CH3 実験レポート

あの日、全てが変わった。


 下っ端の研究者は思う。



第2次ウォルテア戦争


 それは魔法、魔術を使う陣営と科学陣営の二大陣営が対立したことで起きたものであった。


 その起因は魔法、魔術側が科学陣営の重要拠点を爆破したらしいが…こんな自分でもここまで単純な問題では無いと思う。


 だがもう過ぎたことだ。



 それに対して科学陣営は魔法、魔術陣営へ宣戦布告した。


 尊厳を守るためにも科学陣営は黙ったままではいられない。…ここで終わればよかったんだ。


 第1次ウォルテア戦争から両陣営が冷戦状態に陥り、ともに戦力増強を図った。図ってしまった。


 終盤にもなると、科学陣営の核爆撃で優勢だが…知っていた通り放射汚染が大問題で…その原因は魔法、魔術陣営が反射障壁リフレクションバリアで核ミサイルを対処されてしまった。


 ただ反射するだけの障壁ならまだいい。


 問題となるのはダメージが通ってしまった。そしてこれが唯一こちらが魔法、魔術陣営に大ダメージを与える方法である。


 この時は放射性物質で汚染されたのは戦場だけだった。


 しかし戦争末期となると、魔法、魔術陣営が何のカラクリか放射性物質を掻き集められ、まるで地産地消だと言わんばかりに、こちらの首都や主な都市で放出された。


 中枢が壊滅し、最終的にこちらが敗北したという結果となった。具体的にいうと降参をいう人も全員死んだから、ここまで来るともう戦争をする意味も、戦争したいという人もなくなった。


 一方で魔法、魔術陣営に対しては身体強化や治癒魔術で放射線が特に大きな後遺症となってない。


 その後、こちらは反撃…なんて考えるわけではない。細々と生き残った一部の軍人と、地下シェルターにいる国の頭脳である研究者は、一刻も早く生存すら危うい状態から脱出する方法を探っていた。


 幸い私たち研究者は生き残った。


 …


 限られた資源から開発を進めているのは生物兵器であった。


 地上へ出られない今は主に金属資源が欠如している。全て生存維持のための装置として消費してしまったからだ。


 何より遺伝子を改造し、進化する能力を閉ざす代わりに放射線耐性を普通の生物の何万倍も達することができ、普通の装置でさえ影響を出しかねない環境下でも活動することができる技術があった。


 何度も私たちは魔法と魔術を研究した。何度も挫折し、最終的に魔法、魔術を使う素質が血筋に依存するということが判明した。


 ならばその遺伝子を調査しようとしたが、魔法、魔術を司る遺伝子そのものが今の技術で観測不可能という絶望な事実が浮かび上がった。




 そこで別の方向から出発したのは都市頭脳シティブレインプロジェクト。都市の建築開発、資材管理、エネルギーの分配を統一することで効率アップを測る。


 …開発の規模からしてこれだけでは無いと思うが、私の権限ではここまでしか情報が開示されなかった。





 45回にもわたる実験の失敗


 この数字を多くと見るべきである。


 今用意できる最高のスパコンで実験結果を予測し、実験を改善して、成功率90%以上にもかかわらず、このような結果だった。


 この実験を凍結する時である50回の時に近づき、46回目に奇跡が起きた。



 実験成功



 しかし、個体の突然変異なのか、異常な神経活動のデータが検出された。…この異常な神経活動によって実験が成功になったのかもしれない。


 このイレギュラーを解剖して、原因を探る意見も少数…いや、1人だけであったが、初めての成功への道筋が示されたのはこの例だけ。これを無駄にするわけにはいかない。と、これが多数決で出した意見だ。



 全く…解剖を言い出したチェスターの変態はバカか?…何かしらのものを捨てたのが天才かもしれない。


 上はこの実験に全ての資源リソースを注ぐ勢いで開発援助している。…いつもあれこれ足りないって嘆いた奴らが。


 設備などは困らない。…が、人手が足りない。ここまで専門的なものだとその人材も少ない。何よりその戦争で多くの人材や人民を失ってしまった。


 …まったく、医療技術と教育技術が発達してなかったら寿命の関係で終わってた。




 この世界に存在している科学陣営はこの地底都市だけであろう。つい最近…っていうか、もう一年前なのだが、連絡していた別の都市と連絡を途絶えてしまった。


 おそらく滅んでしまったのだろう。原因は一つじゃない。放射物質の漏洩、エネルギーの枯渇、など沢山ある。




 この実験でついに希望の光が見えてくる時がくるかもしれない…


 実験体の神経活動が今まで観測したこともないレベルの高さにも達したらしい。吉か凶、どっちが出るか。


 だがコントロール不可になった場合、下手すると暴走状態になれば果たして誰が止めることができるのか?もっと上がそこら辺を考えてほしい。まぁそれどころじゃないというのが実の話だが。


 そう思うと思わず顔を顰めた。だが私はしがない下っ端の研究者であr「おいテメェ、手伝え!またくだらないもの考えてんじゃねーよ」


 「わかった。」


 「本当にわかってんのか?」


 「分かってるって、チェスターに怒られてはもうごめんだ。」


 「バッせめて様つけろ…!聞かれたらどうするんだ…!」


 「別に人材がないことも上もわかってるから、今の居場所がなくなることはないよ」


 「そういうことじゃねぇ…」


 (いいか、声を大には言えないことなんだけどよぉ…あのチェスターだぜ?暗に証拠隠滅して、そのままモルモット行きなんてこともあるかも知れねぇ…)


 「はい、はい」


 「全く…俺はもう知らないからな?はぁ…じゃあさっさとこれらのデータを整理しろよ?俺はこっちのタスクを進める。」


 「了解」




 

 




都市頭脳シティブレインプロジェクト


………


第44回の実験レポート

情報処理負荷テスト○

機械同調テスト×

備考:データ輸送端子に対して拒否反応が示された。


第45回の実験レポート

情報処理負荷テスト×

備考:ニューロン接続に異常が見られた。


第46回の実験レポート

情報処理負荷テスト○

機械同調テスト○

機械入出力テスト ─計測中─

備考:異常な神経活動が検知された

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