勝てたのかわからないくらいだ。いま思い出しても背筋が寒くなり、腕が震える。

 ――次は勝てるかわからない。

 その言葉は飲みこんだ。

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